ふたりでひとつ、ひとつがふたり
泉美と蘭 4
「……泉美」
「ん?」
「なに考えてる?」
「今?」
「そう」
「……ママのこと。蘭は?」
「私は……、パパ」
「私たち一緒ね。ほら、いつも考えてる、同じこと」
「ほんと。いつも、いつだって……、ね」
泉美 3
「私たちは、いつも同じようなことを考えてる ―― 正確には違う。どこが違うのかって、それは些細なタイミングとか、ちょっとした分かれ道とか、そういうところ。例えるなら、ほら、コロンブスの卵、っていうことばがあるでしょ。簡単なことでも初めてやった人はすごい、っていう意味のことば。でも、私たちにとって肝心なのは、すごいかどうかじゃなくて……、つまり、ほら……、私が卵を立てる方法を思いつくのと、蘭が同じことを思いつくのと、そのタイミングが違うってことなのよ。タイミングが違えば、とうぜん未来も変わるでしょう。それが私たちを隔てる唯一の要素で……」
蘭 3
「泉美がなにを考えてるのか、わからないときがある。でも、私たちは結局、同じようなことを考えてる。だってそうでしょ……。ふたりでひとつだ ―― なんて、昔っから言われていたし、私たちも言っていたけれど、じつはそうじゃなくて ―― どちらかというと ―― 私たちはふたりでひとつなんじゃなくて、ひとつがふたりになっちゃってる。あのときの私が泉美だったら、別の選択をしていたのかもしれない ―― そう思えることもあるけれど、たとえそのとおりだったとしても、それは些細な違いによって引き起こされるものだから ―― 例えば、空気中の酸素濃度がちょっと違っていたとか ―― 私たちの違いっていうのはそんなところでしかなくて、だから、なにを考えているのかわからないと思ったことも、後から考えれば合点がいくというか……、とにかくなんであれ、私もいつかは同じことを考えるはずで、もしくはすでにその道は通っているはずで ―― ちょっとした違いが私たちを隔てる。だからほら、それが本質的には同じことなんだって気づくまでに、時間がかかったりもするのね……」