紀伊・蝦夷
いよいよ「制覇! 3」の始まりである。
「もうすぐ上陸だな。」
「ああ、着いたら京を目指そう。」
小舟を手でこいで進んでいる者たちがいる。ライと島津の4男の家久である。2人は16才で同い年であり、仲間でもあり、ライバルでもある。
「それにしても海竜さまの力はすごいな。四国から本州まで、こんな小舟で転覆せずに渡れるように、海を静かにしてくれているんだから。」
「そうだね。龍神が人間に力を貸してでも、平和な世の中にしたいんだと思う。」
「きっと本州には、今まで以上に激しい戦いが待っているんだろうな。」
ライと家久は、これからの厳しい戦いを覚悟している。ライたちは、本州にたどり着いた。ガサっと人の気配を感じる。
「誰だ!?」
ライは、周囲の気配に気づき、声を荒げて叫ぶ。
「遅い!」
「遅い!」
「む、睦月ちゃん!?」
現れたのは周防で助けて雇った、旧暦忍者の睦月ちゃんであった。能力は、へっぽこで、「制覇! 2」が終わるころには、存在は忘れ去られていた。
「違う! 情報収集に潜伏していただけでござる!」
「そうだ! そうだ!」
睦月ちゃんは、強敵にであると、1番に逃げ出す。大飯食らいの由緒正しき旧暦家の忍者である。
「我々は、睦月ちゃんではない! 拙者は、師走ちゃんでござる!」
「私は、霜月ちゃん!」
「ええ!? どういうこと?」
睦月ちゃんの得意な忍術は、12人分身の術である。
「睦月ちゃんは、旧暦の12人に分身して、各自に分身を遣わしたのだ。」
「そして、睦月ちゃんの分身の頭に手を置いて、心で念じると離れている睦月ちゃんの分身たちと連絡が取れます。睦月ちゃん得意の以心伝心の術です。」
「すごい!? さすが忍者だ!」
「カッコイイ!」
携帯電話・スマホが無い時代の通信手段として、睦月ちゃんの忍術が選ばれたのだった。
「試しに、兄上と話してみよう。」
「痛い!?」
「兄上、家久です。兄上。」
しかし、誰からも返事は帰ってこなかった。
「あれ? 返事が来ないんだけど?」
「それは、他の睦月ちゃんの分身の頭に誰も手をのせていないから、会話ができないでござる。」
「なんだそれは!? では連絡できないじゃないか!?」
「忘れたでごぜるか? 睦月ちゃんは、へっぽこ忍者でござる~♪」
「よ! へっぽこ、日本一!」
「さすが、睦月ちゃんの分身だ・・・。」
睦月ちゃんが高性能だと、物語が終わってしまう! それを回避するためには、忍者は、へっぽこぐらいが丁度いい。
「お取込み中の所悪いが、待つのも疲れた。もういいかな。」
そこに、見るからに人ではない者がライたちの前に現れる。
「何者だ!?」
「私は四方を司る悪魔の1人、アマイモンである。」
「甘いモノ!?」
「アマイモンだ!」
アマイモンの名前で遊ぶのは、お約束のようなものだと思う。
「私を舐めていると、痛い目にあうぞ!」
「甘いめ!?」
「痛い目だ!」
これで、つかみはOK!
「竜の力を使いし者をこれ以上、畿内に近づけるなとの命令でな。」
「なに!?」
「悪いが、ここがおまえたちの死に場所だ!」
「それは、どうかな?」
アマイモン対ライの戦いが始まろうとしていた。
「ライ、気をつけろよ!」
「がんばれ! でござる!」
「がんばって!」
家久は、どうしても竜の力を使えるライに頼りがちである。いつも戦いをライに譲ってしまう。師走ちゃんと霜月ちゃんは、最初から他力本願である。ピンチになれば一目散に逃げだす準備はできている。
「私には、どんな攻撃も効かないぞ。かかってくるがいい!」
「いいだろう。なら、こっちからいくぞ!」
ライは、アマイモンに勢いよく走り、突撃しながら鞘から剣を抜き構える。
「でやあああ!」
「テレポーテーション。」
「な!?」
ライは、剣でアマイモンを斬った。斬ったはずだった。しかし、アマイモンの姿は消え、ライの剣は空を切り裂いた。
「消えただと!?」
「敵も忍者でござるか!?」
「あ! あっちにいる!」
アマイモンは、瞬間移動でライの攻撃をかわしていた。
「私には、どんな攻撃も当たらないのだよ。なぜなら、私が時間と空間を支配する悪魔だから。」
「時間と空間だと!?」
アマイモンは、剣や槍などの武器は持っていないが、悪魔の魔力で時間と空間を自由に操ることができるのだ。故にアマイモンは、どんな攻撃でも回避する自信があるのだ。
