京3
ここは京。
神聖徳太子と最後の決戦が行われている。
「あいつが歴史に名を残す者の聖徳太子!?」
「聖徳太子ではない! 私は神聖徳太子なのだ! この日本を支配する者だ!」
ライは聖徳太子を眺める。なんだか聖徳太子の姿がぼやけて見えている。それは無理もない。聖徳太子は過去の人物でありこの世界に存在してはいけないのである。それが表舞台に出てきたのだから、時間と空間が歪んでも仕方がない。
「ライ、変なヤツの言うことを相手にするな。」
「はい、アマさん。」
「まだ7竜か・・・ライ、そこに8竜目がいる。さっさと認めてもらってこい。」
「カー。」
アマに言われて振り返るとカーがいた。カーは西之島からの幼い頃からの因縁の相手である。8首竜の鎧を着たカーは大量の悪魔からぬらり子や妖怪3人衆を守るので疲弊しきっていた。
「ここは私に任せろ。おまえは8竜の元へ行け!」
「でもアマさん1人じゃ!?」
「ライはここにたどり着くまでに、色々な冒険をし、たくさんの仲間と出会ったんだろうな。」
「え?」
その時、7竜が飛んできて悪魔たちに襲い掛かかり、次々と悪魔を倒していく。ライは7竜に見覚えがあり、7竜の使い手も良く知っている、これまでの苦難を共に戦ってきた仲間たちだった。
「海竜破! 島津義久!」
「火竜破! 立花道雪!」
「空竜破! 島津義弘!」
「雪竜破! 伊達政宗!」
「氷竜破! 上杉謙信!」
「地竜破! 武田信玄!」
「水竜破! 島津家久!」
「みんな!?」
「待たせたなライ!」
「地方の悪魔も全部やっつけてきたぜ!」
「たくましくなったな!」
「最後の勝負だ!」
「こいつらを倒して日本を守るんだ!」
「早く8竜と決着をつけろ!」
「ここ俺に任せとけ!」
「みんな、ありがとう。」
ライの窮地に地方で悪魔と戦っていた仲間たちが京に駆け付けてくれた。そして大量の悪魔たちと戦ってくれる。ライと共に喜び苦しみ旅をして、友情を培ってきたからこその頼もしい援軍であった。
「ライ、分かったらさっさといってこい。」
「行ってきます。アマさん。」
「自称、神と悪魔は私たちで抑えるよ!」
「おお!」
ライは聖徳太子と悪魔たちをアマと7竜の鎧を着た武将たちに任せて、8首竜の宿っている鎧を着ているカーの元に向かう。ライとカーの戦いにも決着を着ける時がやってきた。
ライとカーの戦い。
「カー。」
「ライか。少しはマシになったようだな。」
「カー、8竜さまに取り次いでくれ。8竜さまに認めてもらい竜玉をもらわないといけないんだ。」
「嫌だね。」
「カー!?」
「八岐大蛇に会いたければ、俺を倒して己が強いということを俺に認めさせてみろ! いくぞ! ライ!」
「結局、カーとは戦うしかないのか!?」
7竜の鎧のライと8首竜の鎧のカーの最後の戦いが始まった。ライはカーには8竜の力を手に入れて強くなったという感情しかなかった。それはそれまでの西之島ではライは口だけのカーに1度も負けたことがなかったからだ。
「ライ、おれは貴様だけには絶対に負けないぞ!」
「やめろ! 俺はただ8竜さまに会いたいだけなんだ!」
「やっぱり、おまえのそういう態度が気に入らねえ。いつも自分の方が強いと思って、俺を見下してる、そのしゃべり方が気に入らねえんだよ! ライ、調子に乗ってんじゃねえ!」
「誰もカーのことをバカになんかしていない!? おまえの被害妄想だ!?」
「うるさい! 小さい頃から殺人鬼みたいに強かった、おまえに俺の気持ちが分かるものか!?」
カーは子供の頃から島長の息子として他人から甘やかされて育ってきたように見えたが、他人が自分ではなく父親が島長だから優しくしているということに敏感に気づいていた。勉強をしても剣術にしても、特に秀でる才能はなかった。
「くらえ! 8首竜斬!」
そんな中でよく比較されていたのは同い年のライだった。ライも勉強はダメだったが、父親を亡くし家族を食べさせていくために、剣の腕を鍛えまくった。いつしか母親と妹を食べさせるだけでなく、島でも最強と言われるほどになった。
「負けるもんか! 7竜雷斬!」
カーには自立しているライは目の上のたん瘤であり、心の奥底では尊敬する憧れでもあった。8首竜の力を手に入れたカーは、そのライと互角に渡り合っていることに喜びを感じていた。両者の必殺技がぶつかり合い爆発を起こす。
「やめろ! 2人共!」
「八岐大蛇!?」
「8竜!?」
ライとカーの戦いに割り込む大きな声があった。声の主が姿を現すと8首竜こと、八岐大蛇でだった。敵と戦っている最中にどうでもいい戦いをしているライとカーの2人を止めに入る。
