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第20話:身体強化①

 朝の朝礼が終わってすぐにSクラスの全員が校庭に移動した。実技に関しては校庭か、体育館ですることになっている。


 午前授業開始の鐘が鳴ってすぐに、説明が始まった。


「今日君たちに勉強してもらうのは、【身体強化】だ。一部入学前の時点で使える者もいるようだけど、基本的には使えない人の方が多いよね。【身体強化】は魔法を極めるにせよ、剣を極めるにせよ、勇者になるからには絶対に覚えてもらわなきゃいけない。身体強化に呪文は無いから、身体で覚えるしかない。僕がまず手本を見せるよ」


 マルグレット先生の身体に白い膜が発生する。俺の【身体強化】に比べれば少し膜が薄い。十秒ほどそれを維持した後、【身体強化】を解いたことで白い膜が消滅した。


 生徒たちはほとんどが「おお……」と声を漏らしている。


「今回はすぐに解いちゃったけど、一度発動すれば魔力がゼロになるまで使えるし、ぜひ皆には極めてもらいたい。……そうだ、アウル君」


 急に俺の名前を呼ばれた。……なんか嫌な予感がするな。


「はい」


「良ければ、みんなにアウル君の【身体強化】を見せてもらえないかな? 同じクラスの仲間が使えるとなれば、みんなも自信がつくと思うんだ」


「俺が【身体強化】を使えたらどうしてみんなの自信がつくのかわかりませんが……」


 ……と言っても、皆期待の眼差しで俺を見ている。――仕方ないか。俺はその場に立って、【身体強化】を発動する。


 直後に、俺の身体に白い膜が出現した。さっきの先生の見本よりずっと分厚く、濃い色をしている。これが魔力量と熟練度の差というやつだ。


「――すごすぎ! マルグレット先生より強いんじゃ!?」


「噂は本当だったのかも?」


「同じ学年とは思えねえよなぁ……」


 勉強になったかどうかはともかく、この場を盛り上げることには成功したようだ。

 俺が【身体強化】を使う様子を、マルグレット先生はジーっと見つめていた。


「アウル君は魔力量が多いんだね……羨ましいよ」


「魔力量は鍛錬の量に依りますよ」


「僕は生まれつき魔力の量が伸びにくい身体でね。人の何倍の努力をしてもこれが限界なんだ」


 そういえば勇者になれなかったと言ってたっけ。魔力量がネックになっていたのかもしれないな。

 それにしても、魔力量が伸びにくい体質があるなんて初めて知ったことだ。普通はどんな人間でも増えるんだが、世の中は広いな。


「ともかく、授業に協力してくれてありがとう、アウル君」


「どういたしまして」


 俺はその場に座った。


「【身体強化】が使えるようになるには、無詠唱魔法の使い方と似ているんだ。僕たちはイメージ力を補完するために詠唱という技を使うけど、簡単な魔法なら詠唱なしでも発動できるよね。指先に炎を灯すとかは中等学院の授業でもあったんじゃないかな。【身体強化】は自分の身体が強くなるってことでイメージすればやりやすいと思う。――まあ、僕がいくら説明したとしても最終的には実践あるのみだ。何回もトライしてみて、出来なかったら僕のところに来てほしい」


 無駄に長い説明の後、各々がその場で【身体強化】を使えるようになるべく練習を始めた。

 ちなみに俺はとっくの昔に使えるようになっていたので、やることがない。……暇だし友達の様子でも見に行くとしよう。


 まず、クラス内でもかなりの実力差があることがわかった。もう少しで使えそうな者から、まだまだ使えそうにない者まで。最終的には全員が使えるはずだけど、まずは使える人――俺の仲間を増やしていきたい。


「エスト、調子はどうだ?」


「うーん、マルグレット先生の言った通りイメージを頑張ってますが、なかなか上手くいかないって感じですね」


「俺が見た感じだともう少しって感じだけどな。方向性は間違ってないと思うぞ」


「アウル君にそう言われると自信が付きますね。本当にもう少しで出来そうな気がします」


 エストは俺と話しながら何度もトライした。そのたびにだんだんと上手くなった。でも、俺が話したことは大したことじゃない。ちょっとだけイメージの強化を促しただけだ。


「エストは攻撃力が強くなったら何をしたい?」


「物理的なものなら、剣を奮ってあの丸太を斬ってみたいですね」


「じゃあ、防御力が高くなったら何をしたい?」


「防御力……あっ、そう言えば巨人になりたいと思ったことがありますね。硬い皮脂を盾に何万の騎士と戦うんです」


「なんかよくわからん想像だが、そこまでイメージできてるなら十分だ。次でできるぞ」


「それだといいんですけどね」


 エストは微笑を浮かべると、イメージを始めた。彼の身体に薄く透明に近い白色をした膜が現れる。【身体強化】に成功したのだ。


「おめでとう、意外と早かったな」


「これが【身体強化】……感激ですよ。これもアウル君のおかげです」


「俺は何もしてないさ。エストならそのうち勝手にやってたよ」


「アウル君にそう言ってもらえると嬉しいですけど、僕だけの力じゃこんなに早く使えるようにはなりませんでしたよ。……せっかく早く使えるようになったので、何度か試した後、僕は他の生徒を教えることにします。アウル君のように」


「ぜひとも俺の代わりに教えてくれると助かるよ。手間が省ける」


 エスト一人を教えることでクラスの大半が使えるようになる――めちゃくちゃ理想的な流れだ。


 マルグレット先生は、【身体強化】を『勇者になるからには絶対に覚えてもらわなきゃいけない』と言っていた。……ということは、全員できるまでではないにせよ、大多数の生徒ができるようになるまでこの授業が延々と続く可能性がある。


 っていうか、絶対続く。こんなどうでもいいような授業よりもっと実のあることを勉強したい。【身体強化】を見た限りでは、マルグレット先生の実力は大したことはない。


 一年生で学ぶべき全ての過程をサクッと終わらせて、みんなで体力強化のトレーニングをするというのが俺の理想だ。……その第一歩として、クラスの中でも特に苦戦しているこの二人をどうにかしなければ。

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