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第20話 ぎゃふん

「いやーいい景色だわー。絶景よねー」


坂神が眼下に広がる山々を見渡し声を上げる。


確かに絶景だ。

一々口にこそ出さないが、そこは同意せざるを得ない。


「えへへー。凄いでしょー」


その坂神の声を耳にし、レルが自慢げに答える。

タヌキが無駄に偉そうなのは、ここが彼女の背中の上だからだ。



パーナスの東側には、峻厳な山々が連なる山脈がある。


その遥か上空をレルは飛行しており。

俺達3人は、そんなレルの上で快適な上空の旅を満喫していた。

いや、正確には2人か……

俺はプリンの方へと視線を移す。


プリンはレルの背中の中央辺りで小さく丸まり、プルプルと震えている。


「大丈夫か?」

「ダ……ダイジョブデス」


声をかけると、青い顔をこちらに向け心配ないと返事をするが、とてもそうは見えない。どうやらプリンは不安定な上空が苦手らしく、パーナスを発ってからここまでずっとこの調子だ。

レルは全身を結界の様な物で覆われている為、その背中は快適で、突風などで振り落とされる心配は一切ないのだが、それでも駄目らしい。


「プリンちゃん!女は度胸よ!さあ、立ち上がって!逆立ち勝負よ!」


俺がプリンを気にしているのが気に入らないのか、坂神が少女へ無理難題を吹っかける。


「おい、坂神。子供虐めんなよ」

「彼女は子供である前に私の恋のライバルよ!あと私の名前はティア!」


何がライバルだ。

将来プリンとはひょっとしたら恋仲になる可能性も0ではないが、坂神に関しては確実に0だ。

そういう意味で、お前はライバルとしての土俵にすら立てていないぞ。


と、思ったことを丸々口にしたかったが、それをするとプリンへの風当たりが一層強くなりそうだからやめておいた。


「ライバルなら、相手が弱っているような所を狙うような卑怯な真似はやめろ」

「恋愛は戦争よ!綺麗事だけでは勝ち抜けないわ!」


駄目だこりゃ。

坂神の説得を諦め即死魔法で黙らせる。


「甘いわよ!」

「何!躱しただと!」

「ふふふ、そう何度も同じ手は食わないわよ!私を黙らせたければ、その唇で塞ぐことね!」


どさくさに紛れてとんでもない事を要求しだす。


「仕方ないな、目瞑れよ」

「う、うん」


素直に目を閉じ、軽く唇を突き出す坂神。

俺はそんな彼の背後に気配を殺して回り込み、後ろから両腕を使って頸動脈を絞める。ぐぇっと言う叫びと共に暴れようとするが、全力で抑え込み締め落とす。


「寝てろ」


全く迷惑極まりない男だ。

静かになった坂神を適当に転がし、レルに声をかける。


「おいレル。まだ着かねーのか?」

「もうちょっとですよー。あのー、大きな雲の中ですー」


前方の大きな雲へと目をやる。

どう見ても只の雲にしか見えないが。


「雲の中に城があるのか?」

「そうですよー」


空に浮かぶ城、アイスクイーンキャッスル。


氷の女王と呼ばれる精霊が支配し、雪の精霊たちが住まうとされる幻の城。

それが今、俺達の目指している場所だ。


「プリン。もう少しの辛抱だから我慢してくれよ」

「わ……わたしは大丈夫ですから。気にしないでください」


責任を感じてか、恐怖を我慢して付いて来てくれるプリンに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「はぁ……情けねぇ」

「ほんとーですー」


思わず口を吐いたぼやきをレルは聞き逃さず、此方の傷口を抉るかのように言葉を続ける。


「あんなー魔王程度にー、いいようにーボコボコにされるなんてー。ヘタレさんはー、本当にヘタレさんですねー」

「ぬぐぐ」


普段なら迷わず蹴り飛ばしてやるところだが、レルに命を救われた身としては我慢せざる得ない。

そんな此方の心情を好機と捉えたのか、レルは言いたい放題言葉を続ける。


「レルがー駆けつけなかったらー、絶対ー死んでましたよー。首がーちょんぱされてー、持って帰られたりしたらー、蘇生もーできませんでしたからー」

「ああ、感謝してるよ」


全くしつこい奴だ。

この話は既に10回は軽く超えている。


「本当ですかー。だったらーこれからー、たかしさんはーレルの三助ですー。やったー」

「お前風呂嫌いじゃなかったか?」

「レルが嫌いなのはー、体を自分でー洗う事ですー。下僕にー洗わせる分にはー問題ありませんよー」


野生の動物は体が濡れるのを嫌うって言うからその関連かと思ってたが、ただの生臭じゃねぇか。

まあ命を救ってもらったお礼がその程度なら安いものだ。


ただし


「まあ、エニルに確認してOKが出たら三助でもなんでもやってやるよ」

「ええー、それは不味い……じゃなくてー。わざわざー、エニル様のー手を煩わせるまでもないと思いますー」

「お前はエニルの配下だからな。俺が勝手に何かするわけにはいかないんだ。ちゃんとエニルに確認しないとな」

「ぬぬぬー。へたれさんはー、小賢しいですー」


恩に着せて人の事を顎で使おうとしてた奴に言われたくねぇよ。


魔王との戦いで死にかけてた俺を助けてくれたのはレルだが。

そもそも俺を救うようレルに命じたのはエニルだからな。


エニルには借りをちゃんと返せよとニヤニヤ面で言われているが、それはあくまでエニルに返せという意味だ。

タヌキが勝手に要求していいものじゃあ決してない。


「まあ、欲張らず精々謙虚に生きる事だ」

「むうー。いつか絶対ー、ぎゃふんとー言わせてやりますからねー」


その程度の願いなら叶えてやるさ。

何せ命の恩人だからな。


「ぎゃふん!」

「やったー。悪は滅びましたー」


などと馬鹿げたやり取りをしている間に、俺達は雲へと突入する。


~result~《最終結果》


レルに集られそうになったが華麗に撃退。

でも可哀そうなのでぎゃふんと言ってあげました。

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