第2話。
このロボットの名前何にしよう…
(なるほど、夢かこれ。)
夢だと思うと妙に納得できた。手や足、自分の体に全く感覚が無い事。ゲームでは表現されていない機体の駆動音や、建物にぶつかった時の音と衝撃、グラフィックもリアルすぎる。
(持ち上がった胸部装甲はコクピットハッチかな?とりあえず自爆装置は解除しとこう。)
改めて機体情報を確認する。OSの項目はやはり自分のキャラの名前だ。本名が記載されている括弧内には、本来はゲーム内で設定しているシステム音声の声優の名前が入る。
「あ、あー、アー。」
試しに発声してみる。ややエコーがかかった機体的な響きだが、確かに自分の声のようだ。
次に各パーツの詳細を見ていく。このゲームの機体は複数のパーツを組み合わせて構成する。ヘッド、ボディ、レッグスは見たことのない型番だが、表示されているスペックではなかなか高性能なパーツのようだった。ただ、アームと武器の組み合わせは残念と言わざるを得ない。
武器は右腕のフルオートのマシンガンのみ。マシンガンの中では重量があるが、威力が高いタイプだ。だが今装備しているアームとの相性が悪い。アームは軽量タイプを装備している為、今の武器の重量が重すぎるのだ。
(照準合わせも遅くなるし、撃ったら滅茶苦茶にブレるんだろうな…)
「ビビビッ!」
不意に警報が鳴る。自機がロックオンされた際に鳴る警告音だ。
(やっべ、忘れてた。)
敵が1機、ライフルを構えて近づいてくる。更にその後ろから2機姿を現した。後ろの2機からもロックオンされたのか、続けて2回警報が鳴る。
(撃ってこないな…)
ロックオンされた時点で有効射程内だったと思われるが、発砲はされなかった。コクピットが開いている為、無人だと油断したのだろう。先頭の1機がライフルの銃口を下ろした。
(…チャンス!)
敵はこちらに戦闘能力があると思っていない。ゲームなら動こうが動けまいが問答無用で攻撃される状況だが、もしこれがリアルだったらそんなことはしない。
(戦車でも10億、戦闘機なら100億はする値段だ。このロボットいくらするかは知らないが、気軽に傷付けられる値段じゃないはず…)
敵は動かない。3機のうち後方の2機はまだ銃口をこちらに向けたままだ。
(そういえばクーゴって男が言ってたな、「機体は持って帰れなくなった」とか。敵勢力から強奪しようとしたのか?)
ロボット物のアニメで機体の強奪や破壊工作はメジャーな要素だ。そしてそれらの対象になる機体は、決まって高性能な新型機や特殊な実験機だったりする。
(もしかして俺って何か特殊な能力を持ってたりするんだろうか。)
機体のオプション画面を別ウィンドウて開いてみる。ゲームの画面と違って項目が多い。どこから見ていこうかと悩んでいたが、ふと検索機能がないかと思い付いた。そう思った次の瞬間には別ウィンドウで検索機能が開かれていた。
(考えるだけで色んな機能が使えるんだもんな、便利だな俺。)
夢とはいえ、色々と試行錯誤してから気付くべきことをすっ飛ばしている気がする。
敵が動かないのは通信中ではないかとアタリを付けて、「通信傍受」と検索入力してみた。
(マジかよ…)
「通信傍受」がドンピシャでヒットする。早速使ってみた。チューナーのようなウィンドウが開き無線の周波数と思われる数字が超高速で進んでいく。1秒もかからずにある数字でピタリと止まると、目の前の敵のものと思われる会話が聞こえてきた。
どうやら敵はこの機体を運ぶ輸送車の手配をしているようだった。だが俺は、敵の会話よりも先程検索した機能の結果の続きか気になっていた。
(なんだこのチートスキル…!)
検索結果には続きがあった。「関連性の高い機能」という項目。その中の一つが特に目を引いた。
「ハッキング」
説明文は一切なかったが、その単語を見た瞬間頭の中に機能の説明が流れてくる。いや、流れてくるというよりも「思い出した」というような感覚だった。
(射程距離70メートル、最大1機まで、ハッキング完了までの時間…はやってみないとわからないか。)
先頭の敵機に視点を合わせると、敵機までの距離とハッキング完了までの時間が表示される。
(77メートル、約4.7秒)
頭の中で敵を攻撃するプランを構築していく。敵の通信を傍受しながら、行動を起こすタイミングを図っていた。
次回、初戦闘。