クラスで浮いているので魔法使いになります
※本当に何にもないストーリーです。続編やシリーズ化は予定していません、ノリで書きましたのでご了承お願いします。
人は誰しも夢を見る、まだ無知な幼少期にはヒーローになりたいと願った少年も少なくはないだろう
しかし時は流れ、時間の進む体感時間が早くなり始めた時から冷めてしまうのだ
そしていずれは、つまらない大人となってしまう____
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「……ぐふふ」
教室の昼休憩の時間、生徒達がグループを作って昼食を食べている中、明らかに一人だけ浮いている人物がそこにいた。
「ねえ、何あいつ?」
「急に一人で笑い出すとかキモいんだけど……あんな奴がクラスメイトとかマジないわ……」
クラスの印象はとても良好とはいえない、というか嫌われている。
それも仕方ないだろう、何故なら彼こそが学校一の変人と嘲笑される男子生徒なのだから。
「ふう……今日も黄色い声援が送られているな……」
「「「何か喋った」」」
それはこのクラスにいるクラスメイト総意の気持ちであり、女子に至っては彼をゴミを見るかのような嫌悪の視線を四方八方から飛ばしていた。
俺の名前は新城終、極普通の男子高校生だ。
そう、魔法使いを目指している極普通の高校生なのだ。
学校の奴等は表では『新城』や『新城君』なんて呼び方をしてくれてるが、裏では『魔法使い志望(笑)』と呼ばれているらしい。
自分で言うのもあれだが、根は至って真面目だ
かつては生徒会役員を志した身であり、演説時にその旨を全校生徒に伝えた
いや、運命の歯車はそこで狂ったのかもしれない____
_____「俺に着いて来い……されば救われる、俺はもうすぐ力を手に入れる……いや、入れてみせる……さあ盲目という名の罪人達よ!!欲望を晒け出せ!!そして俺にその薄汚れた一票を投資しろ!!この選挙に興味がない奴も投資しろ!!いいから黙って全部俺に投資しろおおおおおおおおお!!」
「……」
その時俺が放った意思を持った言葉は、この時代には合わなかったようだ____
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結果は不信任、担任の先生も信任投票で実際に不信任になる子を始めてみたとのことだった。
それからだったかな、俺がクラスメイトから疎まれる存在になったのは___
まあ何が何であれクラスメイトが俺のことを見下しているということは薄々感付いてはいたが、あえて気にしていない感を出すために強固の姿勢を見せてきたこの高校生活にも終止符が打たれようとしていた。
