第9話:基礎試験
基礎試験は魔力の総量を測る試験だ。
魔力は全てに通じる。剣を取るにせよ、魔法を極めるにせよ、ある程度の量が無いことには話にならない。
『奥義』のように剣技に魔法を組み合わせるものじゃなくても、剣士は身体強化を使う。
魔力の総量は勇者としての適性だと思っていい。魔力は増やすこともできるが、現時点で著しく低い者が入学しても勇者になるのは難しいだろう。
試験の内容としては理に適っていると思った。
ちなみに、Aブロックの試験官はさっきのおっさんだ。
案内された場所は、体育館。そこにいくつもの水晶が台座に乗せられている。全部で十個だ。
一次試験のブロックが二十だったはずなので、A~Jブロックが先に魔力量の測定をするということらしい。
「えー、非常に残念だが毎年この試験でおよそ半分が不合格になる。えー、そこの水晶に手を乗せれば、色が変わるはずだ。えー、変わらなければ不合格、白くなればギリギリ合格、青なら普通に合格、赤は文句なしの合格だ」
試験官の説明が終わり、順番に受験生が手を乗せていく。
俺はどうやら五番目らしい。
試験官が水晶を見て、次々に結果を伝えていく。
「赤……素晴らしいな、合格!」
「変わらず……不合格!」
「青……合格!」
「変わらず……不合格!」
本当にここまで半分が不合格になった。
この一瞬で不合格になってしまった生徒は、皆肩を落とし、とぼとぼと体育館の外に出て行った。
わざわざ王都までやってきて勇者学院を受験する生徒なら、多少は腕に自身があるはず。……それなのに半分が落ちてしまうということは、俺が想像していたより難しい試験なのかもしれない。
すぐに俺の番が来た。
俺は少し緊張しつつ水晶に手を乗せる。
なんでもいいから色が変わってくれ、頼む!
「……あれ?」
水晶は色が変わらなかった。
ちょ、ちょっと待ってよ! あんなに魔力を増やしたのに、みんなもっと多いってこと!?
「不合――んん!?」
試験官が結果を言おうとしたその時。
水晶に亀裂が入り、広がっていく。そして、パリンっと音を鳴らして破裂した。
破片が地面に散らばった。
ええええ!? どういうこと!?
強く押したりしてないのに!
「水晶が割れた……だと?」
試験官のおっさんは手元の名簿に目を落とし、
「アウル・シーウェル……そういうことか。それなら無理もない」
試験官のおっさんは俺の名前を見ると、納得したようだった。何に納得したんだろう?
「あの、水晶が割れた場合って判定どうなりますか?」
「……合格だ。この水晶は一定量以上の魔力を測定しようとすると壊れるように出来ている。……つまり、アウルはこの水晶で測定できる限界を超えた魔力を保有している……そういうことだ」
便利なアイテムがあるなと思ったけど万能じゃないんだな。
まあ、合格ならなんでもいいや。
素早く破片は片づけられ、新しい水晶が運ばれてきたので、他の受験生の迷惑にはなってないと思う。
十ブロックずつ集められたのは水晶の数が足りないのではなく、単に面積の問題だったらしい。
「アイツ水晶ぶっ壊したってよ!」
「え? それって不合格じゃない?」
「水晶の限界値を超えたらしいぞ」
「それって物凄い量の魔力があるってことなんじゃ!?」
「そんなの前代未聞だって!」
「アウルってやつどこだ!? 一度見てみたいぞ!」
「アウルってお前か!」
「ちげーよ、俺はオール!」
あ、あれ……?
なんかアウルを特定しようみたいな流れになってるんですけど!
騒ぎになっている間にAブロックの全員が試験を終えて、約半分が残った。
ここで不合格になった生徒は残念ながら一次試験を受けることすら許されない。彼らがこの学院に入学するには、合格できるだけの力を身に着けて来年受験するしかない。
「さてと」
次は校庭に移動して、的当てだ。
さすがに騒ぎになりすぎたし、ちょっと抑えめにした方が良いのかな?
でも手を抜きすぎて落ちたら元も子もないし……悩ましい。