「カー。」
「なんだ?」
「おまえは妖怪たちを守るのに力を使い果たし、もう普通に戦える状態ではないはずだ。もう休め。」
「チッ、バレてるのか。」
カーは聖徳太子の悪魔の攻撃からぬらり子や妖怪3人衆を守りながら戦い、自由に戦えないことも精神的疲労が激しく、7竜の力を手に入れたライと戦うにはエネルギー不足だった。
「ライ。」
「はい。8竜さま。」
「おまえに私の竜玉をやろう。」
「いいんですか?」
「理由は必要ない。強いて言うなら他の7竜が認めた者だ、ライ、私もおまえを信じている。」
「ありがとうございます。8竜さま。」
「さらばだ。」
八岐大蛇の体から竜玉が現れ、ライの剣の柄に吸い込まれていく。これでライは竜玉を8個集めることに成功した。ライの7竜雷剣が8竜雷剣に進化していき、ライはパワーアップすることに成功した。八岐大蛇は消え去った。
「カー、決着は後でつけよう。」
「ん!? ・・・そうだな。おまえには負けないからな。」
「そのためにも目の前の敵を全力で倒す!」
「さっさと制覇してきやがれ。」
「いくぞ! 聖徳太子!」
「疲れた・・・俺は少し休むわ・・・。」
どんなに憎かろうが嫌いであろうが、剣と剣を交えて戦い同じ時間を共有すれば友情が芽生える。ライとカーもそんな関係であった。疲れて動けなくなったカーは、聖徳太子の元に向かうライを見送り目を閉じて意識を失う。
神聖徳太子と悪魔たちとアマ、竜7武将が戦っている。ライとカーが戦っている間にアマと竜7武将が片っ端から大量の悪魔たちを倒していった。
「こ、こんなはずでは!?」
「おい、ほとんど悪魔も退治したぞ。そろそろ降参でもしたらどうだ?」
「この私が負ける!? 全てが分かる、この私が負けるだと!?」
「おい、人の話を聞いているのか?」
「なぜだ!? 私は神だぞ!? 神なのだぞ!?」
「神に神と言われてもね。」
聖徳太子は日本を支配するという夢が崩壊しようとしていた。陰陽師に歴史に名を残す者として現世に甦り、機会を虎視眈々と伺い日本を支配する夢を実現しようとした。歴史に名を残す者としての全てを分かる能力を有し、魔王サタンを宿した三好長慶の体に邪魂を飛ばして憑りついた。最強の体、最強の力を得たはずだったのに。聖徳太子は気が気ではなく錯乱していた。
「つまらない男に用はないんだ。消えな。」
アマは聖徳太子に別れを告げるように太陽光線を打ち込む。聖徳太子の体は太陽光線に包まれて高熱で焼かれていく。日本を支配しようとした大きな野望は一瞬で燃やされ、聖徳太子は悲鳴をあげる間もなく、この世から存在が消えた。
「アマさん!」
「お、ライが戻って来た。」
「アマさん、大丈夫ですか?」
「私を誰だと思っているんだ? おまえが遅いから聖徳太子を倒したぞ。」
「え!? 聖徳太子を倒した!?」
「ライこそ8竜に認められたんだな。さすが私のライだ。」
「アマさん痛いです・・・。」
ライがカーとの戦いを終え、8首竜の八岐大蛇に竜玉を与えられ、自称、神を名乗る聖徳太子と戦っていた自称、ライの姉のアマの元に帰ってきた。アマは軽々と諸悪の根源である聖徳太子を倒していた。
「それにしても何かが変だ・・・悪魔!? 聖徳太子を倒したはずなのに、悪魔たちが消えていない。」
聖徳太子を倒して日本の平和を守ったはずなのにライは違和感を感じる。ライが気配を感じ周囲を見渡すと、まだ竜7武将と悪魔たちが戦っている。悪魔を呼び出した聖徳太子を倒したら、悪魔も消えるはずなのに。
「ワ・・・ワタシハ・・・カミ・・・ダ。ワタシガ・・・ニホンヲ・・・シハイスルノダ。ケッシテ・・・ワタシハ・・・シナナイ。」
聖徳太子が倒された上空に黒い雲が集まって、大きな黒い雲を作っていく。次第に黒い雲は人の顔になっていく。集まってきたものは黒い雲ではなく、聖徳太子の成仏しない邪魂と魔王サタンの魔力だった。
「なんだ!? あれは!? 悪魔!?」
「おいおい!? まだ続ける気なのか?」
ライとアマは目の前の黒い雲の発生から聖徳太子の顔が現れるまで、まるでホラー映画を見ているようにおぞましい光景が目の前で繰り広げらるのを恐怖を感じながら眺めるしかなかった。
「オマエノカラダハイタダイタ!!!」
魔王サタンのような邪魂となった聖徳太子がライとアマを目掛けて突進してくる。聖徳太子の狙いは新しい最強の体を持つ、アマの体を奪い取って自分のものにしようと企んでいた。
「しまった!?」
「危ない!」
不意をつかれ油断していたアマは邪魂の突撃に対応が遅れる。アマが聖徳太子の狙いに気づいた時には手をくれであった。聖徳太子の邪魂がアマの体に侵入する一歩手前でライがアマを吹き飛ばし、アマの身代わりになり、ライの体に聖徳太子の邪魂が入ってしまう。
