縁側から見る花火
銘尾友郎様の"夏・祭り企画"の感じに合う小説が書けたので、参加させていただきました。
※リアリティー?何それ美味しいの?(-ω- ?)くらいのゆるい感じの小説です。
8/10日、季節は夏。
私はここ二十年、毎年花火大会を河川敷に見に行っていたわ。
でも、もう行けないの。
二ヶ月前、転んで腰の骨をやってしまったのよ。
階段から転げ落ちた、なんていう大きな話ではないの。
ただ、日課の散歩から帰ってきて家に入って気が緩んで転ぶ…というより、ストンと座ったと言った方が近いかしら。ただそれだけで腰骨にヒビが入ってしまったのよ。杖をつきながらゆっくりならなんとか歩ける歩ける程度までは回復したわ。でも--
--もうここから治る可能性はほぼないそうなのよ。歳をとるって、嫌ねぇ。
そんなことがあって、今は貯めていた貯金を使って老人ホームで暮らしているのよ。孫や子供に迷惑をかけたくないもの。
でも今日だけは、家からでもいいから花火が近くで見たくって頑張って帰って来たの。当然、一人で帰るのは反対されたけどねぇ。生い先短い婆のお願いという老人の特権を使って、なんとか聞いてもらったわ。
楽しみで年甲斐もなくはしゃいじゃって。昔の浴衣まで出してきて、着てみたの。これがまぁピッタリな大きさでねぇ。吃驚しちゃった。
----そんなことがあって今、まさに花火があがる時間。
しゅぅぅぅう~---ドカン!
そんなことを思っていたら、ほら。光の演出のあとに、夜空に綺麗な花が咲いた。
しゅぅぅぅ~--ドドドドドン!
ドン!ドドドドドンッッ!!
しゅぅぅう----ドガァァン!
あら、大きな花火。これがあがったということは、もうそろそろ終わっちゃうのね。でも、それも醍醐味の一つなのよねぇ。
しゅうぅぅぅぅぅぅぅ
----ドドドドドドドトドドドド~ンッ!
最後にいつも打ち上げられる、大きな連続花火。この、いつ終わってしまうのかというドキドキ感がたまらないのよね。
しゅぅ------ドーッッーン!!
あら、終わっちゃった。本当に、いい花火だったわぁ。
縁側から一人で見る、静かな花火もいいものねぇ。
また、見たいわ。頑張って長生きして、骨を治さなくっちゃ。
----花火の後に残る少しの火薬の香り。さっきまでの騒がしい音と光が夢だったかのような吸い込まれてしまいそうな闇と静寂。そして、それを塗りつぶすかのように響く蝉の声。
「今年も、いい花火だったわねぇ。」
私のぽつりと呟いた小さな声は、どこまでも続く静かな闇に吸い込まれていった。