03.湖畔でぼっちキャンプ
キャンプ場についた。
昼に受付で挨拶したときに聞いていたが誰もいない。
貸切だ。
こんな雨の中、雨用のテント台や盛り土が無い場所は避けるのだろう。
外灯のない湖畔のテントサイトに向かって、バイクをゆっくり走らせる。
ライトに照らされキラキラ輝く水浸しのテントサイト……
幻想的だがまったく気持ちが踊らない。
そんな茶色い海原を切り裂き、波を立てながら進んでいく。
ココなら沈まないといった場所をさがす。
水が流れ込んでいない場所。
「わずかな膨らみでいい……」
「小さくたってかまわない……」
「何も手にできないより、はるかに幸せだ!」
「見つけたぜ!」
最初にタープを建てる。
まずは目測でペグを打ち込む。ヤバイ、俺、カッコイイ。
正面以外の5箇所を30cmほどの短いロープで固定する。
正面のみ。150cmのポールを使いロープで固定。
その中でテントを建て、奥へと押し込む。
デカデカとサイトを占有しないスマートな俺。
ポールとロープも減らせる。
ここまでの作業を10分で完了。
テントの中でエアマットを膨らませる。
これには小型の空気入れを使う。
バイクにはライトの下に細長いバッグを付けている。
これにはパンク修理に使う工具などが入っているのだ。
「メガネレンチ付きのタイヤレバーと簡易スタンド……おまえたちには何度も救われたな」
タイヤにしろエアマットにしても、空気入れは小さいので100や500はシュコシュコがんばる。
息を吹き込んで中に水が溜まるのはイヤナノダ。
膨らんだら、エアマットの上に箱の中から荷物を出して並べておく。
アルミ製特大調理バットを緑の箱の上に置く。
これが俺のテーブルだ。
テーブルはタープのポール近くに移動。
タープのポールにLEDのハンドライトを取り付けて、テーブルを照らす。
背もたれ付きのイスを組み立てる。
雨合羽の下を脱ぎながら腰掛け、真っ黒な湖面を眺める。
「何もない、いい景色だ」
食事の準備を始めよう。
5リットルの水バックとタオルを持って水場へ向かう。
ついでにトイレに寄る。
トイレまで実際に歩いて足元を確認。コレ大事。
水場で顔を洗う。
誰もいないので上着を脱いでタオルを濡らしてさっと体を拭く。
ワイルドな俺。
親指を立てる。
フラッシュが光る。
タイマーをセットして撮った。
背後の雨粒がキラキラ光って余計な演出が入っている。
「ハズカシキモイ!」
キャンプ場に温泉やシャワーがあれば使うこともある。
しかし、蒸し暑い夏の雨。
気持ちいいのは外にでるまでのわずかな時間。
カッパを着て歩いてテントにつく頃にはガッカリだ。
テントに戻ってシングルバーナーのコンロをテーブルに乗せる。
吊り下げ用取っ手のついた、炊飯用アルミ鍋に水を入れコンロに乗せる。
炊飯鍋だがご飯を炊いたことはない。湯沸し専用だ。
箸は割り箸、皿は無し。
洗うのはコーヒーを飲むマグカップだけ。
それも残り湯をしみこませたペーパータオルで拭くだけ。
洗剤とかスポンジなんか無い。
鍋の湯が沸騰したら豚カルビ丼とパックのご飯を入れる。
ごはんの暖め時間15分。
長いが、しっかりムラ無くおいしく炊くには大切な時間だ。
「いただきます」
「ごちそうさまでした」
食事の後といえばコーヒー。
小さなクッカーで湯を沸かす。
マグカップにセットしたドリップバックへと湯を注ぐ。
雨でボツボツと激しく打ち鳴らされるタープの中。
暖かく湿った空間にコーヒーの香りが広がる。
充満してちょっとむせた。
今日は風が無い。
キャンプで強風は何もできなくなるので最悪だ。
雨はいい。
テントが水没しなければ。
ちょっとだけ焚き火をする。
自作の焚き火台。
小型の調理バットにアルミホイルを巻いただけ。
燃やすのは、近所で拾った小枝。
台風のときは大物も手に入る。
コンロの火で小枝を燃やして着火する。
小枝が燃える調理バットを火を消したコンロに乗せる。
裏側のアルミホイルをコンロの足に絡めれば風で飛ばされない。
ポールに付けたハンドライトを消して炎の明かりごしに湖を眺める。
真っ黒な空間で焚き火の炎だけが輝いて見える。
神社の石灯籠を思い出した。
限られた日時でしか見られない貴重な現象。
「あれは、すごかった」