「ギャア!?」
聖徳太子の邪魂に憑りつかれたライの体が黒くなっていくように、負の感情に包まれていく。ライの眼つきは冷たく凍るような鋭さを持ち、竜に選ばれた少年の面影はなく殺意を周囲に放っていた。
「どうした!? ライ!?」
「大丈夫か!?」
「戻ったな。」
「西之島の頃のライだ。」
武将たちは変なものが入っていったライのことを心配する。しかし、アマとギュウは違う。黒く殺意に満ちたライを知っている。西之島の頃、毎日の殺し合いの中で心が汚れまくっていた頃の狂気に支配されていたライを知っている。
「おい! 牛頭。」
「なんだ?」
「ライは元々はおまえの配下だろ。もちろんライを抑えことができるんだろうな?」
「ええ!? ただでさえヤバかったのに、竜の力や悪魔の力が混じってる今のデラックスなライの実力は分からないぞ!?」
「なんだって!?」
西之島の頃のコロシアムのトップはギュウ。しかし急激に力をつけて成長しているライを楽しくも思うが、いつか抜かされてしまうという脅威も感じていた。強者ほど強者が分かるもので、今のライはギュウの強さを越えている。
「こうなったら天叢雲剣で1撃で・・・。」
「牛野郎!? 私のライを殺す気か!? 私がおまえを殺すぞ!」
「そ、そんな!?」
「おい! 竜の武将共!」
「!?」
「悪魔は放置でいい。邪魂に憑りつかれたライを取り押さえるんだ!」
「おお!」
アマの指示で竜の鎧を着た島津義久や義弘たちは黒いライを取り押さえようとライに飛び掛かる。憑りつかれたライは何もしゃべらず少しも動かず、取り押さえに来た7竜の武将に取り押さえられたかにみえた。
「ギャア!?」
「弾かれた!?」
「まずいぞ!? あれはライじゃない!?」
黒いライは体を取り押さえていた7竜の武将を弾き飛ばす。そして自分の両手を見ながら身震いをさせながら、ライの8竜の力を宿した体を手に入れたことに、聖徳太子の邪魂は喜ぶ。
「ハッハッハ! 子供の体に入ってしまい失敗したかと思ったが、なんだ!? この子供は!? 強いじゃないか!? 竜だ!? 竜の力を宿しているじゃないか!? しかも8竜も!? 日本を支配するのだ! ワッハッハー!」
「ライの奴、気持ち悪いのに憑りつかれたな。」
「それよりも、これからどうする?」
「私は可愛いライに太陽光線なんて撃てないよ。」
「俺もアマに殺されたくない・・・。」
「ということで、竜の武将共。おまえたちで頭を使ってライを取り押さえろ!」
「ええ!?」
ライの体は聖徳太子の邪魂に乗っ取られた。ライが大好きなアマはライを攻撃できない。そしてライに勝つことはできるだろうが、アマに殺されたくないのでギュウは動くことができなかった。
「私たちでなんとかしろと言われても!?」
「俺たちにどうしろと!?」
「ライの体から邪魂を負いだせばいいのでしょ? 俺がやります!」
「家久!?」
「やめろ!?」
「ライ、信じてるぞ! 水竜破!」
仲間の中で1番長く旅を共にした島津家久がライを信じて、ライの体から聖徳太子の邪魂を追い出すために必殺の1撃を放つ。放たれた水竜はライを目掛けて飛んでいく。
「ふん。」
「かき消された!?」
「たったの1振りで!?」
「8竜の力を宿すこの体に竜1匹ごときで何ができるというのだ。ワッハッハー!」
黒いライは高笑いをしながら、自分の体の強さに酔いしれていた。家久の放った水竜を8竜雷剣を1振りするだけで粉砕した。その様子を見ていた7竜の武将たちは怖さも感じるが力を合わせ立ち向かおうとする。
「1竜でダメなら、みんなの力を結集するんだ!」
「7竜の力なら、何とかなるはずだ!?」
「いくぞ! みんな!」
「おお!」
「海火空雪氷地水の力を1つに! 7竜破!」
7竜の武将がそれぞれの竜を放ち7色の竜を生み出し、黒いライに目掛けて放つ。今までの竜よりも強力な光の輝きを放ちながら。しかし、黒いライは余裕綽々のように薄い笑いを浮かべる。
「所詮は無駄なあがきだ。8竜の力と魔王サタンの力を併せ持つ、この私に恐れるものはない。」
黒いライは片手に8竜の力を、もう片手に魔王サタンの力を持ち、そして、胸の前で2つの力を1つに合わせた。合わせた暗闇から新しい竜が現れる。黒い竜、邪竜が誕生した。
「全て消えて無くなれ! 邪竜破!」
7竜の武将が放った7竜破と黒いライが放った邪竜破がお互いを目掛けて飛んで行く。7竜は邪竜に勝つことができるのだろうか? 果たしてライを救うことができるのだろうか?
つづく。