02.不思議なぼっちお参り
「どんより曇った空の下」
思わず口にする。
俺の好きな言葉だ。
木で作られた古い鳥居をくぐって目の前の階段を見つめる。
コンクリートだが、風雨で劣化し表面がはがれていた。
むき出しになった砂利の見えるへこみには水が溜まっている。
隅のほうは黒に近い緑色のコケにおおわれている。
階段の両脇は草木が生い茂って、手すりなど存在しない。
俺はゆっくりと階段を昇り始めた。
十段ほどで踊り場があった。
「まだまだ先は長そうだ」
五つ目の踊り場について先を見る。
両脇の草木が階段の中ほどまで覆っている。
「失礼します」
そう声にしてから、階段の真ん中を昇っていく。
十以上の踊り場を過ぎた。
雨が弱くなり明るくなっている。
少し休んで息を整えてから再び階段を昇る。
「帰りは何段あるか数えよう」
そんなことを口にしながら足を進めた。
誰もいないところでは声を出して行動する。
いろいろなものが出てこないように。
「まだか、まだなのか」
腰を曲げ膝に手を乗せて立ち止まり、目を閉じ息を整える。
腰を伸ばして目を開いて空を見る。
いつのまにか雨は止んで、雲が赤みを帯びていた。
「さすがにここまでか」
そう口にして先を見つめる。
目にしたのは木々の隙間から差し込む光。
そして、その先には赤い夕日に照らされた大きな社殿があった。
本を開いて上から見たような屋根をした造り。
しめなわも大きい。
こんな場所にこんな立派な社殿とは予想外。
立っている場所からなんとなく右を見る。
手水舎もある。
そばに寄って見る。
何かいそうな黒い水たまりになっている。
「淀んだ水には不浄が宿る」ということにして触れない。
もとの場所にもどる。
社殿の方へ数歩進む。
左側に石灯籠があった。
石灯籠の裏には道があるかのように草木が少ない。
こういった場所には車で登ってこられる道があるはず。
たぶんソレだろうと石灯籠の先へ足を進める。
道は無かった。
引き返そうと振りむいた。
「うわっ!」
目の前が光に包まれた。
視線の先に石灯籠は無かった。
正確にはあったが見えなかった。
見えたのは真っ赤な太陽の光。
まぶしくてまぶたを閉じ、視線をそらし、しゃがみこんでいた。
だが、すぐにゆっくりと手をかざしながら立ち上がる。
見なおすと、石灯篭の窓から真っ赤な太陽が見えた。
石灯籠の窓を通さずに見た太陽は黄色く見える。
窓を通して見える太陽は真っ赤だ。
「不思議だ」
石灯籠の窓から見える太陽は、徐々に光が弱くなっていく。
よく見ると、もう一つの石灯籠の窓を通して見えていたことに気がついた。
こんな状況に出会えるなんて滅多に無い。
そう感じ、写真を撮る。
だが、すでに太陽は窓から外れていた。
撮れた写真は石灯籠の窓から先の石灯籠を撮っただけ。
あの光景は記憶だけだ。
しばらくぼーっとしていると太陽が沈みかけていることに気がついた。
お参りをしようと社殿の前に進みながら財布を出す。
「小銭が無い」
コンビニで使いきったのを思いだした。
あるのは札……
「ごめんなさい」
そう思いながらお参りする。
その後、写真を数枚撮って階段の前に立つ。
生い茂った草木に覆われた階段はすでに暗くなっている。
しかし、あわてることはない。
こんなこともあろうかと、いつもLEDのヘッドライトをポーチに入れてあるのだ。
ポーチからライトを出して頭に装着。
足を開いて腕を伸ばし、ひじを曲げたり、まわしたり……
いや、さっさと行こう。
足元を照らしながら階段をゆっくりくだる。
鳥居をくぐり抜けたときには、すでに日が沈んで雨も激しく降り出した。
「よし、戻ろう」