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第14話:波乱の予感

「セリカ」


 そわそわしている彼女のもとに足を運び、名前を呼ぶ。すると彼女も俺の方に気づいて、


「アウル君……!? えっと……あっ、さっき試合見てました!」


「そうか、なら話が早い。ヒューゴの奴はひとまず今年は入学してこない。一安心ってところだな」


「アウル君にまた助けられちゃった」


「気にすることは無いって。そんなことより、合格おめでとう」


「あ、ありがとうございます……でもその、私はアウル君に比べれば全然大したことなくて、ギリギリスレスレで合格できたって言うか……」


 セリカは慌てた様子で早口に捲し立てる。


「そうか? 自信を持っていいと思うぞ。一試合目のどのブロックよりも盛り上がってたんだし、俺の目から見てもセリカは頑張ってるって思ったぞ」


「そ、そうなんですか!? 私、勇者になれますか!?」


「なれるかどうかはわからないけど、この学院に入学できたってことは頑張り次第で充分あり得るとは思うぞ」


「あっ、ごめんなさい。……その、見苦しいところを見せちゃって」


「合格できるくらい腕を磨いて来たやつは多かれ少なかれ何か事情があるんだろうしな。……セリカにも何か必死になる理由があるってことだろ?」


 俺が魔王を打倒して平和な世界を取り戻す目標のために入学したように、何かがあるはずだ。もっとも、その『何か』は人によって全然違うんだろうけど。


「えっと……」


「言わなくていいよ。言いたくないことだってあるだろうし、理由がどうあれ目指す目標は一緒なんだからな」


「……アウル君ってやっぱり優しいです」


 セリカがちょっと暗い表情になったので、慌ててフォローした。この子にも色々あったんだろう。知り合ったばかりの友人に話すには重いようなこととかな。

 余計な詮索はしない方が人間関係はよく回る――前世の経験が俺の魂に染み付いているからか、無意識に理解していた。


「話がちょっと変わるんだけど、俺たちって友達だよな?」


「多分、そうだと思います。私はアウル君と仲良くなれたらいいなぁって思ってますし、アウル君さえ良ければ……」


 よかった、俺だけ友達だと思ってて、セリカからは友達じゃないと思われてい状態が一番辛いからな。


「つまり相思相愛ってことだな」


「そ、それ多分意味違います……! 別にそれでもいいですけど……」


 ん? 意味が違うのか。アレスとリーシャがよく話していたから耳に残ってたんだけど、誤用とはちょっと恥ずかしい。


「両想いなら、その……なんだ、名前で呼び合った方が良いと思うんだ」


「名前……?」


「アウル君って言われるとなんかむずむずするというか、慣れてなくてちょっと辛い。普通にアウルって呼んでくれると助かる」


「アウル……わかりました!」


「それと、両想いなんだから、ですます調も禁止な。俺が使わなくてセリカだけ敬語だと、ちょっと気になるんだ。普通の話し方でいいよ」


「わかりまし……わかったわ! ……あ、それと両想いも使い方おかしいと思う」


 また誤用してしまったか。

 お互いがお互いのことを友達と思ってる時って一言で表すとどうなるんだ? 両想いでも相思相愛でもないってわからないなぁ。人間社会を知らなさすぎて語彙力の乏しさを痛感したよ。


 それから約一時間ほど、俺とセリカが談笑していると再集合の時間になった。

 最初に入学式の日取りの説明があった。次に、二十五名ずつのクラスが発表され、クラスごとに教科書が配布されてた。


 重い教科書に苦しむ合格者たちだが、嫌そうな感じではなく、むしろとても晴れやかで嬉しそうな表情をしていた。……こいつら、もしてかしてドMなの?


 クラスはそれぞれSクラス、Aクラス、Bクラス、Cクラスの四つに分かれている。

 この試験で抜きんでた成績を出した者がSクラスに選出されるのだが、俺とセリカはSクラスに合格していた。


 自信がないと言っていたセリカだが、俺は最初からセリカの試合に注目していた。Sクラス合格は必然だったと思う。


 今日のところはこれにて解散になり、ホームルームなどは入学式の後に改めて行うことになった。


 ◇


 ――勇者学院入学試験後の夜。

 魔王となった七人の神々は、緊急会議を行っていた。彼らが創造した特殊魔法により、暗号化した思念の通信を行うことができる。


 この中では一番歳の若いケクロスがこほんと咳払いして、


「今日、勇者学院の入学試験が行われたことは皆知っての通りである。例年であれば無視しておけば良いことだが……今年はとんでもない人間を取り込んだとのことだ」


「ケクロス、とんでもない人間とはなんだ。詳細をはっきりさせよ」


 魔王のうちの一人が訊ねた。


「情報がまだ少なくてわからないことも多いが、このまま成長すると我々すら危うくなる可能性があるとのことだ」


「我々を危うくするだと! 人間風情が調子に乗りすぎである」


「その通りだ。多少腕に自信があると言われた人間が強かった試しがない!」


 他の魔王は、完全に油断していた。……だが、ただ一人の慎重派であるケクロスだけは本能的に危機であると察している。


「しかしこのまま放置するのも良しとしませぬ。……ここはひとつ、潰しておくのが安心かと」


「では、ケクロス。貴様がその人間を潰せばいいのではないか」


「私が……ですか」


「言い出しっぺは貴様だ。やるなら貴様でどうにかしろ」


「わかりました。……近いうちに処分しておきましょう」


 会議の結果、ケクロスが勇者学院関連のことを担当することになった。慎重なケクロスは思い付きで行動しない。計画を練り、それが出来上がり次第決行すると決めたのだった。

 

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