甲斐2・富士山1
ここは甲斐。武田信玄の居城、躑躅ヶ崎城。
「塩をくれるのか!?」
「お互い、今までのことは水に流そう。」
「そうだな。これからは仲良く過ごそう。」
ここに越後の上杉謙信と甲斐の武田信玄の和睦が行われた。長かった上杉と武田のケンカは幕を閉じた。そして、この和睦を取り持ったのが、それぞれの竜の使いだった。
「これで氷竜さまと地竜さまが争う理由がなくなったね。」
「いや~良かった、良かった。」
「あとで竜の使い3人で遊ぼう。」
「わ~い!」
こうして障害のなくなった雪ちゃん・氷ちゃん・地ちゃんは昔のように仲良くなった。しかし、まだライは氷竜と地竜には認めてもらえていない。ライが地竜の力を得るには地竜に会いに行かなければならない。
「地竜さまに会いに行こう!」
「地竜さまはどこにいるんですか?」
「富士山だ!」
「わ~い! 登山だ!」
「山頂には雪もあるし楽しみだ!」
「山登りは大変でござる。」
「火山だし、火竜さまの背中に乗って頂上を目指そう。頂上付近は雪竜さまに乗り換えよう。」
「さすが竜の認めた男でござる。」
ライたちは火竜さまの背中に乗り込み富士山をすごいスピードで昇っていく。その景色は空を飛ぶ鳥が見ている世界のように見え、人間には生まれて初めて見る壮大な景色に感動を覚えた。
「いや~、すごかったでござる!」
「上り竜にでもなった気分だ!」
「もうすぐ地竜さまに会えるな!」
「クスクス。人間っておもしろい。」
「ここからは雪竜さまに乗って山頂を目指します。」
「おお!」
富士山の大地と積雪の境までやって来たライたち。雪竜を呼び出し背中に乗り込み富士山頂を目指して飛んで行く。山頂は少し吹雪いていて視界は悪かったが、雪竜さまは元気になり暴れながら進んで行き、火口上空に着いた。
「私が案内できるのは、ここまでだ。」
「え?」
「あとは任せたぞ。地ちゃん。」
「は~い!」
「え!? うわあ!?」
熱いところが苦手な雪竜はライたちを背中から振り落とす。火口に落とされるライたち。ライは阿蘇山でも火口に落ちていった嫌な思い出がよみがえる。マグマが近づくと体から汗がジワリと湧いてくる。
「地竜さま、お客様をお連れしました。」
「落下速度が緩やかになった!?」
「助かったでござる。」
地ちゃんの呼びかけに地竜さまの力が働く。ライたちの体を大地の力が包み込み体を頭を上に向けゆっくりと富士山の火口の大地に降り立つ。そこに大地を司る竜、地竜さまが現れる。
「おまえが神を宿す者か。」
「はい。ライと言います。」
「4竜を認めさせ、地ちゃんや氷ちゃんにも認めたということか・・・。やるな。」
「地竜さま、どうすれば認めてくれますか?」
「いいだろう。試練を与えよう。そこにいる私の認めた武田信玄と氷竜が認めた上杉謙信と同時に戦って勝つことが出来たら、おまえを認めてやろう。」
「2人を相手に!?」
「氷竜、おまえもどうだ。」
「いいだろう。その条件で認めてやろう。」
「分かりました。」
地竜の提案で武田信玄と上杉謙信と戦うことになったライ。強者2人を相手にするということで緊張感がハンパなかった。それでもライはやるしかなかい。戦って勝つしかない。
「いきますよ!」
「こい。手加減はしないぞ!」
「負けても悪く思うなよ!」
戦いが始まった。戦国時代の最強の武将2人を相手に、ライは防戦一方だった。剣を受け止めながら、なんとか正気を見出そうとするが、武田信玄と上杉謙信には隙は無かった。
(どうする!? どうすれば勝てる!? こうなったら・・・やるしかない!)
