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俺の海での山賊団 その五

 それからが大変だった。

 自分達の親分だけを目立たせようとする案ばかりで、碌な提案がねえ。

 沈着冷静なミーシャが


「大親分、姐さんと私達が小船に乗って襲撃をかけます。覆面をする予定ですから大丈夫です、バレません」


 いやバレるだろうが、マーシェの魔法なんか使ったら一発でバレるわ。

 っつうかそんな危ない事させられるわけねえだろうが。

 却下。


「大親分、隣の海域の海賊共も傘下に収めやしょう。なにバレやしませんよ、姐御に一騎打ちをしてもらって水面下で動きやすから、そんで力をためたら商人どもを使ってさり気なく姐御の名で脅してやれば一発で黙りますよ。後は堂々と隣の海域を航行すれば自然とあいつ等の名声も地に落ちるでしょう」


 カイゼル、おめえがそんな迂遠な案を出すなんてな、なんか意外だな。

 わりと良さそうなんだが、駄目だ。

 絶対に海戦に発展する流れだろそれは、名が通っているなら絶対に譲れねえモノがある筈だからな。

 それともわざと海戦するように仕向けてボコボコにする気なのか。

 まさか討伐指定上等だぜ的な気持ちなのか。

 ちょっとカイゼルの目がこええな。

 却下だ、大却下。


「大親分、姉貴と俺達を隣の海域に潜入させて下さいっす。そしたら大親分達には待ってもらうだけ。そう時間がかからないうちにリーシャラ様の光が隣の海域を照らすことになるでしょう。…後は姉貴の号令一つで海軍を飲み込んでやりますよ」


 バレンティン、おめえまともな奴だと思っていたがやはりアイリの子分だったか。

 なんかこええよ。

 なんだよ飲み込むって、目的が変わってるじゃねえか。

 駄目だ駄目だ、超却下だ!!


「おめえらの子分は碌な提案をしねえな」

「頭、面目ない」

「頭様、お恥ずかしい限りです」

「ミーシャもやるようになったね」


 一人違った反応だがまあいい、どうするべきか。

 部分的なら悪くないアイディアなんだがな、皆最後はバレる方向に持っていきやがるからな。

 名声か……。

 簡単に上下するから相場みてえなもんか。

 …どれ、相場師んとこで見た事でも思い出してみるか。

 地域ごとの相場の操作をする時だな、ある地域で麦の値が突出している場合、その地域に麦の放出をすれば値段は落ち着く。

 もしくはその地域を囲むようにして麦が余っていると噂を流しても値段が落ち着いたな。

 そん時は実際の麦の量は関係ねえ、そこにいる奴等がどう思うかが重要なんだよな確か。

 それなら隣の海域の、さらに隣の海域で俺達の名声を轟かせる事ができれば、俺の山賊団の名声に挟まれちまった海軍は井の中の蛙状態になるんじゃねえかな。

 これはイケるか。

 






 イケなかった。

 むしろ海軍に恐れをなした海賊が、海軍を避ける様にコソコソと海域を行き交い、名声を稼ごうとしていると噂になっちまった。

 世の中っつうのは簡単じゃあねえな。

 子分はさらに増えたんだが、さらに隣の海域でも海軍とぶつかっちまって同じ依頼をされちまった。

 ……なんか正面からぶつかっても大丈夫なような気がしてきた。


「っはあ、どうしたもんか」

「大親分、ワシの案をもう一度考えて貰えないでしょうか」

「いえ、私の案を再度検討してください」

「姉貴の後光を―――」

「却下だ」

 

 子分達からの突き上げは日増しに強くってきてる。

 勿論海軍からの催促もすげえくる、何時になったら仕事が終わるんだとな。

 あいつ等すげえおっかねえ。

 討伐指定の書類を目の前でちらつかせやがる。

 しかも二つの海域の海軍が協力しやがって、より広域な討伐指定だ。

 あいつら俺の困った顔を見てすげえ嬉しそうにしやがるからな、なんか目的が変わってねえか?

