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第9話 謎の美少女

「あの、エニル様。俺あんまり持ち合わせがないんですけど」

「何じゃお主。ヘタレな上に甲斐性も無いのか?」

「わたしはー、甲斐性無のヘタレでもー、気にしませんよー」


人の事を散々けなしつつも、二人は楽し気に服を手に取り。

似合いますかー、等と聞いてくる。

正直人並外れた美貌を持つ――レルについては少々納得できないが――二人は何を着ても似合う。


だから安物で済ませてくださいと頼んだがスルーされた。


このままでは冬越えの貯蓄を二人の放蕩で吐き出す羽目になりかねない。


「いや、ほんとマジでないんですよ」

「ちゃんとわかっておる。1着ずつなら問題無かろう?」


1着ずつでも問題大ありだ。


ここはブティック・リクタッボ。

パーナスの中央地区に居を構える高級店だ。


棚に並んである品はどれも一級品で。

靴下1セットに、3日は暮らしていける値段の書かれたタグがぶら下がっていた。


そんな高級店で楽しそうに色々な服を手に取りはしゃぐ二人を見て思う。

マジ勘弁して……と。



公園のベンチに両手を広げてもたれる様に座り込み、空を眺め呟く。


「あいつら何しに来たの?」


二人は高い買い物を済ませると、もう用はないと言わんばかりに転移魔法でさっさと帰って行った。


「はぁ、マジ勘弁してくれよ」


革袋からお金を取り出し、数を数える。

足りない。全く足りない。

冬を越すどころかぎりぎり1週間生活できるかどうかだ。


可及的速やかにお仕事(クエスト)をこなさなければ、待っているのは餓死か。

もしくは、犯罪に手を染めるかの二択しかない。

勿論世界を救うためにこの世界に来た俺に後者を選べる分けも無く、実質一択だった。


お仕事(クエスト)さえこなせれば……」


二人が帰った後速攻でギルドに戻り、ボードから適当な依頼書を引っぺがした所で気づく。即死魔法を覚えはしたが、よくよく考えてみたら魔石の回収は結局できない事に。


結局以前と殆ど状況が変わっていない。

むしろ貯えをごっそり持っていかれた分、遥かに悪くなったと言える。


「せめてトレントの依頼が残ってさえいれば」


たられば話を再び呟く。

トレントの討伐以来は残念ながら残っておらず、今年も後10日足らずで終わる事を考えると、次に依頼が舞い込むのは来年以降になるだろう。


果たして俺は生きて新年を迎えられるのだろうか?


そんな事を考えながら溜息を一つ吐き、空を再び見上げる。

そこにはもう夜のとばりが降り始め、薄っすらと星が瞬いていた。


「お兄さん、黄昏てるけどどうかしたの?」


急に声をかけられ驚いて前を向くと、すぐ目の前に綺麗な女性の顔が。


ちかっ!

ていうかいつの間の近づかれた!?


まったく気配もなく目の前に現れた女に面食らい、固まっていると。


ちゅっ。


「ふぁ!?ななななななななにを!?」


いきなりキスされた。


「ふふ、お兄さん可愛いからキスしちゃった。どうする、付き合っちゃおうか?」


少し照れたように頬を染め、はにかみながら目の前の女性はとんでもない事を言い出す。突然の事に頭が真っ白になり、声にならない声で口をパクパクさせていると、女が俺の腕を引っ張り立たせた。


「あたしの名前はティア・シトス。ティアって呼んで」

「う、あ。お……おれの名前は――」

「知ってるよ。じゃあ再会を祝してご飯食べにいこっか」


俺の名前を知ってる?

再会?

自分には見覚えが無いが、どこかで会ったことがあるのだろうか?

正直こんな美人、一度見たら絶対忘れないはずだが。


「お勧めの店があるんだー」


そう言いながら女性は俺の腕を掴み強引に引っ張っていく。

腕に当たる柔らかい感触に負け、ついつい振り払えずに引っ張られてしまうが。

このままでは不味いと思い、足を止める。


「どうしたの?」


振り返り不思議そうに小首を傾げるシェリーに、俺は男しては最高に情けない理由で断りを入れる。


「あの、俺金ないんで。食事とかちょっと」

「なーんだ、そんな事なら気にしなくていいよ。あたしが奢ってあげるから」


まじか!

笑顔で此方にウィンクを飛ばしてくるシェリーが、俺の目には女神に見えた。


あんた誰?とか。

いきなりキスして痴女なのか?とか。

何で気配を殺して近づいて来たんだ?とか

色々と疑問符はあるが、食費が一食分浮くことに比べたら些細な事だ。


「ごちそうになります!」


こうして俺の余命は半日伸びた。

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