第5話 vsフォーゲル
ダークエルフ族の少女が、地面に降り、ライの前に姿を現した。
「妖精族の戦士は滅多に人前に姿を現さない、ってね。私の名前はフォーゲル。バルト=フォーゲルよ。」
金色に輝くサラッとした長髪。森に溶け込むよう設計された戦闘服によって、彼女のスタイルの良さが一層際立つ。どこか未熟さが残る顔立ちに、木漏れ日が射す。
「……お前に降りてこいとは言っていないのだ」
「なっ……さ、さっき合図を……」
「クロエが殺るから手を出すな、という意味なのだ」
「……」
「まあいい。やるぞ、あいぼう」
フォーゲルは弓を張り、クロエは地面に片手をついた。
「おいおい、2対1かよ」
ライも応戦の体勢を取った。
「まずは……お前だ、妖精族」
地面を蹴り上げ、赤い稲妻がフォーゲルを襲う。
顔面に向かって飛んでくる矢を素早い転身で避け、そのままフォーゲルに向かって殴りこむ。
なんとか拳を受け止めたフォーゲルは、後ろに飛び、ライと距離を取った。
「へえ……速いねえ。しかし、スピード勝負で負けるわけは……」
フォーゲルの姿が、消えた。素早い反射神経で、右方から飛んでくる矢を避けた。しかしーー
「いかないわよ!」
矢を追うように、フォーゲルが目の前に現れた。握られた矢は、今、近距離武器と化し、フォーゲルを襲う。
「ちっ」
右肩に、浅い傷跡が残された。
「……確かに、スピードはお前の方が上だ」
トンッ、トンッ、と、足を慣らす。二つの拳を、構える。
「俺は人間が嫌いだ。だからこそ、そいつらが持っている最強の「技」を盗んでやった」
「武術、かしら。形だけの見世物よ、そんなもん。私に通用するとでも思っているの?」
「受けてみなきゃわかんないだろ?それに……」
まるで光を灯ったライの両目は、貫ぬくように、相手に狙いを、定めた。
「あんな人に魅せるだけの小細工は、もう時代遅れだぜ」
一瞬で、二人の距離は縮まった。
流れるように繰り出された右手は、フォーゲルの耳を狙う。
それを、左腕で受け止める。すぐさまフォーゲルは距離を取ろうと後方へ飛び寄る。
しかし、ライの追撃はそれを許さない。左拳がフォーゲルの右目を狙う。構えた右手が難なくそれを受け止める、しかし。
重い。速さが力と化し、ライの一撃は、まるで猛獣の如く、落雷の如く。
ワンツー。ボクシングにおいて最も基本で、最も実用的な技。しかしライのワンツーは、競技用のあれとは格が違う。「魔力」で包まれた拳は、固い壁すら撃ち砕ける鈍器と化す。
フォーゲルの守備が崩れた。
ライはリズムを崩さず、すぐさま追撃のワンセット。
クリーンヒットだ。フォーゲルは後ろに吹っ飛ばされ、大木に勢いよくぶつかった。
ミシミシと、大木が衝撃の強さを語る。
砂埃の中、フォーゲルが立ち上がる。
「ゲホッ、ゲホッ……ハア、ハア、なるほど、あんた、なかなかやるじゃん……次は、私のターンよ……っ」
右手を、腰に巻かれたポーチの中に伸ばす。
ライは、その場でステップを踏み、相手の動きを警戒する。
その時だった。
「はいはい、そこまでなのだ」
クロエが、声を発した。