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俺の船旅、№3

 おう俺は山賊だ

 今も平穏すぎる船旅だぜ。

 凪だ、風がまったく吹かず船がウンともスンとも進みやがらねえ。

 船体に波が跳ねる音がするだけで静かなもんだぜ、そろそろ違う音も聞きたいかな。

 っつうかシャレにならん。


 俺達は小舟に乗って波間をたゆたっている。

 船便?ああ行っちまったよ、俺達を下ろしてな。


 ……さっそく実感できちまったぜ。

 免罪符様の実力をな。






 

 俺達の利用していた船便は時々港に寄っては物資の補充をしているんだが、その時に物資以外も補充しちまったみたいでよ。

 禁忌の強欲司祭アイリ様の噂だ。

 陸路が海路を超えて噂を届けるッつうんだから恐ろしい話だよな、おい。

 噂だけなら良かったんだが、俺達だとはあっという間にばれちまった。

 それも寄港中じゃなくて、海上でだ。

 まあこれは俺も悪かった、部屋の前でやたら聞き耳を立ててたり、聞いた事のない神の名前―――リーシャラ様の名を叫んじまったりもしてたからな。

 元々ワケありだと思われちまってたから、いやーあいつら手際いいわ、俺の子分に欲しいくれえだ。

 俺は寝ている間に縛られちまってな、俺が人質なっちまったからビアナは抵抗しなかったみてえだ。

 さすがのマーシェも海上じゃあトンズラこけねえし、アイリに至っては精神がアレだ。

 そういうわけで小舟に乗せられてサイナラだ。

 まあ殺されなかっただけ運が良かった。

 金はとられたけどな。

 っくそが!


 ここはどうにも風のよええ場所みてえだな。

 船にはしょっぺえ帆がついているが何の仕事もしやがらねえ。

 もう結構な時間を漂ってるぜ。

 俺はすぐに餓死か?と思ったが食糧や水はあるからなんとかなってる。

 ビアナに聞いたら、アイリ様の威光のお蔭でもあるんだとか。

 積極的に殺すのは呪われそうで怖いらしく、運命に任せるッつう話だ。

 アイリのお蔭でヤベエが、アイリのお蔭でチャンスもあるのか…。

 ―――おっ!アイリの言っている悪徳をもって善行を為すっつうのはこういうことなのか?

 なんか少し分かった気がしたぜ。


 最悪な船旅になっちまったが、ここで落ち込むとマジで死んじまうな。

 ここは親分らしくドーンと構えてやるか。


「いやー参っちまったな、どうするよ」

「頭様、これはリーシャラ様の試練でしょうか」


 おいおい言ってる事と表情が随分ちげえじゃねえか。

 なんで微笑んでんだよ。 

 いつもならドン引きだが、華麗に流してるよ。


「そうだな、随分越えられそうにねえ試練だけどな」

「私たちの信仰が試されているのですよ」

「信仰の度合いを試練ではかるっつうのは、なんともおっかねえ神様じゃねえか」

「越える事のできない試練を神は与えることはない、これは全ての宗派で言われている聖句です。ですから大丈夫です」


 なぜか自信たっぷりのアイリ、さすがに引きそうだぜ。


「私はそうは思わないよ」


 マーシェだ。

 さすがの状況に不機嫌を隠せねえか。

 マーシェがアイリに強く言うのは初めてみたかもな。


「さっきから風が吹かないでしょ?それに投げ出されてから私のマナがずっと逃げろって言ってる。多分ここはそういうとこなんだよ。自力で船を動かせないと抜け出せない場所なんだ」

