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俺のユステル

 おう俺は山賊だ

 今はユステルを根城にしてる。

 今いる都市はユステリアと言ってな一応ユステルの中心みてえだ。それが美味い。

 ここには盗賊、山賊、悪徳神官がゴロゴロいやがる奴等金をしこたまため込んでいやがるからな。

 もう毎日最高よ。


 そーでもないんだなー。

 こいつら地味に相互監視してやがって余所者の入る隙間がねえ。

 互いが互いを敵としつつも、守っていやがる。

 なんちゅう奇妙な関係なんだ。

 すっきりしねえ街だなここは。

 お蔭でまともに仕事が成功したためしがねえ。

 いつもどっかで邪魔が入りやがる、

 アジトはなんとか確保できたがそっからが進まねえ。

 完全に手詰まりだ、自分の食い扶持すら世話出来てねえ。

 なさけねえ話だが今は完全にシャルに食わせてもらってる。

 こいつはスラムのネズミ共をいつの間にか子分にしたみてえでな、そいつらがチュウチュウと拾った食いもんを大親分の俺に分けてくれんのよ。

 泣ける話だぜ。

 子分の献身が身に染みる。

 

 おっと、わりいなニュウ。毛繕いだな、ほら手に乗れ。

 今日はユステリア一の美人にしてやるぜ、ほれほれ。

 いてっ、シャル怒るなよ。わりいわりいユステリア一の美人はお前だったな。

 じゃあニュウは2番街一だな。…っなんだ、不満か?

 しょうがねえなあ、それじゃあ北街一だな。うし、綺麗になったぞ。


 俺の仕事は子分達の毛繕いだな。

 シャルとニュウは特に身だしなみにうるさくてな、一日三回は世話してるぜ。

 こうなったのはニュウがシャルの子分になってからだな。

 ニュウは元々ここいら一帯のネズミ共の親分だったみてえだが、今じゃあシャルの子分兼ライバルみてえになってやがる。

 それでニュウはすげえ綺麗好きだ、とてもドブネズミとは思えねえぐらいのスラリとした体躯に、さわり心地の良い白毛だ。

 一目見た時に俺がまいってすげえ可愛がっちまってな、それからだ、シャルが綺麗好きになったのは。

 毎日風呂を要求するし、チーズより果物を好んで食うようになっちまった。

 俺が肉を食うように言ってもたまにチーズを食うぐれえだ。

 なんかビアナとマーシェを足したみてえになっちまったな。

 少し心配だがまあとりあえずいいか。

 

 …実は他にも子分は増えたんだ。

 犬のガンに猫のロン、鶏のジェットだ。

 自分でも何しに来てんのか分かんなくなっちまうが、こうなった。

 ガンは俺がユステリアでのアジトの下調べをしてる時に見つけてな、奴は腹減って倒れてやがった。

 勿論俺は無視して下調べを続けたんだが、向かう場所向かう場所になぜか倒れた状態でいやがる。

 俺は無視し続けた、当然だ、俺には恵む余裕なんてないからな。

 そしたらガンは起き上がってヘラヘラ笑って物乞いを始めやがる、犬にあるまじき緩んだ面してやがった。

 俺は負けたよ、島に置いてきたプリッカを思い出しちまってな、それから子分だ。


 ロンとジェットは今のアジトに元々住んでた、異色の組み合わせだがうまくやってたみてえだな。

 ただお互い数日に一度ガチな勝負しやがる、俺がアジトに入った時もそんな勝負でお互いが相打ちで沈んだ時だった、その時こいつらを助けた縁で俺はこのアジトを使ってる。

 最初ジェットは非常食のつもりだったが、いまじゃあそのつもりはねえ。

 っつうのもジェットは、ロンもだが、すげえストイックなんだ。

 動物相手に何言ってんだって思われるかもしれねえが、これはマジだ。

 どれくらいかとマジかっつうと、自分より身体の小さいシャルから餌を恵んでも貰った時に、頭を下げると鋭く小さく鳴くんだ。

 コケッ、ニャッ、とな。

 それ以外の時間は部屋の隅で瞑想するか、俺達の邪魔にならねえようにトレーニングしてやがる。

 どうやら餌を探す時間すら惜しんで強くなりてえみたいだな。

 ロンは目の前に餌になるネズミ達がチョロチョロしてんのに見向きもしねえでトレーニングだ、それにどんな餌でも恵んでもらえばネズミに頭を下げるその姿勢。

 ジェットもどんな餌でも、そう鶏肉でも一声鳴いて頭を下げると静かに食しトレーニングを始めるこの姿勢。 

 俺はこいつ等に惚れちまったよ、だから気付いた時には子分にしてた。

 