そう、それは魔法使いになれるかもしれないということである。
マナを操り、術式を構築して事象を生成する万物の古術、二年前のある日から魔法使いに憧れ現代社会の職業としてなる方法を模索し続けた。
そして今夜、本当に魔法使いになれるかもしれないのだ。
きっと魔法使いになれば蔑んでいるクラスメイトの視線も尊敬の眼差しへとシフトチェンジされるだろう。
いわゆるリア充だ、いやきっとパリピぐらいには慣れるぞ、きっとインスタとかして好物はパンケーキと電球に入ったジュースの人生勝ち組になれるんだ。
「わはははははは!!笑いが止まらねえ!!」
「何だあいつ、キモ」
「……やだ、場所変えよ」
待ってろよ、俺の高校生活の逆転劇は今ここから始まる______
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新城家
「たっだいま~!」
俺が勢いよく自宅玄関のドアを開けると、前方には自分の部屋に向かっている妹の加奈の姿があった。
「よお加奈、お兄ちゃんが帰って来たぞ!」
「死ねよゴミ」
加奈は実の兄にそれだけを言い残し、二階にある部屋に向かうために階段を登っていくのだった。
「ふっふ~ん、今日もツンデレだな、まあデレてくれたことないけど」
デレがないツンデレとして加奈の性格は捉えているが、最近あの無機物を見るような目はガチのようにも思えてきた。
「さてと、俺も部屋に行くか……」
そして終は一階の自分の部屋に向かい、昨夜の続きを為そうとする。
「早速やってみるか、『悪魔との契約』____」
俺の部屋には多くのオカルトグッズや黒い本、そして中央には手書きで丁寧に書かれた魔法陣が備わっていた。
二年に掛けてそれらしい参考書類を捜し求め、悪魔召喚のために必要な知識を集めていたのだ。
悪魔の契約とは何でも己の願いを叶えてくれる願望器、しかしそんなものが何の代償もなしに行えることの方があり得ない。
きっと四肢を引き千切られるぐらいの代償があっても不思議ではない、だが魔法使いになることを願えば魔法で再生すればいいまでだ。
「えっと、後は魔法陣に自分の血を数滴か……」
一つの黒い本には召喚儀式の順序が記録されており、自分の血液を捧げる行為は魔界にいる悪魔を正確な位置に召喚する為だという。
言わば血液は住所であり、場所を特定するには住所が必要だということだ。
「ッ……痛……!!」
自分で自分の体を傷つけるのは気が引けない、そして何より痛みの感覚は精神的に不安をきたしてしまうのだから嫌だ。
俺はナイフによって切った切り傷から血を数滴魔法陣に降り注ぎ、全ての作業が終了すると次の瞬間には異変が起こっていた。
_______!!
「な、何だ……!?」
描かれた魔法陣の黒インクが数滴空中に浮かび上がり、思わず目を閉じてしまう程の光が部屋全体を覆った。
それは測り知れない圧力と同時に、今日まで体現したことのない恐怖と不安に駆られる。
_____……
「ッ……う……」
目を開くと、そこには黒のゴスロリを着た一人の少女が魔法陣内に姿を現していた。
「悪魔リン、召喚の儀式に応じ参上した」
銀髪の髪、年齢は自分と同じぐらいであり、何よりも美しくも威圧感があった彼女に俺は思わず一歩後ろに下がってしまう。
「こ、これが悪魔……」
しかし思った以上に見た目は普通だ、参考本には獣のような容姿にガラスを引っかいたような声質、そして何より角や尻尾が生えているようなキメラ的な要素もない。
というかやけに人間染みている。
「あなたが私を召喚したの?」
「あ、はい、俺が召喚しました」
「願いは何だ、富か?殺しか?」
「ッ……」
富も殺しも望まない、ただ彼女は人間の欲望の本質を的確に当ててきている。
召喚の場数を踏んでいるのか……?やはり俺以外にも悪魔を召喚してる人はいるみたいだ……
「どうした、早く言わないか、さては口に出すのも躊躇するほどの大罪か?」
「……れ」
「ん?」
「俺を魔法使いにしてくれ!!」
独特の緊張感を噛み殺し願いを告げると、先程とは打って変わり神妙な面持ちだったリンの表情は気が抜けたように唖然としていた。
そして彼の発言をようやく理解すると、リンは怒りからなのか身を震わせてただならぬ空気を醸し出し終をもう一歩後退させる。
「あ、いや、その……何かすいません!!」
先手必勝、ヤバイ空気になりかけたところを陳謝して何とか場を落ち着かせようとするが、終のそれは杞憂の沙汰であることに気付かされるのだった。
「あっははは!あなた最高ね!魔法使いになりたいなんてよく考え付くわよ!」
「え?」
ふざけたような願いを告げたことで怒り狂ったのかと思いきや、リンの表情には憤怒どころか涙を浮かべながら笑い腹部を押さえつけるまでに笑いのツボにはまっていた様子だった。
「いいわよ、あなたの願い叶えてやっても」
「ほ、本当か!?」