「どういう意味でしょうか」

「言った通りさ、オールで漕ぐなり風の魔術を使うなりしないと駄目ってこと」

「じゃあ話ははええじゃねえか、お前が魔術を使ってく―――っあ……」

「そういうこと」


 マーシェはヤレヤレと両手を広げると、溜息と共に肩を落とした。


「っオイオイオイ、諦めんのが早すぎんだろ。もっと頑張ろうぜ、いいチャンスじゃねえか。山賊してる時よりよっぽどスリリングだろ」

「…それだけじゃない、私は火の魔術師なんだ」


 呟くようにマーシェが言った。


「なんだよ火の魔術師って」

「頭、聞いたことがあります」


 視線を走らせると、考え込むようにビアナが口を開いた。


「魔術師はどのエレメンタルかを選んで魔術を使うと」

「…そうだよ、魔術師は生涯の魔術を選ぶんだ。それで私は火を選んだ、風は使えないよ」


 マーシェはさっきよりか細い声で言った。


「…やはりか。頭このままでは私達は……」


 こちらを向くビアナの顔が暗い。


「っおいおいなんだよ。わらえねえ冗談だな。これも夢か?」


 思わず頬をつねるがいてえ。

 どうやらタチのわりい現実みてえだ。


「…頭、現実です」

「わーってるよ」

「神の試練ですね」

「っおめえは黙れ!」

「終わったね、ブル―バードは私らにとっても不幸の象徴だったか…」

「っぬおおおおおお!テメエらいい加減にしねえか!」


 さっきから落ち込んじまうことばっか言いやがって―――アイリは方向が違うが、それでもだ!

 

「いいか、俺たちゃ愉快な山賊団だ。落ち込むこともあるが、こんな状況じゃあ落ち込まねえ、いや落ち込んじゃあいけねえんだ!ッビアナ、山賊道の掟その1を大きい声で言え」


 俺の鋭い声にビアナは背筋を伸ばすとでっかく声を上げた。


「っはい、いつもニコニコ明るく山賊!」

「っその2!」

「狙った獲物はのがさず山賊!」

「っその3!」

「それが俺達山賊なのよ!」


 ビアナは顔を逸らしながら頬を紅潮させ言いきった。

 おお、さすがビアナだ。やる気に満ち溢れた良い発声だ。

 だが真っ直ぐ空を見上げて言わねえのはマイナスだな、どうも一人前になると昔の素直さがなくなるからいけねえや。

 みんな我流の宣誓になりやがる。


「どうだビアナ、元気でたか」

「……っはい頭、元気になりました」


 視線を逸らすなっつうのに。

 まあいいか、くれえのは吹き飛んだみてえだからな。


「まだやってたのそれ?しかもそれ掟になってないから…」


 あ、掟をきちんと宣誓しないやつだ。


「頭様、私もした方がよろしいでしょうか」


 あ、掟を勝手に言い変えるやつだ。


「おまえらのは見たくねえし聞きたくもねえ。省略して言ったり、山賊のさの字も登場しねえ山賊道ってなんだよ」


 これでくれえ空気はどっか行ったな。

 後は和気藹々と考えてえな。


「……はあっ深淵を覗きたかったのにな」


 床にうずくまると、俯きすげえ暗い声を出した。

 こ・い・つ・は、ぐおおおおおおお!


「っそんなに言うならな!見せてやるよ!ビアナっ桶をに水入れて寄越せ」

「はい、頭」


 ビアナは樽の蛇口をひねり、桶にほどよく水を張ったところで俺に渡した。


「おら見ろ、お前の見たかった深淵だ!」


 マーシェにぐいぐい押し付け無理矢理見せた。


「……っなんだよ、ただの水張った桶じゃん」


 ふくれっ面になりガキみてえに拗ねた。


「良く見てみろ、お前の辛気くせえツラが深淵に映ってんだろ」


 さらにむっとした表情になり、喚いた。


「っ馬鹿じゃん、映ってないし!しかも浅いし、全然深くないし、っああああああ!魔術の深淵を舐めないでよね!!こんな子供だましの方法で私の機嫌がとれるわけないじゃん!あああムカつくぅうう!せめて顔が映るくらいの深い水を用意しなさ――――――ッビアナ!!」

「なんだ、干し果実ならないぞ」

「ッアンタには要求しないわよ!っじゃなくて樽の上部を切り裂いて!」

「そんなことしたら水が駄目になる」

「いいからっ!!」


 ビアナが俺に視線を移した瞬間、波が船を揺らしつい頭を上下に動かしちまった。

 片足が不自由なビアナはまったく動じてないのにだ。

 本当にすげなあコイツは―――っじゃねえ!

 止める間もなく神速の抜刀で、樽の上部が斬り飛ばされた。

 っああああああ、俺達の命の水の寿命が短くなるぅううううううううううう!!


「これでいいのか」

「さんきゅ、ビアナ」


 ねえ、なんでお前ら普通なの、死ぬよ、マジで死ぬよ?

 もう勘弁してくれれええええええ!

 アイリなんか「これもまた試練」なんてごちるし、おいいいいいい!こんな奴ばっかりかよ!

 ……。

 ……ゥヒ。

 ―――っうひょおううう!もうなんか楽しくなってきやがった。

 しゃあ!俺は食糧を海にばら撒いてやるぜ!!


