第1話。
とりあえず、書きたいだけ書く。
ストーリー進めたいので、文章力で悩むのは後にしよう。
すごく長い時間、誰かのプレイを見ていた。と、思う。
今自分の目に映っているのは、とあるロボット物FPSオンラインゲームのプレイ画面だ。自機が勝手に動いているので、他人が配信している動画でも見ているのだろう。いつから見ていたか覚えていないのだが、これまでの流れは大体頭のなかに入っていた。
ゲームの戦況はだいぶ劣勢であるらしい。廃墟のような崩れたビル群の合間を、時折振り返りながら進んでいる。レーダーには敵と思われる黄色い光点が3つ、少しずつだが距離を縮めながら追って来ているようだ。
プレイヤーの息遣いがやけにリアルに感じられる。その息遣いだが、どうも様子がおかしい。肩で息をしているように荒く、それでいて小刻みに呼吸を繰り返す。喉が渇いているのか、粘性のある唾を飲み込むような気配さえする。
(これホラーゲームじゃねぇんだけどな…)
はっきり言って「たかがゲーム」で、こんなにも恐怖を感じている息遣いをするだろうか?もしこれが演技でないのなら、「彼」はこのゲームには向いていない。この程度で恐怖を感じ冷静さを欠くのなら、上位の戦場では全く通用しないだろう。
その後しばらく「彼」は逃げ続けた。焦っているのがコース取りのミスも多い。レーダーの3つの光点に距離を縮められていた。
(そういえば、この人どんな機体使ってんだろ?)
ふとそんなことを考えた。次の瞬間、プレイ画面とは別に機体情報のウィンドウが目の前に開く。
(…あれ?)
いくつか違和感があった。
そもそも他人の配信している動画を見ているのなら、操作に干渉など出来ない。他人がゲーム内で機体情報を開かない限り、いくらこちらが操作しても機体情報は表示されることはない。
更に機体情報には全く見たことのないパーツが表示されている。ヘッド、ボディ、レッグス、初めてみる名前だ。はっきり言って自分はこのゲームではかなり上位のプレイヤーだ。パーツの名前は勿論のこと、全パーツの特性や武器の種類を暗記している。
何より驚いたのは機体のオペレーティングシステムの名前だった。
「OS:Juzo(和田 十蔵)」
(…俺?)
本来パーツの名前が入るべき場所に何故か自分のキャラの名前があった。隣には括弧書きで自分の本名が入っている。
「んだよ畜生!」
突然「彼」が大声を上げた。何事かと思いプレイ画面に視線を戻した。「彼」が逃げ込んだ先は袋小路になっていた、コース取りをミスったのだろう。引き返そうと振り向くが、一歩だけ踏み出して止まってしまった。
(ここで迎え撃つ気かな?)
「こちらクーゴ、キャリアー聞こえるか?」
(…ボイスチャット?)
直後に、機体から妙な駆動音が聞こえた。ゲームの画面下部から駆動音と連動しているかのように、機体の胸部装甲が持ち上がっていくのが見える。続けて聞き覚えのある警告音が鳴り響いた。このゲームでは自爆装置の起動音だ。
「聞こえます、クーゴ。どうぞ。」
女性の声だが、ややノイズがかかっている。キャリアーと呼ばれている人らしい。
(俺の知ってるボイチャとなんか違うな…)
「キャリアーすまん、機体は持って帰れなくなった。どうぞ。」
「脱出はできるのね?どうぞ。」
「大丈夫だ。機体は自爆させておく。今は脱出を急ぐ、合流の話は後にしよう。どうぞ。」
「了解、気をつけて。」
画面の端に走り去っていく男の姿が見えた。
(もしかして、アイツがプレイヤーだったのか?)
走り去っていく男がやけに小さく見える。設定ではこのゲームのロボットの大きさは12メートルらしい。
男がロボットから降りてしばらくすると、奇妙な感覚に襲われた。自分の体の自由が戻っていくような感じがする。試しに左手を目の前にかざしてみた。ゲームの画面にはロボットの左手が映っていた。