暗中模索するライは2対1の不利な戦いを強いる地竜の考えに疑問を感じた。そして思った。これは正々堂々とした勝負でないのだろうと。そしてライも勝つための答えを見つけた。
「4竜よ! 俺に力を貸してくれ!」
ライの持つ4竜雷剣から光が放たれる。光は竜の姿になり天に上るかのように輝きライの体を4竜の鎧が身にまとっていく。戦国最強の武将を2人相手するのにとてもじゃないが生身では勝つことはできなかった。
「これでどうだ!」
「それが4竜の力か? 大したことがないな。」
「竜も泣いているな。おまえの力量が足らないのだ。」
「なに!?」
ライの4竜化を見ても武田信玄と上杉謙信はビクともしなかった。それどころか少年とはいえライの未熟さをバッサリと貶す。2人の余裕はどこから来るのだろうと不安と恐怖をライは覚えるのであった。
「なぜ私と信玄の決着が着かなかったと思う?」
「まさか自分だけが竜に選ばれた者だとでも思っているのか?」
「なんだって!?」
「氷ちゃん。」
「はい!」
「地ちゃん。」
「ほい!」
「一心同体!」
上杉謙信は氷ちゃんが氷竜の鎧となった鎧を身にまとい、武田信玄は地ちゃんが地竜の鎧となった鎧を装着した。2人の竜の使いの鎧を装備した姿は4竜の力を1つに結集した4竜の鎧を着ているライよりも強そうに見えた。
「どうだ? 氷竜の鎧は?」
「地竜の鎧の方がカッコイイだろう?」
「クッ!?」
「ライが鎧を装備して大逆転と思ったのに、まさか上杉謙信と武田信玄も竜の鎧を装備できるなんて!?」
「もうダメでござる!?」
「いいな~、雪ちゃんも早く恋人がほしい・・・。」
竜の鎧を装備した上杉謙信と武田信玄は生身の時よりも威厳を増している。それだけでなく強さも比べ物にならないぐらいレベルアップしている。4竜に認められたライよりも明らかに強いのであった。
「いくぞ! 氷竜破!」
「くらえ! 地竜破!」
「負けるものか! 4竜破!」
ライも必殺技で応戦する。破同士がぶつかり合い相殺され爆発が起こる。衝撃で周囲に衝撃が走る。相手は2竜だけなのだが、ライの4竜破に匹敵する破壊力がある。
「俺の方が竜の数が多いのに!? なぜ!?」
「扱う者の差だよ。」
「おまえが1なら、我々は2。最初からおまえに勝ち目はないのだ。」
「クソ!?」
今の自分では勝てない。ライは諦めにも似た感情を抱く。以前にも味わったことのある感覚だった。歴史に名を残す者のヤマトタケルに敗れ自信を失っていた時だ。
「例え1であっても、絶対にあきらめない!」
ライは鎧を着て、さらに強くなった上杉謙信と武田信玄に向かって行く。決してあきらめない。絶望をしない。腐らない。何か方法があるはずだ。絶対にあきらめない! これは亡くなった恩師、高橋紹運から教わったことだった。
「こしゃくな! 氷竜斬!」
「うわあ!? まだまだ!」
「これでどうだ! 地竜斬!」
「うわあ!? 負けるものか!」
ライは何度吹きとばされても諦めずに向かって行く。ライの諦めない姿勢は周りの人間に伝染していく。ライの必死の姿勢を見ていた伊達政宗・雪ちゃん・師走ちゃんに想いが伝わる。
「私はライに加勢するぞ!」
「雪竜さまの鎧を着せてやろう!」
「いいのか?」
「蝦夷と陸奥は遠距離恋愛にはならないからな!」
「一心同体!」
伊達政宗のライを助けようという友達思いの姿勢に雪ちゃんは友情を感じた。そしてお互いの国同士が隣年ということで気軽に会えるだろうということで、雪ちゃんは雪竜の鎧を伊達政宗に着せることにした。
「ライ! 俺たちも戦うぞ!」
「政宗さん!?」
「相手も2人。地竜さまはライ1人で戦えとは言ってなかったからな。」
「雪ちゃんがついている! 気にせずジャンジャン戦え!」
「政宗さん、雪ちゃんありがとう。」
「エヘヘ。」
ライは仲間の有難さを感じた。伊達政宗と雪ちゃんに心から感謝した。九州からともに旅してきた仲間たちは元気にしているかなっとっ戦いの最中なのだが、ライの心は豊かな気持ちになった。
「ここからが本当の戦いです!」
「いい仲間をもったな。」
「だが、2対2でも我々2人には勝てんぞ!」
「クッ!?」
ライは伊達政宗の参戦により数の上では互角になったが、上杉謙信と武田信玄の最強コンビには到底かなわなかった。負けると分かっていても、ライは諦めずに最後まで戦うと心に誓った。
「3対2でござる!」
「師走ちゃん!?」
「これで全てを吹き飛ばしてやるでござる!」
「ば、爆弾!?」
「ここは火山の火口だぞ!?」
「アホ忍者か!?」
「へっぽこ忍者です。」
「くらえ! プリティー師走ちゃん大爆弾!」
富士山が噴火した。師走ちゃんが点火した巨大爆弾が爆発した。爆発は眠っていた富士山を刺激して、ついに富士山が噴火した。火口から噴石が飛び、噴煙が上がりマグマが流れ始めた。今頃、周辺の町は大騒ぎだろう。
「地竜さま、ありがとう。」
「私の住処が・・・。」
「申し訳ないでござる。」
富士山が噴火したがライたちは地竜さまの力で脱出することができた。噴火した富士山を眺める一行は思い思いのことを考えていた。しかし、富士山の噴火に引き寄せられるように招かざる客を引き寄せてしまう。