 困り果てた俺はじゃりガキ(詐欺師)の最後の手段を使う事にした。

 物事の土台を崩す。







 問題の海軍のいる海域にある島の一つを開拓して街にした。

 街の住民はほとんどが俺の元子分達だ、アイリ、マーシェ達に恐怖した連中だな。

 聞くとそいつ等は仕事に困ってるみてえだったから、二つ返事で了承してくれた。

 その島を港街として機能させて、問題の海域の陸にある港街を商人たちに利用させないようした。

 かなり強引なやり方になっちまったが、三つの海域での安全の確保に加え、通行料を減らしたことが功をそうした。  

 さらにその海軍のいる地域が大した産業のない土地柄なのも良かった。

 物資の補給ができる港があるなら、以上の事と引き換えにして多少遠回りになっても利用してくれるようになった。

 随分と時間は掛かったがとりあえずやりたいことには成功した。

 俺個人の全財産と引き換えにな…。

 勿論それだけじゃあ足りなくて団の金もほとんど使っちまった。

 その上、その島を港街として機能させる為に常に物資の輸送をしなければならねえから大赤字も良い所だ。

 まあその甲斐もあってか海軍の名声は落ちた。

 海は守るが、港を守らない海軍として噂が流れてるみてえだ。

 ホッと胸を撫で下ろしたぜ、さすがに表だって反抗したわけじゃあねえから討伐指定は受けねえだろしな。

 依頼してきた海軍達からも感謝といくらかの金銭が貰えたぜ。

 俺の名声と引き換えにな…。

 そう、海軍の名声と共に俺の名声も落ちちまった。

 まあ元々大した名じゃあなかったんだが、一応まとめ役として街からも子分からも認められていたんだがな。

 団の儲けをほとんど使うわ、せっかくの姐達の名声を持ち上げるチャンスをふいにしたからだ。

 それも街を作るッつう軟弱な案だったのが余計に拙かった。

 俺は腰抜けの大親分と言われてるみてえだ。

 俺の直属の子分のプリッカはむしろ島の誕生を喜んでくれたんだが、他の奴らがな…。

 アイリは喜んでくれた、まあこれは当然か。

 マーシェも喜んでくれた、あいつは一種の治外法権みたいな街で好き勝手できる事をすげえ嬉しがってた。

 ビアナがなあ、まああいつも親分として危険を冒せない事は分かってるみてえなんだが、俺が海軍との対決を避けた事を不満に思ってるみてえだ。

 というのも絶対に勝つ自信があり、俺に勝利を捧げたかったらしい。

 まあそんなことをしたら討伐指定をくらっちまうのは理解してるみたいなんだが、二つの海域で大丈夫だったのが頭に残っているみてえだな。


 そんなもんだからビアナの子分達からの陰口がスゲエ。

 幹部連中は理解してるが、それでも抑えきれねえみたいだな。

 前ほど稼げなくなってるのもそれに拍車をかけた、今は三つの海域で商売してるから当然稼ぎは増えたんだが、その分、子分達も増えちまったからな。それに港町の維持費もかかっちまって一人頭の稼ぎが減っちまったんだ。

 さらにそれまでの武名があったから期待しちまってたんだろうな、海軍を倒すっつう痛快な話を。

 俺も身軽ならそうしたんだけどな―――ってしねえか、さすがにそれは後が怖いぜ。

 俺は自分の稼ぎを減らして子分達に分けるようにしたが、まったくもって焼け石に水だった。

 子分たちが多すぎるからだ。

 そんな事をしてるから親分らしく奢る事もできなくなり、部屋で飲むことが増えちまった。

 ビアナ、アイリ、マーシェは自分の子分達相手に忙しいみてえだ。

 なんかすげえ寂しくなっちまったな。


 この部屋で動くものと言えば、俺と、ランタンの中で揺れるちっぽけな火ぐれえか。

 いや、影は結構激しく動いてるな。

 ……なんか俺の状況みてえだ。

 ちっぽけな親分に、影で不満を言い合う子分達。

 …ああ、駄目だ。

 だんだん暗くなっていきやがる。

 もっと明るい話題だ、俺は親分だからな。 

 っそうだ!団の運営も俺が口を出さずともしっかり回る様になった。

 もう俺は定期報告を受けるくれえで、会議にも出る必要もなくなったな。

 大親分は後ろででっかく構えていて下さいと言われて表に出なくても良くなったな、すげえ楽ちんだぜ!

 あれ、俺いらなくね?

 …駄目だ、今夜の酒も不味くなりそうだ。

 たまに部屋に来てくれるプリッカが今の俺の慰めよ。


 俺の直属の子分は今じゃあ四人だけになっちまった。

 ビアナとアイリとマーシェ、そしてプリッカだ。

 プリッカはこんな俺を兄貴と呼んで慕ってくれやがる、こいつ自身も俺を慕っている事で陰口を叩かれているだろうにな。

 このままじゃあいけねえんだろうが、上手い手が見つからねえ。

 ビアナの足を治す金を貯めるなんて夢のまた夢だ。

 団の金に手をつけりゃ早いんだろうが、それは親分としての度量が許さねえからな。

 

 ユステルか…。

 アイリはそこに行けばビアナの足を治せるような事を言っていたな。

 それがなんの方法なのかは知らねえが、行ってみるか。

 今のままじゃあ俺が腐っちまうな。

 俺が俺でいるために、親分は一時廃業だ。







 俺は静かに忍び込むように船の倉庫に潜り込んだ。

 俺は一人だった、直属の子分達には後の指示を書いた手紙を残してきた。

 俺はゆっくり樽を見定め所定の位置に着いた。


 スネークフォーメーションだ。


 伝説の傭兵の所業をまねるが如く樽を被り周囲と一体化するのだ。

 周りには多くの樽達がいるから寂しい事はないと自己暗示する俺の孤独を示した陣形だ。

 この陣形を使うようになってからは、ネズミと友達になった。 

 俺は信奉する悪徳の神リーファイスに祈りを捧げた。

 友達百人できるかなってなあ。


「シィー静かにな、ホラ、チーズ食えや」


 いつもの口上、いつもの陣形、いつもの獲物。

 俺は笑みすら浮かべ手の中のネズミを撫でた。

 これは俺の美学だ。例え親分を廃業しようと、何かを愛でる気持ちまでは失わないという俺の誇りだ。

 俺はいつものようにチーズを割ると手の中のネズミに小さな欠片を与えてやる。

 そうするといつものようにネズミが喜び、チュウチュウと鳴き始める。


「シャル静かにしろ、バレちまうよ」

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