第21話:身体強化②
エストの件はさっさと問題を解決できたけど、あっちは骨が折れそうだ。
セリカとアンナ。彼女たちはいまいち『身体が強くなる』ことへのイメージができていない。
根本的に意識を固めさせる必要がありそうだ。
午前の授業時間が半分過ぎた。午前は九時から十二時までぶっ通しの三時間だから、残り九十分。残りの時間でどうにかモノにさせたい。
「セリカ、アンナ。こっちに集まってくれ」
「アウル? わかった、行くね」
「もしかしてアウルが教えてくれるの!?」
「教えるというより『気づかせる』って感じだけど、言葉の違いだけだな。……と、時間が勿体ない」
別々に練習していた二人を呼び寄せた。【身体強化】で大事なのは、何度も言うようにイメージだ。……というか、魔法は全てがイメージで決まると言ってもいい。
「まず、基本のキだけど、二人は自分が強くなった状態をイメージできているか?」
「ぼんやりとはわかるんだけど、具体的にどうなるかがわからないって言うか……」
「私って根本的に魔法が苦手なのよね。ほら、試験も剣だけで受かったようなもんだし?」
セリカとアンナには別々の問題がありそうだ。この話を聞いた限りでは、アンナの方が解決は簡単そうだな。よし、まずはこっちからだ。
「アンナ、イメージ力だと言っただろ? これは魔法であって魔法じゃない――そう思い込むことが大切なんだ。イメージするのは、得意な剣でいい。アンナは初めから剣が強かったわけじゃないよな?」
「そりゃもちろんよ! 地道に鍛えて強くなったんだから!」
「弱かった頃と今を比べて何が違う? 剣を振ったり、誰かと剣を交えたりする中で理想的な自分の太刀筋が見えてくるってのはあるが、他にも何かあったんじゃないか?」
「他には……あっ、筋力とか身体の大きさも違うかも」
ついにアンナが気づいた。ちょっと強引な誘導だったけど、彼女は性格が素直なだけに呑み込みが早い。
「【身体強化】って言うのは、言ってしまえば筋力を増強するようなものなんだ。攻撃力に関してはそんな感じの理解で、残す課題は防御力。アンナは剣の打ち合いで防御力があればいのにって思ったことはないか?」
「防御力……ちょっとズレてるかもだけど、腕を思い切り打たれた時とかは、もっと皮膚が分厚ければ痛くないのかな……とか思ったり?」
「それだ!」
俺はアンナをビシッと指差す。
「え、え!?」
「アンナは自分で見つけられたんだよ。お前だけの『強くなるイメージ』が。攻撃は筋力を増強するように、防御は皮膚が厚くなるようなイメージで。最初はそれでもうまくいかないかもしれないけど、何度も繰り返せば絶対できるようになる。だから、頑張れ」
俺はアンナの肩を掴んで、顔を近づける。彼女の顔が赤く染まった。
「アンナ、授業が終わるまでにできるようになるんだ」
「う、うん……頑張るわ」
どこか気の抜けたような返事だったけど、大丈夫かな?
アンナの様子を見ていると、さっきよりは大分イメージ力が上がっていた。ここまでできるようになっているのなら、後は時間の問題だろう。
さて、セリカ……こっちが問題だな。最悪、今日の授業のうちに出来なくても家に帰ってから叩き込んで明日までにできるようになっていれば問題ないけど……。この時間でできることはやっておこう。
「セリカには、勇者にならなくちゃいけない理由があるんだろ?」
入学試験の後、彼女は俺に『私、勇者になれますか!?』と聞いてきた。その時、俺はセリカが勇者を目指す理由を聞かなかった。
今でも聞くつもりはない。ただ、勇者になった時の自分を手掛かりに出来れば、イメージしやすいかもしれないと思ったのだ。
「私が勇者になるのは……復讐するため」
「ん? なんだって?」
あまりにボソボソと言うものだから、聞き取れなかった。
「ううん、なんでもない。……でも、ありがと。【身体強化】を使う意味がわかった気がする。これがあったら、私の目的に近づくから」
セリカは今まで見たこともないくらいの笑顔を見せた。その笑顔はいつもの明るいそれと違うような気がしたけど、多分気のせいだろう。
刹那、セリカは【身体強化】を完璧に使いこなしていた。エストが初めて成功した【身体強化】の何倍も分厚くて、濃い色をしていた。俺でも最初からこれほど完璧にはできなかった。
セリカには、強固なイメージがある。それを思い出したことで、彼女の中でストンと何かが落ちたのだ。
「私にでもできた……アウルのおかげだよ。本当にありがと」
「あ、ああ。……セリカが出来るようになってくれて、俺も嬉しいよ」
……本当にこれで良かったのか? セリカをここまでさせる強固な目的って一体何なんだ?