赤紫のマフラー
集合場所である駅の改札へと着くと、赤紫のマフラーに首を埋めた女の子が、既に立っていた。まだ集合時間10分前であるのに、先に来ているのが彼女らしい。彼女は僕と同い年だが、同年代よりも、しっかりしている。僕は少し早足で駆け寄り、声をかける。
誰もが振り向くほどの美人とこれからデートする喜びと、緊張を悟られないように。
「ごめん、待たせた?」
「おう!」
読んでいた本を鞄にしまいながら、彼女が言う。
普段礼儀正しい彼女は、何故か僕にだけ、おう!と挨拶をするのだ。こういったところが、美人でしっかりしていても、人に親しさを感じさせるところなんだろう。
「全然待ってないよ。それにまだ、約束の時間の前だしね」
「よかった、じゃあ行こっか」
彼女は
「ちゃんとエスコートしてよね」
といいつつ、僕のよりも先に歩き始めた。
目的地に向かう彼女の歩くスピードは、そこらへんの女子よりも早い。だが、僕よりは遅い。
僕は意識して、彼女の歩幅に合わせる。
「改札に来る前、何してたの?」
と、彼女が尋ねてきた。赤紫のマフラーが、白い肌にとても映える。
「ほら、あそこに本屋があるだろ?そこに居たよ」
「ふふっ」彼女が突然笑う。
「何かおかしかった?」
「実は、私もそこにいたの。しかも、君、本屋で見たよ」
「ええっ」思わず、声を上げて驚いてしまった。なぜ彼女の前では、自然と素直な反応をしてしまうのだろう。
「何で声かけてくれなかったの?」
「真剣そうな顔で、本選んでたからさぁ。君よりも先に本買って、改札で読みながら待ってた。もうすぐ読み終わるよ」
確かに本を選ぶときは、かなり真剣だと自分でも思う。そして、他の客の顔なんて見ていない。
「あ、買ったのって、さっきしまった本?」
「そうそう、これだよ」
そう言い、彼女が持っていた本の表紙を見せる。その瞬間、思わず言葉を失った。
それは、僕が買った本と同じだったからだ。それに、彼女は僕よりも早く買っていた。そして彼女は既に読み終えようとしている。
僕は悟った。きっと僕は、彼女には永遠に追いつくことが出来ないと。
心に鈍い痛みが広がっていくのを、ただ受け止めることしか出来なかった。




