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プロローグ:二人の神は決意する

「……こ、これは人間の子じゃないか!?」


 無精髭を生やした男が、川で拾ったばかりの赤子の顔を見て驚いていた。彼と一緒に川に洗濯に来ていた女がその声に驚いて、男の腕に抱かれている赤子を見る。


 二人の男女は神々の村に住む二人の神、アレスとリーシャである。男の方がアレスで、女がリーシャだ。


 アレスとリーシャはどちらも今年で四十歳だが、人間のような老化は見られない。アレスは金髪のかっこいいダンディという感じで、リーシャは白髪の巨乳美女だ。


「本当に人間の子じゃない! ……こんなことって今まであったかしら!?」


「少なくとも俺は聞いたことが無い。こういう時ってどうすればいいんだ!?」


「あなた、落ち着いて。……こういう時は神王様に聞いてみましょうよ!」


「そ、そうだな! それがいい!」


 神王とは、ここ神々の村の村長のようなものだ。この世界を統治する神々の長であり、頭脳明晰であることで知られる。

 二人の男女は急遽洗濯を中止して、村の果てにある神王の自宅まで足を運んだ。


「どうした、アレスにリーシャ。そんなに慌てよって」


 温厚な老人という印象を受ける神王が二人を迎えた。

 普段とは明らかに違う二人の態度に、神王は怪訝な顔をする。神王は、アレスが抱いている小さな子供に目を向けた。


「む……それはまさか」


「人間の子でございます。川で洗濯をしていたら流れてきて……ど、どうしましょうか!?」


 神王は落ち着いた振る舞いで遠くを見た。古い過去を思い出すように、ゆっくりと話し始める。


「千年前……ある人間の赤子がこの村に流れ着いたことがあっての」


「それ、詳しくお願いします!」


 リーシャが食い気味に訊ねる。


「うむ。我々とは異なる世界で数多の善行を積んだ者が流れ着くことがあったのじゃ」


「数多の善行……ですか?」


「神ですら及ばぬほどの善行を積んだ者は、この世界を支配する神……全能神の気まぐれで転生すると言われておるな。……前の転生者はこの村に流れ着いた瞬間に死んでしまいよったようじゃが」


「神王様、この子は生きていますが、それはどういうことなのですか?」


 今度はアレスが質問した。


「わしらには想像もできぬような善行を重ねた者は、多彩な才能に恵まれると言われておる。この村で生きることができる才能もその一つだったのじゃろうな」


「ただの人間がどうやってそこまでの善行を……」


「気になるならその子の魔力を探ってみれば良い。生まれてすぐならまだ前世で魂に刻み込んだ情報が残っておるはずじゃ。時間をかければ見えてくるじゃろう」


 三人は一斉に赤子に目を落とす。

 神だけが住む人里離れたこと村で、一つの不純物が混ざった状態だ。


「神王様、この子はどうすれば良いでしょうか?」


 改めてのアレスの質問に、神王は迷うことなく答える。

 まるで、以前からずっと考えていたような口ぶりだった。


「二人に二つの選択肢を与えよう。一つは、その子を下界に捨てるのじゃ。親がいない赤子が下界に捨てられれば命はないじゃろうな」


「そんな……あんまりです」


 というのはリーシャの言葉。


「二つ目は……おぬしら二人がこの子を一人前になるまで育てるのじゃ」


「私たちが……」


「……育てる?」


 二人はピンとこないようで、首を傾げた。


「おぬしらは子宝に恵まれんと聞いたのう」


「おっしゃる通りです」


「子宝に恵まれず悩む二人の前に人間とはいえ子供が流れてきたのじゃ。全能神が恵んでくださった子宝だと思い、育てるというのもありなんじゃないかとわしは思うのう」


「な、なるほど……さすがは神王様です」


「子供を育てられるなんて夢みたい……!」


 アレスとリーシャは顔を突き合わせ、同時に頷いた。

 彼らは決めたのだ。人間の子を、我が子として迎えて、一人前に育て上げると。


「決まったようじゃな。皆に紹介しなければならんのじゃが……しかしその前に名前が必要じゃ。アレス、リーシャ。この子の名前を決めるのじゃ」


「名前……」


「ちょっといきなりすぎてすぐには……」


 神王の話を聞くまで名前なんてまったく考えていなかった。突然の無茶ぶりに二人は頭を悩ませる。


「決められんのじゃったらわしが決めよう。この子の名前は――」


「ちょ、ちょっと待ってください! この子の名前は――」


 アレスが神王の言葉を強引に遮り、二人同時に叫んだ。


「「アウルです!」」


「ふむ、アウルじゃな。……それにしても、二人同時とは驚いたのじゃが」


 神王は直前まで名前に悩んでいた二人が同時に同じ名前を言ったことに驚いていた。ありふれた名前ではないし、普通は被らない。


「私とリーシャは以前に子宝に恵まれた時に付けたい名前を語り合ったことがあります。それを思い出しました」


「なるほどのう。我が子として育てるという覚悟、しかと見せてもらったのじゃ。これから大変になるじゃろうが、困った時は近所の者を頼るとよい。皆暇じゃから助けになってくれるじゃろう」


 神王が村を上げて人間の子を育てることを支援すると言ったのだ。人間の子を育てるという誰も経験したことが無いことだけに、二人にとってそれはとても頼もしく感じられた。


「神王様、ありがとうございます!」


「この子を立派に育て上げてみせます!」


 それから、三人は村に住む神々を集めてその赤子を紹介した。

 反対する者も少数ながらいたが、ほとんどは「神王様がそう言うなら」と歓迎してくれたのだった。同時に、アレスとミーシャは祝福された。


 生まれたての赤子は世話がかかる。昔に人間から聞きかじった情報をもとに子供を育てる日々が始まったのだった。

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