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第7話 思い込み

魔女エニルは言う。

魔法は思い込み(イメージ)だと。


思い込み(イメージ)に魔力を籠め、世界に干渉する力。

それが魔法であると。


それ故に、魔法は人の思いの数だけ存在し。

無限の可能性を内包する。




薄っすらと開く瞼の隙間から、ぼんやりと顔の輪郭が映り込む。


女神様?


重い瞼をゆっくりと持ち上げる。

すると次第に目の前の人物の顔がはっきりとしてくる。


「なんだ、タヌキか」


目覚めたらタヌキのドアップだった。


「おめざめですかー。あとー、タヌキじゃなくてーレルですー」


人の事はヘタレ呼ばわりする癖に、自分はきっちり名前を言わせようとか厚かましいタヌキだ。

それにしても何だか頭の後ろがゴワゴワする。


「ひょっとして膝枕か?」

「そうですよー。気持ちいいでしょー」


むしろゴワゴワしてて気持ち悪い。

こいつどんだけ毛並み悪いんだよ。


ん?


顔の横を、何か小さなものが跳ねるのを視界の端で捕らえる。

気になったので視線を横に這わすと、再びゴマの様な物が飛び跳ね顔に付ついた。

反射的にそれを指で摘まんで確認すると。


「うわ!蚤じゃねぇか!」


指で摘まんだそれを投げ捨て、勢いよく起き上がり。

レルから離れ、頭や体を払う。

そんな俺の突然の行動を理解できないのか、レルは不思議そうに聞いてくる。


「どうしたんですかー」

「どうしたも何も、お前蚤がいるじゃないか!」

「えへへー」


いやえへへーじゃねえよ。

後よく見たら、何故かレルはスク水の様な紺の水着に着替えていた。

凄く気にはなったが、あえてスルーする。


「ノミさんはー、私の事が大好きなんですよー。レルー、モテて困っちゃいますー」


レルは両手で顔を挟みくねくねする。

どうやら照れた時にする癖の様だ。


嬉しそうにしているレルに言うか迷う。

その好きはハンバーグや目玉焼きに対する好きと同種であって、決してモテている訳ではない事を。


「なんじゃ。お主等楽しそうじゃのう」

「エニルさまー、聞いてくださいー。ヘタレさんがー、蚤さんにー。焼き餅焼いてたんですよー」


立ち上がり、どすどす音を鳴らしながらエニルに駆け寄ったタヌキは、あろうことかとんでもない法螺を吹きだす。


「ほほう、蚤に焼き餅ねぇ。時にレル」

「はーいー」

「蚤とはどこにおるんじゃ?」

「えへへー。わたしのー全身にですー」


エニルの質問に対し、腕を広げてくるりと周ってから答える。

タヌキの行動は理解不能な物ばかりだ。


「ほほう、全身とな」

「モテる女はー、辛いですー」

「そうかそうかー大変じゃのう。所で最後に風呂に入ったのはいつじゃ?」


レルが顎に人差し指を当て、首をかしげる。

その状態のまま30秒ほど、うーんうーんと唸り。

やっと思い出したのか、掌に握りこぶしを水平にポンと叩き付け口を開く。


「つい3ヶ月前ですー」

「ほほう、つい三ヶ月ときたか」

「あとー、もう3ヶ月はー、大丈夫ですー」


全然大丈夫じゃねえよ。

こいつ半年も体洗わない気か?


「ふむ、レルよ」

「なんですかー」

「ここで私の即死魔法を受けるのと、風呂。どっちがいい?」

「蘇生はー、していただけるんですよねー」

「せんよ」

「お風呂にー、いってきまーす」


そう言うや否や。

レルの体を魔法陣が包み込み、次の瞬間その姿が消える。


あいつ蘇生して貰えるなら、風呂入るより即死魔法の方を選ぶのかよ。

どんだけ風呂が嫌いなんだ?


即死魔法は体にダメージが発生するわけではない為、痛みはない。

だが死ぬ瞬間凄まじい不快感に襲われる。


それよりも風呂が嫌ってどんだけだよ。


「タヌ……あ、いや。レルって転移魔法使えるんですね」

「タヌキでよいぞ。まあ、あれでも一応私の使い魔だからな」


まあ見た目はタヌキでも、流石ドラゴンといったところだろうか。


「さて。もう十回以上は死んでおるし、そろそろお主も使えるようななったころじゃろう」


エニルが言うには。

感覚さえつかめればそこからイメージを想起し、それに魔力を載せて相手に放てば魔法は完成らしい。


呪文などは集中力を高めたり、言葉で発する事でイメージを高めるための補助でしかなく。きっちりイメージ出来るなら、それらは別段必要ないそうだ。

最初に彼女がゆっくり詠唱していたのは、魔法といったものがどういう物か俺にイメージしやすいよう、使って見せただけらしい。


「ではレルが戻ってきたら、早速あやつで試してみるとよかろう。ついでに蘇生魔法も試してみるがいい」


折角風呂に入っても、結局即死魔法の実験台になるのか。

哀れなタヌキに合掌。


「ところで何でスク水なんですか?」


タヌキ同様、何故かスク水を着ているエニルに質問する。

スルーしようかとも思ったが、それはそれで彼女の機嫌を損ねかねないので、一応聞いてみた。


「んむ。趣味じゃ」


趣味ならしょうがない。

とりあえずタヌキが戻って来るまで、目の前のスク水少女を堪能するとしよう。


眼福眼福

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