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第12話。

「十蔵!おい十蔵!」


呼び掛けても返事がない。


「くそっ!」


十蔵はいきなり自機の頭部を撃ち抜いた、あの時なにかされていたのだろう。あの時の十蔵はなにか様子がおかしかった。ひとまずキャリアーに通信を繋ぐ。


「キャリアー聞こえるか?十蔵がイカれちまった。」


すぐに返信がくる。


「聞こえたけど何言ってるか分かんないんだけど。」


「あー…っと何から言えばいいか…。」


「まず敵は?倒したの?倒してないの?」


「あ…た、倒した!」


「それで…」


「バーカ俺が残ってんだよ。」


(デビルエリゴール…!)


キャリアーからの通信にデビルエリゴールが割って入る。


「倒してないじゃない!」


「そ…そうだった、すまん…。」


すぐさまモニターとレーダーを確認する。レーダーは前方から近づいてくるATを一機補足していた。敵機の方向に視点を合わせると、一機の軽量級のATが隠れる素振りもなく高速で飛行しこちらに向かっていた。


「随分余裕だなぁ。」


デビルエリゴールがねっとりとした口調で話しかける。背筋が凍るようなぞわりとした悪寒が走る。通信の周波数を変えてキャリアーに再度連絡を入れる。


「キャリアー、敵はライトタイプだ。見たとこ武器はハンドガンだけ、他にあっても手投げ弾か小型暗器。お前の機体なら勝てる。こっちこれるか?」


「すぐには無理よ。ライトくらいならあんたが何とかしなさいよ。」


「へぇー、何とか出来るんだ?」


(もう周波数当てたのか!?)


十蔵と同じゴーストらしく、そういったことは簡単に出来るらしい。


ズドンという音を立てて、目の前のヘビーの横にデビルエリゴールと思われるライトタイプのATが着地する。


(ヤバイぞ…)


こちらには手持ちの武器が無く、敵も軽装とはいえ右手にはハンドガンが見える。爆裂ヌンチャクのような仕込み武器もあるかもしれない。何とか助かる方法を模索するが、敵は考える時間すら与えてくれないようだった。


ズドン。敵が一発だけ発砲した。突然の事で何処を撃たれたのか分からなかったが、機体のダメージ表示は右手が新たに破損したとある。まだ何か仕込み武器があると疑ったのだろう。仕込み武器は無かったが、これで武器を拾うという選択肢が無くなった。


(逃げる、しかない…!)


戦うという意思を削がれた今、クーゴの頭のなかには逃げるという選択肢しかない。デビルエリゴールは動かない。何故だが分からない、話しかけても来ない。それがクーゴにとっては耐え難い恐怖だった。どうやって逃げるかを色々と考えてはみたが、何をやっても無理な事に思えてしまう。どうやって逃げるかではなく、早く此処から立ち去りたいとだけ思うようになった。呼吸も荒くなり、早く此処から立ち去りたいとは思うのだけれど失敗する事を考えるとそれを行動に移せない。次第に吐き気が胃から胸の辺りに登ってくる。終わってほしいようで終わって欲しくない、そんな時間がクーゴに流れていた。


そんな時間を最初に破ったのはデビルエリゴールだった。


「お前よぉ。」


問いかけるようにポツリと呟いた。次に何を言うのか、救いとなる言葉かそれとも絶望となる言葉か。クーゴの呼吸は最高潮に荒くなった。眼を瞑って祈るような、それとも念じるような、「生きたい」「助けて」「頼む」等の、決して言葉にはしなかったがそれらの思いが彼の頭の中に満ちて、そして次の言葉を待っていた。


「そいつを車に積め。」


「は…はい…」


返事をするしか選択肢がなかったが、少なくともそれが終わるまでは命の保証がされるのだと解釈した。


「…っぅ…」


「…何だ?」


「いや…いえ、何でもないです…」


生かして帰してくれるのか、それとも殺すのか。それを聞くことは出来なかった。


(多分殺される。)


そう思っていたほうがクーゴにとって楽だったのだろう。仮に問い掛けたとして「生かしてやる。」と言われたとしても、事が済んでから「やはり殺す。」などと欺かれかねない。生きて帰れればそれはそれで願ったり叶ったりたが、殺されるとしても「あぁ、やっぱりな。」と諦めがつく方をクーゴは選んだ。


「早くしろ。」


言われるがままに機体を動かす。デビルエリゴールの機体の横を抜ける時は生きた心地がしなかった。そのままの速度で輸送車目指して機体を歩かせていたが、不意に背部をハンドガンで撃たれた。


「はやくしろと言った!」


意図したわけではないのだが、ゆっくり歩かせていたのが気に入らなかったらしい。突然の事でパニックになり機体の動きを止めてしまった。


「止まってんじゃねぇテメェコラァ!」


デビルエリゴールがハンドガンを連射する。クーゴの恐怖が限界にまで達する。「うぁあああああ!」と金切り声のような叫びを上げ、背部からのハンドガンの衝撃の響くコクピットの中で頭を包みながらうずくまってしまう。クーゴの叫び声を聞いてデビルエリゴールは更に逆上した。


「ざっけんなぁクソ人間が!」


「あぁあああぁああ!」


「テメェぶっ…」


その直後だった、ドズンという音が少しの揺れと共にコクピットに響いた。


「うわ、だっさ。」


キャリアーの声だった。


「何だテメェ!?」


「キャリアー!?」


クーゴの機体のサブカメラの一つがキャリアーの機体を捉えていた。


「そっちから私たちの通信に割り込んできた癖に、何だとは何よ。」


デビルエリゴールの返答を待たずにキャリアーが続けた。


「アンタぶっ潰して溶鉱炉に沈めてやるわ。」


直後、キャリアーの機体は凄まじい加速でデビルエリゴールに肉薄した。


キャリアーの機体は俗に言う格闘機というやつだった。ベースはスタンダードタイプATだが腕部は格闘武器の使用に特化した特別製、機体各所のハードポイントに姿勢制御用のスラスターとバーニアを装備し運動性を高めている他、メインブースターと併用しての短距離での高速移動を得意とする。武装は両腕の前腕部のハードポイントに小型の速射砲と、両手に大型のトンファー、両肩にはセンサーのような機器を装備していた。


(ぐぅ…!)


デビルエリゴールは焦っていた。ただ単に闖入者に驚いたからではない。それどころか冷静に戦力と状況を瞬時に分析していた。

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