「あ、ライ。」
「カー!? それに妖怪3人衆!?」
富士山の噴火で富士火口から上空に脱出したライたちの前にカーと金剛石・鋼玉・黄玉の妖怪3人衆が現れる。富士山が噴火したがために、出会わなくて良かった両者が顔を合わせることになってしまった。
「新入り? こいつら知り合いか?」
「同郷なんだ。」
「そんなことはどうでもいいぜ。出羽で人食いなまはげに殺されたとばかり思っていたのに、まさか生きているとは!?」
「京に行く前に準備運動といくか。」
妖怪たちはライたちと戦う気が満々だった。あくまでも人間を舐めていた。妖怪たちは足利家と三好家が滅び、聖徳太子という者が自ら神を名乗り、日本を支配するというから邪魔しに行こうとしていた。
「俺は止めとくわ。」
「なに?」
「弱いのを相手しても楽しくないし。」
「誰が弱いだと?」
「そうだ! 戦ってから言ってもらおうか!」
「いくぞ! 勝負だ!」
「そうこなくっちゃ!」
カーはやる気がなかったみたいだが、妖怪の「弱い」発言に上杉謙信と武田信玄、伊達政宗は怒りが込み上げてきて戦闘態勢に入った。妖怪3人衆も退屈から解放されそうなので、軽い運動とばかりにライたちに襲い掛かる。
「死ね!」
「殺す!」
「消す!」
「かかってこい!」
妖怪3人衆の相手を竜の鎧を着た上杉謙信と武田信玄と伊達政宗がする。妖怪の中で最強の金剛石の相手を上杉謙信が、鋼玉の相手を武田信玄が、伊達政宗の相手を黄玉がする。
「津軽海峡で逃げ出した奴に用はない。」
「カー自首しろ!」
「あん?」
「ナミさんを殺したんだろ? アマさんたちが探しに来ている。逃げられないぞ!」
「それはもう過去の話だろ。それに俺は首より下の体で償ったんだ。もういいだろう。」
「言ってもダメなら、力づくで取り押さえてやる!」
「おまえには無理だね。」
4竜の鎧を着たライがカーに襲い掛かる。カーはひらりとライの攻撃を避ける。あくまでも弱い者の相手をしたくない様子でダルそうにしていた。その様子をイライラしながら見ていたライはカーを戦う気にさせようとする。
「4竜雷破!」
「・・・ヤマタノオロチ、8首竜の鎧。」
ライの放った4竜雷破がカーに命中して爆煙があがる。このままカーを倒せていればいいのだがと心のどこかで考えてしまうライ。どうしてもカーの底知れない
力に不安を感じるのだった。
「やったか!?」
「はあ・・・痛くも痒くもない。」
「カー!? 4竜雷破が効かない!?」
「ライ、昔のおまえは強かった。本当に強かった。俺は1度もおまえに勝ったことがなかった。でも今はおまえなんか一瞬で消し去ることができる。悲しいな。」
「やれるもんならやってみろ!」
「8首竜・・・。」
カーはヤマタノオロチの8首竜の鎧を着て無事だった。無事だったというよりも無傷だったの方が正確かもしれない。4竜雷破はライにとって最大の必殺技だった。それが効かないのはライにはショックだった。
「止めなさい!」
戦場の富士山頂に女性の大きな声が響いた。ライたちは戦闘を止め声の聞こえた方へ振り向く。そこには女性とお爺さんと女性のお化けと女の子がいた。妖怪3人衆は怒っている女性の顔にビビっていた。
「ぬらり子さま!?」
「どうしてこんなところに!?」
「ギャア!? お許しを!?」
「ぬらり子さま?」
「どうしたんだろう? あんなに強い石たちがあんな小娘に怯えている!?」
いったい何者なんだろう、ぬらり子とは。カーは別にどうでもいいと平静であるが、金剛石たちはぬらり子の登場に緊張している様だった。ぬらり子という普通の女の子は石の妖怪3人衆よりも強いというのか!?
「大人しくしろ! ここにおられる方をどなたと心得る! 妖怪の長ぬらり子さまであらせられるぞ!」
「はは!」
「これ人間共! 図が高い! ひれ伏せ!」
「なんで?」
「とりあえず話が進まないから頭を下げとこう。」
ぬらり子は妖怪の長だった。金剛石たちは早々に頭を下げた。京に神聖徳太子を倒しに行く予定だったのが、寄り道しているのがバレたので怒られるのが怖いのだった。
「あなたたち! なんでこんなところで油を売ってるのよ! 京に悪魔使いの神聖徳太子を倒しに行くんでしょう! あいつを倒さないと、私たち妖怪の出番が減るじゃない!」
「ぬらり子さま、そんなことを言われても、人間がケンカを売って来たんです!」
「黙りなさい! 私に口答えする気!?」
「そんなことを言われても・・・。」
妖怪3人衆はぬらり子の言うことに反抗的だった。ぬらり子が女だからなのか、妖怪の長になってまだ日が浅いからなのか、遊んでいるのか、なかなか言うことを聞かなかった。
「みなさん~♪ 京に向かいますよ~♪」
「おみっちゃん!」
「は~い! 京へ向かいます!」
「人間共! 命拾いしたな!」
「へ!?」
妖怪3人衆は妖怪の長のぬらり子の言うことは聞かないが、石膏石と癒し女のおみっちゃんをぬらり子が錬成して妖怪になった小さな女の子の滑石ちゃんのお世話係の妖怪メイドのカワイイおみっちゃんの言うことは聞くのであった。
「恐るべし!? おみっちゃん!?」
「わ、私の立場は!?」
こうしてライたちは危機を脱した。
つづく。