俺の海での山賊団 その四
全ての酒場で飲めなくなるまでその流れは続き、その頃にはすっかり派閥みてえになっちまった。
俺は皆で和気藹々がいいんだが、二十隻を超える大山賊団だからな。
しょうがねえちゃあ、しょうがねえか
ビアナ、アイリ、マーシェの三人は仲が良いんだが、その子分共がな。
まあ表だって争うような事はしねえが、自分達の親分の名を高めようと躍起になってやがる。
特にビアナ傘下の元親分共は必死だ。
今じゃあ完全にマーシェの名に山賊団が呑まれちまってるからな。
タルーシェ海賊団、それが今の通称だ。
もうマーシェも慣れたみてえでむしろ誇らしくしてる。
そんな通称がついちまったもんだから海賊としてのプライドを刺激されまくってるみてえで、自分達の稼ぎを全部突っ込んで大砲を買いあさってやがる。
ビアナの艦隊とは交代で商売に出かける事にしてるんだが、自分たちが稼ぐから大親分は港で待機してて下さいと言いやがる。俺はまあいいかとも思ったんだが、そしたらアイリ傘下の子分共が騒ぎやがる。
板挟みがつれえよ。
マーシェの子分共は全ての艦に乗せてるから文句はでねえ筈だったんだが、どの艦からも、大親分の艦に魔術師をもっと乗せましょうと言ってきやがる。
純粋に海賊としての力量で襲撃をしたいらしい。
その気持ちは分かるんだが、それは勘弁してほしかったぜ。
…今じゃあ俺の旗艦でマーシェとコーチュを筆頭にして魔術師共がピーチクパーチク煩くなってきてやがる、ミーシャもっと頑張ってくれ。
俺はお前に期待してるからな。
派閥として一番デケエのはビアナだな。
まあ当然か、第二艦隊のほぼ全員がビアナの子分だ。
それに第一艦隊にもビアナの子分じゃねえがビアナの信奉者みてえなのがいるからな。
次はアイリだな。
第一艦隊の半分の船長と下っ端、港の拠点にいる後方要員がアイリの子分だ。
後は何処まで信仰の手が伸びているかは知らんが、第二艦隊にもリーシャラ教の信徒がいることを考えると、…下手したらビアナに拮抗する数かもしれん。
恐ろしい事だ。
次にマーシェだな。
子分は魔術師だけだ。
マーシェは子分以外にも仲の良い奴はチラホラいるんだが、派閥入りはしてねえみてえだ。
海賊のプライドかね?
最後に俺だ。
まあ俺は大親分だから全員が俺の子分なんだが、直属の子分はすくねえ。
海賊として熱い奴はビアナに、新しい道に目覚めた奴はアイリに、魔術師はマーシェに。
ってわけで残ってる奴らが自動的に俺の直属の子分だ、こいつ等は愛すべき馬鹿ばかりだ。
プリッカを筆頭に面白おかしく生きりゃあいいって奴ばっかりだからだ。
当然俺の名を高めようなんて殊勝な事は考えてねえ、どうやって俺を笑わせるかを考えてるくれえだ。
それはそれで嬉しいんだが。
俺はそんな団の空気を改めようと久しぶりに全艦で商売に出た。
名を上げたいのは分かるが、俺達は一つの仲間なんだぞって伝えたくてな。
そしたら王立海軍の艦隊がお出迎えをしてくれやがった。
理由は分からねえ。
俺はうまくやっていると思っていたからな。
だから俺は穏便に済ませようとしたんだが、馬鹿がやりやがった。
いきなりの砲撃だ。
海軍の艦のメインマストを折りやがった。
俺は言葉を失ったね。
そしたらバレンティンが速攻で総攻撃の旗信号だ。
まあ分かる、やっちまったからにはやりきるしかねえもんな。
ただ俺に一言欲しかったが…、その時間も惜しんだお蔭か攻撃はうまくいった。
いくらもしねえうちに海軍が白旗を上げてきたからだ。
さあここからが大変だ。
既に海軍の艦を何隻も沈めちまったからだ。
どう幕を引けばいいのか俺には思いつかなねえ。
とりあえず海に投げ出された船員の救助と、自走できねえ船の牽引の準備だ。