「でも、攻撃をかわすだけでは、勝つことはできないぞ!?」
「フ、時間と空間を自由に扱えるのに、攻撃ができないわけないだろう。」
「なに!?」
「グラビティ。」
「うわあ!?」
ライの体が何かに押さえつけられるように、重く動かなくなる。しかし、誰にも押さえつけられてはいない。
「これは!? 重力!?」
「そう、重力だ。時間と空間を操る私は、重力も扱うことができるのだよ。」
「クソ!?」
身動きが取れず押さえつけられ、片膝をつくライ。余裕ある表情でゆとりのある、アマイモン。あきらかにライは、劣勢であった。
「おまえたちは、小舟に乗ってやって来たのか。ワープ。」
アマイモンが次元の狭間に小舟を吸い込ませる。小舟が異空間に消された。
「しまった!? 逃げ道が無くなったでござる!?」
「違うな。小舟を消したのは、おまえたちの退路を断つためではない。」
「なに!?」
「ワープ。」
ライの頭上に次元の入り口が開き、吸い込んだ小舟が現れる。
「竜使いの頭上から落とすためだ!」
ライ目掛けて、小舟が落下してくる。ライは重力に縛られて、身動きが取れない。ドカドカドカっと小舟がライを直撃する。衝撃で周囲に爆煙があがる。
「ライ!?」
「ライどの!?」
「あわわわわ!?」
家久、師走、霜月は心配そうに眺めるしかできなかった。
「竜使いも、これで一巻の終わりだな。ワッハハハ!」
勝利宣言をするアマイモン。
「それはどうかな。」
爆煙の中から、ライの声が聞こえる。
「なんだと!? 生きているというのか!?」
アマイモンは動揺する。煙が晴れてライの姿が見えてくる。ライは、鎧を身にまとっていた。
「鎧だと!?」
「3竜の鎧。」
ライは鎧を身に着けた。「制覇! 3」まで、主人公に鎧という観念が無かった。母殺しのバカ息子は「制覇! 2」でヤマタノオロチの8竜の鎧を身にまとっているというのに・・・。
「小舟が降って来て、もうダメだと思った時に、3竜の鎧が現れ、俺を守ってくれた。」
「くそ!? そんなんなのってありか!? もう一度重力で縛ってやる!」
「やらせるか!」
ライは3竜雷剣を鞘から抜き、必殺の一撃を放つ。
「3竜雷覇!」
ライの剣から海竜、火竜、空竜が、アマイモン目掛けて放たれる。
「ギャア!?」
3竜雷覇は、アマイモンに命中。アマイモンを倒した。
「勝ったぞ!」
「勝利でござる!」
「ああ!? アマイモンが動いてる!?」
まだアマイモンが生きているのだ。
「くそ・・・これでも私は悪魔。ただでは死なんぞ・・・ライ、おまえを畿内には入らせんぞ! スキップ・ディメンション!」
アマイモンは、最後の力を振り絞る。ライの頭上に次元の入り口が開き、ライを吸い込んでいく。
「うわあ!?」
「ライ!?」
「ライどの!?」
「あわわわわ!?」
「竜使いよ! おまえを別の次元に飛ばしてやる!」
ライは何の抵抗もできずに、次元の彼方に飛ばされていく。
「う、動かない!?」
次元の狭間は、無重力空間なので、ライは思うように体を動かせない。
「ライ! こいつを連れていけ!」
「え? キャア!?」
家久は、師走ちゃんの手を掴み、次元の狭間に投げ込んだ。
「これで私の役目は果たした・・・。」
バタッとアマイモンは、息を引き取った。そして、次元の入り口は塞がれた。
「ライはどこへ飛ばされたんだ!?」
「私が飛ばされなくって良かった。」
不安と安堵する2人。
「痛い!?」
「ライ! 聞こえるか! ライ! 返事を知ろ!」
家久は、霜月ちゃんの頭を手で掴み、ライと連絡を取ろうとするが、ライが師走ちゃんの頭を掴んでいないと連絡が取れない、どうしようもない通信手段だった。
「お困りですか?」
そこに漁師が近づいてくる。
「隣の伊勢志摩には、那智の滝という水竜さまが住んでいるという滝があるそうです。行ってみてはいかがですか?」
「そうだな。水竜なら、ライの居場所を知っているかもしれん。」
「そうしましょう。これ以上、頭を掴まれては、霜月ちゃんが死んでしまいます!?」
家久と霜月ちゃんは、次の目的地を那智の滝に決めた。
「ありがとう、漁師さ・・・いない!?」
「消えましたね。」
助言をくれた漁師の姿はどこにもなかった。いったい何者なんだろう。果たして、ライはどこに飛ばされてしまったのだろうか?
