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第32話 勇者を倒す勇者

「ここが異世界か!腕がなるぞぉ!」


だだっ広い平野のど真ん中で青年が両手を上げて怒鳴る。

どうやら今度の勇者はかなり面倒臭い感じの奴らしい。


「張り切っているところ悪いんだけど、いいかな」


「うお!?誰だあんた?」


「俺は彩堂たかしって言うんだが」


「彩堂たかし!?お前が悪の魔女の手先の!!」


まあこの世界の支配者である女神からすれば、そうなるだろう。

今俺はエニルの手伝いをしている。

この世界を守るために。


「君、女神の目的は聞いて居るのかい?」


「勿論知っているさ!何せ俺は勇者だからな!」


一々叫ばなくても聞こえるんだが……

無駄にテンション上がり過ぎだ。


「この呪われた世界を正常な形に戻す。その為に俺はこの世界を汚す魔女を成敗しに来た!」


「それってこの世界を破壊して作り直す事だけど、理解してる?」


女神の目的は、飽きたこの世界を作り替える事だった。

当然そうなれば今有る世界は消滅してしまう。

それを防ぐ為にエニルはコアを奪い堕天使たのだ。


「破壊?むぅ……」


青年が少し考え込む。

だが直ぐ答えに到達したのか、再び大声を張り上げた。


「神様がそこまでするなら、きっとこの世界はそれだけ穢れているって事だ!おれはこの世界の為に――」


少年は言葉が途切れ、その場に倒れ込む。

俺は彼を担ぎあげた。


何故彼が倒れたのかって?

勿論即死魔法だ。

最近は絶好調で、勇者相手でも100発100中で決まる。


「さて、連れて帰るか」


転移魔法で家に変える事にする。

蘇生はそこでしてやるとしよう。


今の俺の仕事は2つ。

一つはこの世界へと女神が送り込んだ勇者を説得する事だ。

可能ならこの世界を見せて考えを改めて貰う。

それが俺の仕事だった。


もう一つは勇者の始末だ。

可哀そうだが、此方の言葉に耳を貸さない。

もしくはこの世界を見ても考えを変えない奴には、悪いが死んで貰っている。

世界を守るって事は綺麗事じゃないからな。


「ただいま」


「「おかえりー!」」


妻達が俺に駆け寄って来る。


「たかしー、あたし寂しかったぁ」


30分も離れていなかっただろうに、困った奴だ。

坂上……いや、ティアが甘えてすり寄って来る。

情けない話だが、エニル流男殺しはとんでもない破壊力だった。


何せ坂上が俺を落とした程だ。

そう言えばどれ程の効果か分かってもらえるだろう。

今ではもう、元男と言うのも全く気にならない。

エニル恐るべしだ。


「たかしさんー、バッタですよー」


だからどうした?

レルが嬉しそうにバッタを俺のほっぺたに押し付けてぐりぐりしてくる。

草くせぇ。


当然エニル流を習ったレルにも俺は落とされている。

案外俺はちょろいのかもしれん。


「その人が新しい人ですか?」


プリンが特性スープを手に、新人勇者を覗き込む。

彼女のスープは絶品で、勇者説得のある意味切り札と言っていい。

なにせこれまで来た2人は、両方ともこのスープを飲んで感激して改心しているからな。


勿論プリンとも結婚済みだ。

無節操と思われるかもしれないが、好きになってしまったものはしょうがない。


「じゃ、起こすとするか」


蘇生魔法を掛けて青年を起こす。

そして、目を覚ました彼に全員で声をかけた。


「「「「ようこそ!異世界へ!」」」」


俺はこの世界を守る。

勇者ではなく、この世界に生きる一人の人間として。

この極めた即死魔法で。

大分間が開いてしまいましたが、ここでこの物語は完結となります。

お付き合い有難うございました

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