後は幹部を集めて、海軍との会談だ。
集めた幹部たちの空気は重い。
さすがにやべえ事が分かるんだろうな、これからの事を考えて皆厳しい顔つきだ。
浮かれきってるプリッカとは大違いだな。
その中でも特にアイリの動きは精彩を欠いている。
どうも出だしの砲撃をかましたのがアイリの子分だったらしいな。
こいつの子分でも抑えがきかない事があるのかと、怒りより驚きの方がでかかった。
アイリもさすがに「神の試練ですね」とは言わなかった、まあ言っていたらゲンコツだったが。
やっちまったもんしょうがねえとして、どうするかだ。
全員海の藻屑にするのが一番楽なんだが、アイリが許さねえだろうし、俺としてもバレた時の事を考えるとおっかなくてできねえ。
かといってただ解放したんじゃあ、またお尋ねもんになるだろうからな。
ぐうおお、どうしたら良いんだ。
視線を子分共に飛ばしても、こいつ等も考えつかねえみたいだ。
っつうかなんで海軍の連中が俺達とこに来たのかがまず分かんねえな。
…まあいい、とりあえずアイリの失点を種にして空気を換えるか。
「やっちまった砲撃手、あいつを海軍に引き渡してみっか」
皆ギョッとした顔つきになった。
俺がこんな提案をするとは思ってなかったみてえだな。
「頭様、それはなりません」
アイリにしてはキツイ口調で俺に突っかかってきた。
「なんでだ、おめえんとこの子分が馬鹿やっちまったからこうなったんだろうが」
俺の突き放した物言いにアイリは表情を失くすが、すぐに気を取り戻した。
「頭様、それでもそれはなりません」
「なんだおめえ俺に逆らうつもりか」
「…そんな」
「どうなんだアイリ」
「……それでも私はあの子を守ります」
最近のアイリは子分たちの事を、信徒と言ったり、子供と言ったりして言い方が定まってねえ、どうもさらに複雑に自分の立場が混ざり始めたみてえだな。
だからあの子と言っているが、相手は立派なオッサンだ。
「そうか、アイリは俺より子分を選ぶんだな」
この言葉にハッとしたアイリはビアナを見た。
ビアナは苦虫を噛み潰すような顔をしてアイリを見つめていた。
「……ぁ…」
アイリは言葉を失うとただビアナを見つめた。
「おいビアナ!おめえならどうする」
「頭、っ私は……私なら、…今の私は、…頭の―――」
「言わなくていい、試すような事をして悪かったな」
ビアナは俺の言葉に驚くと、一気に追い詰められた顔になり、苦しそうに言葉を溢す。
頭の言うとおりにすると言い始める前に俺が話を切ったのに、呆気にとられると安堵の表情になった。
「アイリにもひでえ事を言っちまったな、だがこれであの時のビアナの気持ちが分かったろ、どうだ」
「……はい、頭様…」
「今のビアナですらすぐには割り切れねえんだ、これはそういうもんだ」
「…はい、私が未熟でした」
「だがなアイリよ、俺は嬉しいぜ。お前が親分として成長したのがな」
まあアイリの性格上、元々守ろうとするだろうが良い話にしねえとな。
「俺に盾突いてまで子分を守ろうとしたのは良い度量だ、今からの話合いにその度量、大いに役立ててくれよ」
っつうか何時も盾突いてるけどな、まあそれは俺が度量を示すだけだな。
「はい、頭様」
すぐに落ち着いたアイリは澄み切った表情で返事をした。
後は馬鹿やって終いか。
「ちなみにマーシェならどうするよ」
「そんなのかしらを引き渡して終わりにするよ」
空気を読んだのか素なのかは知らねえが、望んだ答えが返ってきた。
「さすがマーシェの姐さん、兄貴を簡単に捨てるその啖呵、アッシは痺れやすぜ!」
そこにすかさずプリッカがかぶせてくる。
あれ、コイツ思ったより有能?
