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赤いコート、サクソフォン、修復




 父 3


「二階の部屋から足音が聞こえる……。あの子らがまた一緒になったのは、つい今朝のことだというのに。そして太陽が沈むまで、ふたりともしんみりしていたというのに ――。今朝、はじめてあいつを見かけたのは俺だ。休日の日課で、俺が散歩をしていたときだ ―― 木々のあいだからの光が差しこんで、端っこに、あいつは現れた ―― 派手な都会風の赤いコートはすっかり汚れていた ――。それなのに……、泉美は今朝はじめてあいつを見かけた俺をとっくに追い越してしまって、あいつとの、姉妹の仲を修復したんだ。……あの子らの部屋にはもう入れない ―― それは、曖昧でひどく抽象的なたとえ話のように思っていたけれど、ほんとうははっきりとした真実で、まるで物理法則に基づいているかのような気が今ではしていて……、俺はほんとうに、足の筋肉が動かないのだ。……あの子らの歌うのは昔の流行歌だ ―― ママや俺と違って、あの子らには別の意味があるんだろうと、ふと思った ――。思えば、あの子らは昔からふたりの部屋で歌っていた。歌詞もメロディもすぐに覚えてしまった。いつしか俺のオーディオは子供部屋へと引っ越して ―― あの曲は後奏が長い。しかも、まるで後奏が主役であるかのように、しだいに激しさを増していく。歌詞のないドラムとビートの世界にサクソフォンがうなりをあげて、ふたりのおどる足音も激しさを増していく。そして ――、ああ、あの子らは父親の理解のおよばない部屋にあって、ふたりでひとつを、また実現させたのだ……」







 泉美と蘭 5


「ねえ、蘭」

「なに、泉美」

「……」

「……なに、って」


「私たち、ほら」

「ほら?」

「ほら、ね……」

「ほらじゃわからないわよ」

「ほら、笑ってる」


「……そうね、笑ってる」

「笑ってる」


「……急に帰ってきたけど」

「ううん」

「良かった?」

「良かった。……あの日、ほら、蘭が出てっちゃった日さ……」

「……」







 泉美 4


「蘭が出てっちゃった日 ―― なにがきっかけだったのか、今では覚えていないけれどね。でも、ほら……、あなたが出ていったのはさ、もしかしたら、私のためだったんじゃないの? ―― だって、ほら ―― そう思わない? 私たちは、ひとつがふたり ―― みたいなものだからさ、きっと、蘭が先に行動を起こさなかったら私が行動を ―― そう、出ていっていたと思うのよ。……なにがきっかけだったか、今となってはもう、そんなことどうだっていいんだけど、ほら、大事なのはそこじゃなくってね ―― 大事なのは、私たちのうちひとりがこの家を出ていったってこと。そして、また戻ってこられたってこと ―― ね、ほら……、そう思わない? ……」


「……」













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