こうして、紀伊は制覇された。
ここはライのサイド。
「う・・・んん・・・こ、ここはどこだ?」
アマイモンにどこかに飛ばされたライ。やっと意識を取り戻した。
「zzz。」
家久に次元の入り口に投げ込まれた師走ちゃんは、まだ意識を失っている。よっぽど楽しい夢でも見ているのだろう。ニタニタ笑いながらよだれを垂らしている。
「寒い!? これは雪!?」
ライの周りは白い雪に包まれていた。雪だ。辺りは雪で囲まれていた。
「ここは蝦夷だよ。」
ライが声のした方を振り返ると、どこかで見たような、一人の女の子が立っていた。
「君は!?」
「雪ちゃんだよ~♪ ライ。」
そう、この展開は竜の使いの登場である。海ちゃん、火ちゃん、空ちゃんに続いて、現れた4人目の竜の使い、雪ちゃんだ。
「雪ちゃん、蝦夷ってどこなの?」
「北海道~♪」
「北海道!? そんな、俺は京に行かないといけないのに!?」
ライは、京で歴史に名を残す者たち、三好悪魔軍と戦わなければいけないのだ。仲間たちのことも心配である。
「無理だね~♪ それより雪竜さまが呼んでるから、こい~♪」
「雪竜さま!?」
「こっちだ! 吹雪の中に突撃すれば会えるよ~♪」
「無茶苦茶だ!? クソ! えい!」
ライは、雪ちゃんに言われるがまま、吹雪の中に飛び込んだ。
「不思議だ。雪が荒れ狂っていない?」
吹雪の中は意外と平和だった。雪が吹雪いていて前が見えないなどということはなく、静かな無風状態だった。
「おまえがライか?」
そこに雪竜が現れる。全身が白い色の竜で全身が、まるで雪に覆われているようだった。
「はい、雪竜さま。」
「蝦夷に来るにはまだ早い、ここはまだまだ未開の地だ。なにかが眠っているだろうが、まだ、そこにたどり着くことはできない。」
蝦夷。雪に覆われた、謎の土地なのである。そして、蝦夷には何かが眠っている。春に来ても本当の姿は見せないが、冬に来ても雪が激しすぎて、前に進むこともできない。
「雪竜さま、俺を京まで行かせてください! 仲間が京で待っているんです。」
「容易いことだが、それはできない。」
「なぜですか!? 俺は早く仲間の元に行かなければいけないんだ!?」
ライは、京に行って戦いたい。もう誰かが死ぬところなど見たくは無いのだ。高橋紹運の時のように。
「安心しろ。京には結界が張ってあって、誰も入ることはできない。」
「なんだって!?」
「誰かが張った結界の中で、勝負が着くまでは、誰も入ることはできないだろう。」
「それじゃあ、なんのために・・・!?」
ライたちの仲間は、まだ京に結界が張ってあり、上洛することができないことを知らない。
「ライ、おまえにはやるべきことがある。」
「なんですか?」
「おまえには、この世の災いに勝つために、あと5竜に会わなければいけない。」
「5竜!?」
ライは、9竜の力を手に入れなければいけないのだった。その時、ライに宿りし、戦いとイカズチの神が甦るのだ。
「9竜の力があれば、京に張り巡らされた結界も壊すことができるだろう。」
「・・・分かりました。9竜に会いにいきます。」
ライは、京の結界を壊すためにも、先に竜に会い、認めてもらい、力を与えてもらわなければいけない。
「1番近い次の竜までは、雪ちゃんに案内させよう。」
「ありがとうございます。」
「雪ちゃんを通して、おまえの行動を見ている。私が、おまえを認めた時に、私の力を授けよう。」
そう言うと雪竜は消えていった。周囲の吹雪も治まった。雪竜は、まだライを認めていない。まだライは、雪竜の竜玉を手に入れていない。
「ライ、よろしくな~♪」
「こちらこそ。」
「さあ! 津軽海峡を渡るよ~♪」
ライの北国からの新しい冒険が始まった。しかし、何かを忘れているような・・・。
「うわあーあ! んん・・・ご飯の時間かな?」
忘れ物は、へっぽこ忍者の睦月ちゃんの分身の師走ちゃんである。寝ぼけながらやっと目が覚めたのである。
「さむ!? ここはどこだ!?」
師走ちゃん辺りを見渡すと真っ白で、自分がどこにいるのかも分からない。
「ライ! お母さん! 誰かいないでござるか!」
師走ちゃんは半べそを書きながら、自分が迷子のかわいそうな子供のように思えた。
「あ、目が覚めてる。」
「ライ!」
ライと雪ちゃんが、眠っていた師走ちゃんの元に帰ってきた。師走ちゃんもライたちを見つけた。よっぽど心細かったのだろう。師走ちゃんはライの元に走って飛び込む。
「うわあ!?」
「ライ、一人で怖かったでござるよ!?」
「ごめんごめん。雪竜さまに会っていたんだ。」
「雪竜さま?」
「私が雪竜さまの使い、雪ちゃんだよ~♪」
「拙者は、師走ちゃんでござる。ライ、師走ちゃんが眠っている間に新しい女を作るとは、お主、なかなかやるな。」
「なぜ、そうなる。」
「ワッハハハ!」
ライ、師走ちゃん、雪ちゃんの楽しい冒険の始まりである。
つづく。