何だかよく分からないがこれでようやく魔法使いになれる、長年の悲願が達成されると実感した時嬉しさや喜ばしさが心の底から込み上げてきた。
「それじゃあ……」
バチ___
「___願いは叶えたわ、これであなたは晴れて魔法使いになったってこと」
「おお!俺が魔法使いに……」
リンが指を鳴らすモーションをすると、願いが叶えられ終は晴れて魔法使いになったとのことだ。
「やっぱ魔法発動の構えってこんな感じか……?はあああ!やあ!」
俺はそれっぽい構えを取り魔法を発動しようとする、が、魔法は発動するどころかその兆しすら見せることはなかった。
「おっかしいな、構えが違うのか?」
「いいえ、そういう問題ではないと思うわよ」
「どういうことだよ?」
「だってあなたの体内にはマナなんてこれっぽっちもないもん、魔族じゃない人間がそう簡単に魔法なんて扱えるわけないでしょ」
俺は思わず唖然としてしまう。それもそうだ、それじゃあ魔法使いにしてくれるという契約内容と結果が矛盾してしまう、人間社会でありましてや法治国家である日本では明らかに詐欺の部類の仕様だったのだからだ。
「はあああ!?そんなのおかしいだろ!!」
「まあまあ落ち着いて、私は今は扱えないと言っただけで、使えないとは言ってないでしょ?」
「う……どういうことだ……」
「はあ、いい?これから聞くことをよく聞いてね」
どうやら状況が理解できない俺の為に、悪魔リンは様子を見かねて直々に説明しようとする。
「あなたの魔法使いになりたいという願いは、言わば魔族と同じ特性を持ちたいと私は捉えたわけ、だからあなたには特別な魔法因子を体内に植えつけた、ここまでが私の契約、文字通りあなたは魔法使いになれたのだから技術は自分で磨くことね」
「え~何か面倒だな、契約でそこんとこどうにかならないの?」
「別に構わないが、あなたまだ自分の身を削る気?」
「あ……」
そうだった、契約には代償が付き物だ、これ以上下手に契約してしまうと一生を後悔することになるかもしれない。ここは一旦引くべきだろう、魔法使いにはなれたし練習すれば俺だって魔法の一つは仕えるようになるだろう。
「そろそろあなたの代償、言ってもいいかな?」
「……ああ」
緊張からか一度唾を飲み込み、決して重くない代償を期待する自分が確かにそこにいた。
体の一部とかそういうのはごめんだ、とにかくできるだけコスパ最強でいてほしい。
「……あなた、異性のことは好き?」
「は?」
「あなたぐらいの年頃の人間って、エッチなの好きなんでしょ?」
「と、突然何を言い出すんですか!!年頃の淑女がそのようなことを言うものではないですぞ!!」
というかそもそも話が脱線していた、本題は彼女が契約内容を言ってくれるはずなのに何故自分が異性に関しての興味を言わないと駄目なのかと思う。
「ふふ、私はね、契約者からの代償には必ず矛盾する結末を要求する、殺しには心臓を、金には時間を、あーそうそう、性欲には去勢もあったかな」
「きょ、去勢って……」
性格が悪いを通り越して残忍さが滲み出ていた彼女の言葉を聞いた後では、代償の内容もきっと残忍で自分にとって矛盾した結末をもたらすだろう。
まさに彼女は、悪魔そのものだった。
「あなたの望みは正直どういう欲望なのか分からないけど、私はあなたが必ず困る内容を代償にする……」
「な、何だよ、言ってみろ」
「ええ、私があなたに望む代償は___」
彼女の威圧感に思わず負けそうになり、瞬間的に現実から逃れたくなってしまう。
駄目だ、これは俺が望んだ結果、受け止めろ、例えそれが最悪の結果だとしても_____
「30歳まで童貞を貫かなければ去勢です☆」
「……」
まるで本当に魔法でも掛けられたように、一度自分の中で時間が止まった感覚があった。
それも目の前のゴスロリを来た女の子に、笑顔でピースまでして去勢宣言をされるとなると、ここは本当に現実なのかどうかも怪しくなる。
__いや、これは夢だ、そうだ夢だ、夢じゃなかったらこんな現実ありえるはずがない。
きっと彼女は俺の欲求不満を満たすために現れた空想上の人物だ。全く、俺という奴はまさか夢にまでも性欲を満たそうとするとは……
まあこれはこれで悪くない、よし、そうと決まれば……
「いただきまs……」
襲いかかろうとした終の顔面にリンは容赦なく魔法を放つと、彼はとても見苦しく苦しさを訴える。
「やだやだやだ!!希望はないけど捨てたくないんだ!!俺だってやりたいよ!!後13年間童貞を貫けっていうのかよ!!」
「もう遅いわよ、そして私悪魔リン・アルフォネアは今後13年間あなたの代償を払い終えるまで、あなたの契約魔としてここに居るわ」
こうして彼の災難は今後13年間性行為ができないことと、勝手に悪魔がついてきたことであった。
____神様仏様、もう悪魔とかどうでもいいんで、俺にも一度だけ恋をさせてください。
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