第2話 人生羇旅
魔物の世界の、西側に位置する「最後の森」。その奥にポツリと立つ小さな屋敷。
「昨日は……うわあ、災難だったなゴブリン族」
ライは、新聞で魔物族の被害状況を知る。
「人間の奴め……一般人ばっか狙いやがって……まあ今日にも復活するだろうけど……それでもかわいそうだぜ……」
と、そこに。ドアのノックが聞こえる。
「お邪魔するわよ」
「おっ!アルジャンねーちゃん久しぶり!」
そこへ、人間の女性がやってきた。
「やっとライも晴れて戦闘員になれたね。おめでとう」
「いやいやあれ年齢になれば誰でもなれるから……まあとりあえず、なんだ、その、ありがとう……」
「明日が実戦演習だっけ?楽しんで来てね。お友達もたくさん作ってね」
「活躍してくるぜ!」
「そうそう、今日頼みがあってきたんだけど……今から私と一緒に、人間の世界に行かない?」
「ちょっ……待てよ、今から?いきなりだぜ……しかもよりによってあんなばしょに……」
「まあ、無理は言わないわ。」
と、アルジャンは一枚の紙切れを手に取った。
「あっ、それ「アイスクリーム62」の一時間食べ放題チケットじゃん……くっ、どこでそんなレアなヤツ手にいれたんだ……」
というわけで、二人は今、はるばると時空を超え、人間の世界にやってきている。
「こんなに軽々とこっちにこれるって、なんか便利だね」
二人はあちらではなかなかしないような、派手な格好でいる。
つまり、オシャレ、だ。女の子だったらオシャレが嫌いな子はいない。
「なあ、アルジャンねーちゃん、こんなに簡単にこっちこれるんだったら、こっちに来て人間らをズパパンッ!って倒しちまえば、戦争も早く終るじゃん」
「バカね、あんた。一般人をいくら殺しても、戦争は終わらないわよ」
二人が今いる場所は、王国から遠く離れた街だが、それでも人で溢れかえっていて、賑やかな場所だ。さすがに要所である王国内部への転送は無理みたいだ。
「それに……」
アルジャンは深く、息を吸った。
「この戦争は、殺すこと以上に深い意味があるのよ」
「はあ?……よくわからんな……あっ!アイスクリーム62だ!」
「まあいいわ……はい、チケットよ。太らない程度に楽しんで来てね。じゃあ、私は自分の用事を済ませに行ってくるわ」
「……やっぱアイスはベリーだよなあー」
人離れした食欲で、アイスを口にしていくライだった。周囲の女子たちが、こちらを見てヒソヒソと笑っている。
「……ちょっと目立ちすきちゃったかなー……まあ、今日ぐらいはいいかなっ」
甘食を幸せそうに頬張るその様子は、年頃の少女そのもの……かな。
「……」
「おっ、そこの兄ちゃん達、いかに要人って顔をしてるな。しめしめ……」
魔物と人類は、基本的に同じ言語を使っている。まあ、もともと人間であるライに、人間の言葉を理解するのは、当たり前のことだ。
「……強くなりたい、とは言ってもあの人はさすがに殺し過ぎなんじゃ……」
「別にいいだろ。前代なんて、もっと酷かったし……まあ、俺達にできるのは、その人が殺しを飽きないのを祈ること、それしかないだろ……それより、これを見ろ……」
「……っ!なんだこれ、話と違うじゃないか……」
「今朝流れてきた情報だ。絶対に外部に漏らすなよ」
「当たり前だろ……さあ仕事に戻るぞ、こんな女しかいないような場所にいても、息が苦しくなるだけだ」
「えっ……お前こういうの好きって聞いたのに」
「や、やめろ」
二人は店の外へと歩いていった。
「うーん……よくわからん……まあいっか」
ライも時間が来たことを確認し、最後のカップをペロリと一掃し、店をあとにした。
「さてと……アルジャンねーちゃんとの集合場所は……こっちかな」