第22話:昼食の会議
結局、午前の授業で【身体強化】を使えるようになった者は二十五人のうち俺を含めて十三人。ちょうど半分が使えるようになった計算だ。
昼食は勇者学院内の食堂で四人集まって食べていた。メンバーは俺、セリカ、アンナ、エストだ。
この食堂は昼休みの一時間開かれていて、学院生なら誰でも無料で食べることができる。無料だから粗悪かと言うとそんなことはなかった。
綺麗に彩られた新鮮な旬の野菜を使ったサラダや、カロリーたっぷりの肉料理などを含む定食が注文でき、栄養バランス良し、味は最高、ボリューム満点と満足できる内容だ。
新しい勇者の養成は国の業務の中でもかなり優先されているらしい。それなら寮くらい設置してくれと言いたいのだが、少し前までは魔物の活動が穏やかになっていたせいで重きを置いていなかったらしい。
今になって寮の建設計画も出ているらしいけど、完成は数年先ということで、俺たちは関係ないとのこと。――やけにこの国の事情に詳しいエストからの情報だ。
「それにしても半分か……できれば三分の二くらいはできるようになってほしかった」
「すみません、僕の力不足で」
「半分もできるようになったら上出来でしょ? 去年のクラスなんて前期の魔法実技はずっと【身体強化】の授業してたっていうし」
「それはそうかもしれないけど、もうちょっとどうにかならなかったのかなって思ってさ」
「エストが一人使えるようにしてからは早かったわよね」
「そうですね。身近にできるようになった人がいると自信がつきますし、僕が教えた人がさらに別の人を教えられるようになりますから」
一人教えられるようにすれば同時に二人教えられるようになって、四人になって、そんな風に加速していく――教育の連鎖ってやつか。
本当は担任教師が満遍なく教えられるといいんだけど、それは無理だから俺たちが勝手にやったことだ。……だけど、途中からはかなり効率が良くなったのも確かだ。
「例えばだけど、次の授業の前にセリカとアンナ、エストだけでも理解できてたらかなり効率が上がるよな?」
「そうだと思います。ただ、僕たちが理解できていないと教えられないという問題がありますけどね」
「そうか、じゃあ教えればいいってことだな」
「……なんか変なこと考えてるんじゃないでしょうね?」
「まさか、めちゃくちゃ良いことを思いついたんだよ」
今日は一から教えたせいで効率が悪かった。でも、次の授業で最初から四人が教えられる体制が整っていたら、三時間で全員が新しいことを覚えられるかもしれない。
一年生の間の授業は全部が魔法使い志望と剣士志望で共通科目だから、これはずっと通用する。授業の進度が劇的に加速して、一か月もあれば全部網羅できるかもしれない!
全部網羅したらきっとやりたいことをやらせてもらえる。……よし、これだ。これしかない。
「三人とも、聞いてくれ。放課後みんなで集まって授業の予習をするぞ」
「言うと思ったわよ。……私はいいけどさ」
「僕も構いませんよ。というか、アウル君から直接教えてもらうと理解が早くなってとても助かります」
よし、アンナとエストからは快諾してもらえた。残るはセリカだ。彼女はさっきから話に交じらず、ボウっと何か考え事をしているらしかった。
「セリカ?」
「え、え!? なに?」
「放課後みんなで集まって授業の予習をしようって話になってるんだけど、セリカも来てくれないか?」
「アウルが教えてくれるなら望むところだよ! でも、いつもと変わらなくない?」
入学式の前からずっとセリカとは体力強化などに突き合わせている。
「かもな。まあでも、みんなでやるとなればまた違ってくるだろ」
さて、あと残す課題は……。
「場所をどこにするかなんだよな。放課後の校庭って自由に使えたっけ?」
「運動部が使ってしまうので、ちょっと厳しいですね。部活動が終わると下校しなければいけませんし……」
勇者学院は、課外活動も充実しているらしい。競技を通じて心身を強化することを目的にしているのだとか。良いことなんだけど、校庭が使えないとなると困っちゃうな。
「あっ、そうか。じゃあ俺の家に来る?」
「アウル君の家って……昨日見たあそこよね?」
「広い家でしたねぇ」
「自由に使える庭が結構広いし、ちょうどいいんじゃないか? ほら、帰りにそのまま行けるし」
「あの場所を使わせてもらえるなら私としては言うことないわ」
「僕も同感です。でもご両親に反対されたりとかは?」
「あー大丈夫、父さんと母さんは変わり者だからな」
こうして、放課後は俺の家の庭に四人で集まり、次の授業の予習をすることで決まった。
午後の授業が終わったら、早速特訓だ!