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微睡みに賭けるモノ

作者: 湯納
掲載日:2017/03/11


 今日、3月11日。私からすれば特に何でもない、普通の日だ。

 

 とはいえ、連想するものは確かにある。それはメディアによる刷り込みによる物かもしれないし、或いは自身の記憶や感情による物かもしれない。

 何れにせよ、今日という日をもって私はこんな書き出しで、連想に連想を重ねた思い出を語ろうと思う。


 「地震と言えばそう、こんな事があった」



 あれは去年の終わりくらいだったか。

 意識が浮上したのは、全身を揺さぶる不快感と、耳障りな轟音に安眠を阻害されたからだった。


 しばしの時を経て。

 ゆっくりと起動を始めた脳細胞たちによって、それらが一つの現象に由来するもの、即ち『地震』によるものであると結論付けるに至った。


 未知が既知のものへと変わり、少しの安堵を齎すまでは良かったが問題はその後に起きた。


 地震が起こった時の正しい対応は何か。

 義務教育で培われた知識によれば、脱出経路の確保と身を守れる状態にする事。


 脳は当然、そうした常識を、蓄えられた記憶層から瞬時に引っ張り出し警告を試みた。


 しかしながら、体は動かない。

 睡眠という極大の欲求に、危機感が抑えつけられているのだ。


 これが大地震だったなら、死に繋がる可能性は少なくともないとは言い切れない。それだけで、リスクは十分に高いと言えよう。


 起きるべきであると。一度でいいから今は起きて様子を確認し、安全と判断できたらもう一度ゆっくりと寝ればいい。

 だから、今はとりあえずでいいから目を開け布団から出るべきだと。


 脳は何度も警鐘を鳴らし、そして、布団が温かかった。


 布団が、 温かい。 眠い。



 冷静な状況判断からなる恐怖と、本能的な欲求の狭間で。

 微睡んだ思考は、不安に煽られながらも命をBetして安眠を選んだ。


 まだ揺れる世界の中で。怖いと感じ身を丸くしながら。

 私は再び、意識を手放した。あとはダイスロールの出目に任せてしまえと。



 そんな事も朝にはすっかりと忘れ、いつものように目覚ましを止めスマホのSNSアプリを起動する。

 朝食時に「地震があったね」と家族で話題に上がった所でようやく思い出す始末だ。


 しかし、思い出してしまった私はゾクリと背筋を這う狂気を前に食事の手を止めてしまった。

 蘇った記憶は濁流のように脳内に流れ込み、鮮明な映像を伴って自身の思考を克明に映し出したのだ。


 そう、あの時。

 大地震かもしれないという可能性にまで、確かに思考は及んでいた。


 しかし、結局は欲求に負けて睡眠を取ってしまった。

 意識を手放す寸前に私は確かにこう考えていた。


「地震で死ぬことなどどうせ無い。もしも死んだなら、運がなかっただけだ。」

「それに、仮に死ぬ可能性が高い大地震だったとしても、運が良ければ生きてるだろう。」

「私は賭けなら強いのだ。ポーカーも得意だし。だから大丈夫だろう」


 恐ろしく破滅的な思考。


 ポーカーのプレイスタイルはタイトな方だ。 

 命を賭ける(オールイン)なんて、とんでもない。


 正常な私のプレイとは"真逆"なのだ。

 微睡みとは、かくも恐ろしいものである。

初めてエッセイ書きました。内容は他愛もない話ですが。

どうぞ良い睡眠と、適度な危機管理を。

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