「だな、さすがタルーシェ!」
俺が大きく笑う事で子分共も笑い、暗い空気はなくなった。
っつってもこれからどうすればいいのか分からんがな。
「カイゼル、ブローディア、おめえ等この海域でも有名だったろ。そん時の海軍の動きはどうだったんだ」
俺は表情を改めると、子分に聞いた。
カイゼルは俺達に敗れる前はこの海域の一番だったみてえだ。
で、カイゼルが負けた事でブローディアが繰り上がり、俺達に敗れるまではブローディアがこの海域の一番だった。
そんな二人なら海軍についても知っているかと思ったんだが。
「すいやせん大親分、分かりやせん。ワシの時は海軍が正面切って向かってくる事がなかったんでさ」
カイゼルが申し訳なさそうに言った。
「ワタシもです大親分。いつもは人づてに警告を寄越してきてたんですが、一体どうしたのか」
ブローディアは眉をしかめながら言った。
「そうなのか。じゃあしょうがねえ、大きく構えて行き当たりばったりでやるしかねえか」
「かしら、それを言うなら高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変の方がよくない?」
確かにそっちの方が格好いいな。
さすがマーシェ、最近やたらと言い回しに凝ってるだけはあるな、まさかここで神の言葉を引用してくるとは。
「そうだな、じゃあ高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変にいくか」
なんとかなった。
んだが、面倒くせえ事に巻き込まれた。
どうも隣の海域では海軍の名が鳴り響いているらしく、海賊はコソコソと仕事をしているだけなんだとか。
それがこっちの海域じゃあ俺達がデカい面して商売しているからな。
その事を隣の海軍に馬鹿にされたみてえで、俺達を窘めることで自分達の名を上げようとしたらしい。
武力衝突をする気はなかったみたいだな。
だが結果は窘めるまえに先制され挽回する事無く敗北。
あまりのすがすがしい負けっぷりに提督さんもおかしくなっちまってな。
自分達の名を上げられないなら隣の海域の海軍の名も落とそうと提案してきやがった。
いや脅しか。
負けた自分達の事を棚上げして脅してきやがった。
隣の海域の海軍の名を下げねえと、討伐指定にするとか言いやがった。
マジで藻屑にしてやろうかと思ったが、怖いので止めておいた。
討伐指定を受けちまうと港での補給もままならなくなりやがる、もちろん通常でも海賊と取引すること事態ばれたら拙いんだが、討伐指定はそれとは訳が違う。
海軍が全力を出して潰すという宣言だからな。
関わった奴等はみんな縛り首よ。
過去には港町一つが潰された事もあるらしい、それぐらいおっかない代物だ。
懸賞金もかかるからみんな目の色変えて襲ってくるしな、海軍、港街、商船、海賊、部下、そのどれもに気を抜けなくなっちまう。
さすがにそれは困る、っつうかこの山賊団が潰されちまう。
だから話を受ける事にした。
海軍は帰って行った。
あいつ等損傷した艦隊のまま帰ろうとしやがるから、減った艦隊は大丈夫なのか聞いてみたんだ、すると嵐にでもあった事にすると言いやがる。
激しく不安を感じたが、俺も良い言い訳は思いつかないのでそのまま任せる事にした。
下手したらあいつ等が帰ったタイミングで討伐指定受けるな…。
まあそれは考えないようにするか、…信じよう。
それより相手の名を下げる方法を考えないとな。
実力行使はさすがに危ねえからな、被害的にも、報復の討伐指定的にも。
俺達がやったとバレない様に、かつしっかりと相手の名を下げる方法。
そんな都合の良い方法あるのか?
やべえ逃げてえ、俺らの名声が地にまで落ちちまうが命には代えられねえからな。
と、思って子分達の顔を見たらどいつもこいつも嬉しそうな面してやがる。
海軍に頼られたのが余程に心をくすぐられたみてえだ。
あのビアナが頬を紅潮させ緩んでいやがる。
それにビアナ、アイリ、マーシェ、の子分達はチャンスと考えているみてえだな。
この仕事を成功させ、さらに海軍を刺激しないように真相を噂として流すことができれば、自分たちの親分の名声を確かなモノにする事ができると考えているっぽいな。
頬は緩んでいるんだが、目がギラギラしてやがる。
こりゃ逃げられんな。




