第4話 桑弧蓬矢
次の日。
「ご馳走さま!やっぱアルジャンねーちゃんのご飯はうまいな!」
魔界に戻った後、アルジャンはライの家で一夜を過ごした。
朝食を済ませた二人は、今森の訓練所に来ている。
「じゃ、私は他の仕事があるからここで失礼するわ。模擬戦、期待しているわよ」
「おう!じゃあなー!……って、仕事って、まさか審議員とか……」
アルジャンは、森の中央にある大きな木の前で、なにかを唱えた。すると、スッと、彼女は姿を消した。
「……ただ今お戻りになりました、ガイア様」
「あら、ご苦労さん。ライにはあって来たかしら」
「はい。彼女と一緒に人間界へ参りました。その件についてなんですが…」
「……なるほど。あまり楽観的ではないわね」
ガイアと呼ばれた小柄な女性は、森を見渡した。二人は今大木の内部にある魔法で作られたスペースにいる。
「まあ、この子たちに未来は託される、って形になるのかしら。ある意味楽しみね」
彼女は、訓練所で待機している新入りたちを目にして、笑みを浮かべた。
「……と、言うわけで、君たちには今からこの森の中で生き残って貰う。まあ、生き残るって言っても、死人は出させないから、そこは安心せい。」
「そうか!死人は出ないのか!俺、今日死ぬ気満々で来たのになー」
若々しいアンデッド族の少年がガヤを飛ばした。
「……開始の合図があったあとは、森のどこかに隠しておいた秘密のスズを探し出して、この場まで持ってこい!まあ分かると思うが、この模擬戦で大事なのは自分の戦闘能力を十分にアピールすることだぞ!ちなみに……」
と、ここで訓練官は厳しい顔をした。
「今年から追加されたルールだが……途中でアナウンスされるだろう。とても厳しいルールなので皆用心して取り掛かるように!」
「こりゃあ参ったぜ」
ライは戦闘服の紐をキュッと締め直した。赤と黒を基調としたライの戦闘服は、機動性と通気性に優れており、良質な人口革を利用したことによりフィット性と耐久性に優れている。ただ、おへそや太ももあたりの露出度は高いみたいだ。
「それでは……はじめ!」
「本当にヒントもなにもないんだな」
開始早々行先がわからなくなっている他の参加者達を、ライは、木陰に身を潜めて観察している。
「戦闘力を見せろと言われてもなあ……」
ところどころに戦いがはじまっている気配が聞こえるが、大部分の参加者は仲間を探してチームを作っているようだ。
団体行動が苦手なライは、一人で最後までやり抜こうとしている。
「うかつに動いても、狙いの的になるだけだからな……」
と、観察している参加者が、バタンと、その場に倒れた。
「……動かなくとも俺は的になるのかよ……」
鋭い殺意が、こちらに向きを変えた。
「おっと」
間髪で、一羽の矢を避け、ライは地面に降りた。
風を共って空を掠め、銀色に輝く矢は、まるで、生き物のようだった。
「こんな時代に矢、かよ。妖精族の逸れか」
ダークエルフ族。エルフ族の血統を継ぐものだが、人間の盟友であるエルフ族とは違い、魔物側に付いた彼らは、色白にもかかわらず暗闇とふらりと一体化し、その潜伏力の高さで「ダークエルフ」と呼ばれ、人間どもから恐れられた。
「へっ……めっちゃ動くじゃん」
相手は移動しながら、こちらを狙っているみたいだ。
「ならば……こちらから行くぞ!」
ガツンと、ライが放った一蹴りは大木を激しく揺らした。
次々と、ライは木を揺らしていく。
「へへッ、見つかったぜ……」
ライは、木陰の隙間から敵の姿を確認できたようだ。
しかし、その時。
背後から小さな人影が、ライに向かって突進してきた!
いち早くそれに気づいたライは、振り向き、防御の構えを取った。
その鈍器のような物から放たれた一撃は、思ったより力強く、力強かった。
ライは衝撃で体勢を崩し、後方へと吹っ飛ばされた。
「相手は二人、かよ」
そこには、その力の持ち主とは思えない、可愛らしいツインテの女の子がいた。しかし、その特徴的な八重歯と健康的な肌色が、彼女が獣人族であることを示す。
「……やるじゃねーか、獣人族」
「お前こそ、人間のくせによく真正面から耐えたのだ」
「わりーなー、俺はそこら辺の人間よりはかなりしぶといもんでねえ」
獣人は、楽しそうに笑っている。そして、上方に向かって右手でスッと合図をした。
「面白い。もっとクロエたちを楽しませるのだ」