 っつうわけで俺達は今シャルの子分達に養われている。

 だから序列はすっきりしてるぜ、シャルが筆頭だ。

 ロンもジェットもシャルとニュウには恭しく接してるぜ、なんかとんでもねえ光景だが、これがうちの日常だ。ガンは食っちゃ寝だ。

 

 俺は朝起きると、腹の上で寝てるシャルとニュウを起こして、チュウタロウ達の持ってくる食いモンで朝飯の準備だ。

 前は何でも欠片が多かったんだが、今じゃあジャガイモ丸ごと一個とか、チーズ一個とか調達してきやがる。

 質がえれえ上がってきてやがる、どうやってんだと思ったがシャルに秘密と鳴かれてしまった。

 まあありがてえからいいか。

 その間にシャルとニュウは自分たちで毛繕いだ、ガンは寝てる。ロンとジェットは静かにトレーニング中だ、っつうかまともに寝ているところ見た事がねえ。

 飯を食い終ると、俺が手伝って本格的な毛繕いだシャルとニュウはうっとりしてやがる。

 その脇で二匹(羽)は瞑想だ。

 ガンは飯を食い損ねて俺のまわりをウロウロしてやがる。

 そうこうしているとチュウタロウ達がまた食いモンもってくる、ガンがうるせえ。

 昼飯を作ってまた皆で食べる、チュウタロウ達は自分たちで食ってるみてえで遠慮しやがる、なんか申し訳ねえなあ。

 で、本日二回目の毛繕いだ、シャルとニュウは気持ちよすぎて寝ちまったみてえだ。

 ロンとジェットは静かに勝負開始、ガンは食いすぎて動けねえみたいだ。

 で、またチュウタロウ達が食いモンを持ってきて、飯食って、風呂入って、三回目の毛繕いだ、この時間はチュウタロウ達の毛繕いもしてやっている、さすがに全員は無理だから順繰りやっているが。 

 ロンとジェットは勝負の反省をしてるみてえだ、さっきからすげえ鳴きまくってる。

 ガンはもう寝てる。

 なんか幸せな時間だぜ、子分達に囲まれて慕われて鳴かれてたまんねえなあ、おい。

 見ろよ、チュウタロウ達待ちきれなくなって俺の身体中至るところに上りやがる。

 可愛い子分達だぜ。


 って、おいおい。俺はビアナの足を治す金を貯めに来たんだろうが、マジで園長してた。

 いかんな、なんか考えねえと。

 飯には困ってねえが金は全然溜まってねえ。

 どうすりゃいいんだ。

 チュウタロウ達に金貨でも集めさせるか、いや、それは山賊としてどうなんだ、だがしかし、うーむ。

 俺の山賊だと一、二人相手が限界だからな、それ以上だと俺の存在がバレた上で逃げられちまうし、路地裏は監視対象みてえだからな、山賊をやること自体が厳しい。

 それにそんな少人数相手にチマチマ稼いでもしょうがねえ、ドカンとデカく稼ぎてえ。

 いっそ開きなおって奴等のアジトに堂々と山賊をかけるという手段もあるか、…報復がこええな。

 なんかねえか?

 俺だとバレねえで、あいつ等のアジトを丸ごと頂く作戦は。







 俺はいつものように深夜の時間帯を見定めアジトに籠っている獲物を襲った。

 奴等は六人だった、意気揚々と騒ぎながら酒を酌み交わしている。

 俺はゆっくり獲物を見定め所定の位置に着いた。


 ブレーメンフォーメーションだ。


 明かりの乏しい奴等のアジトの窓べりに寄ると、俺の頭の上にガンを乗せ、その上にロンを乗せ、その上にジェット、その上にシャルとニュウだ。

 これは、伝説の音楽隊に入らずにそのまま小屋で幸せに暮らした動物達の必勝の陣形だ。

 この陣形を使うようになってからは、ユステリアに一つの不思議が増えた。 

 俺は信奉する悪徳の神リーファイスに祈りを捧げた。

 チュウタロウ達が監視の誘導に成功しますようにってなあ。


(命が欲しけりゃ、金も食糧も置いてきな)


 いつもの口上、いつもの陣形、いつもの獲物。

 俺は笑みすら浮かべ奴に迫った。

 これは俺の美学だ。アジトの中の奴等は大丈夫だが、外から監視している奴等は見られる角度が悪ければ俺らは只のアホだからな、チュウタロウの手腕にかかっているぜ。

 俺はいつものようにしゃがむとガンを頭に乗せ、いつものように子分に合図を送る。

 そうするといつものように子分たちが上に積み重なっていき、ブレーメンタワーが出来上がった。

 

「山賊だーーー!」「ワオーーー!」「ニャーーー!」「コケーーー!」「「チュウ」」

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