「よいさぁあ!試練じ――――――」

「分かった」


 急速に寿命が縮み始めている命の水を覗き込んでいたマーシェが突然声を上げた。

 おいおい今度はなんなんだよ。

 俺のさらなる試練を邪魔しねえでくれや。


「魔術の深淵が分かっちゃった」


 景気よく樽ごといこうと振りかぶっていたら、これだもんなあ。

 後ろにすっぽ抜けてアイリを巻き込んで海に落ちちまった。

 なんとか樽とアイリを助けると、びしょ濡れになりながら澄ました顔で「一つ試練を越えました」とか言いやがった。

 こいつ随分逞しくなったなぁ。

 

「……ぬおっ!!マジか!?」

「驚くの遅いし、アイリもなんか間抜けだし、良いよもう普通で」

「いや、わりいな。で、それでどうなんだ?」


 しらけた空気のなか態度を戻して聞くと、すげえニンマリして得意気になった。


「ふっふ~ん。私ってやっぱり天才かも。天才過ぎて怖いかも、あはっ。あ~~随分落ちこぼれ扱いされたけど、これってあいつ等に見せつける為の布石だったわけね。はっは~ん、もう最高なんだけど、最高すぎるんだけど!!なに!?これ!!深淵を覗けし者とか深遠なる魔術師マーシェとか呼ばれちゃったりするわけ!?っきゃああ!もう最高!」


 こいつ自分の世界に入りやがった。


「あはっ、うふっ、うふふふふふふふふふふふふふふふッグボ!」


 山賊パンチを入れてやった。

 

「おい落ち着け。で、どうなんだ?」

「なにすんのさ!って本来なら言うところだけど許してあげる、今は最高に機嫌がいいからね。結論から言うと私達は助かるよ」

「っおおおい、それはいきなりだな」

「だって深淵なら魔術師がいるんだよ、助かるに決まってるじゃん」

「随分適当だな、風の魔術は使えねえんだろ?」 

「ふっふ~ん。大丈夫、今の私にできないことはない。マナが囁いてる、新しい力を解き放って、てね」


 おお、すげえ自信だな。

 なんだこのマーシェは、以前のニューマーシェの時とは比べ物にならんな。

 さしずめスーパーマーシェと言ったところか。


「アイリ、あなたのお蔭でもあるわ。ありがとね」

「いえ、マーシェ様私は何もしておりません。マーシェ様がご自身の力で試練を越えたのです」

「勿論そうなんだけど、こんなに追い詰められたのはアイリとかしらのお蔭だから」


 それはひでえ言い様だな。


「だからありがと。っまあこうならなきゃ凄い恨んで死んだだろうけどね」

「そうならなかった事に感謝を、そして、この試練を乗り越える光を与えてくださるマーシェ様に感謝を」


 マーシェの礼に微笑みで返すと、改めて大げさな礼をアイリは言った。


「まあ任せてよ。あ~それと、他人行儀過ぎるし、私の事も普通に呼んで欲しいな、もうちょっと砕けない?」

「分かりました。マーシェさん」


 二人で和やかな空気を作ってる。

 取り残されるビアナ。

 少し悲しそうか?


「あと、あんたにも礼を言っとく、ありがとねビアナ」

「っわ、私は何も」


 急に話を振られ戸惑うビアナ。


「あんたが綺麗に切ってくれたからね、深淵がまさに真円だった。まあそれはそんな関係なかったけど、見やすかったからね」

「うっ、そうか…」


 ビアナがマーシェ相手に照れているだとっ!?

 …珍しい光景だな。


「だからありがと」

「…うん」

「いつもこれぐらい可愛かったら相手しやすいんだけどね、年下のクセに生意気なんだから」

「っ私は―――」

「はいはい、今ぐらい素直になっときなさい。」

「うぅ」


 長身のビアナの頭をなんとか撫でると、自信満々に言い放った。


「まあ見てなさいって」







 私はいつものようにマナを感じながら精神を集中した。

 奴は一つだ、僅かにさえ吹かない風に、仕事をすることを諦めた怠け者だ。

 私はゆっくり獲物を見定め所定の位置に着いた。


 エア・フローフォーメーションだ。


 獲物の後方から、風の力を逃さず伝えるのだ。

 魔術の神が定めた深淵を覗けし者に伝わる、最高の陣形だ。

 この陣形を使うのは初めての筈だけどよく馴染んでいる。 

 私は信奉する魔術の神カラティスに祈りを捧げた。

 私の深淵はあたにも届きうるってね。


「よく見てなさい!これが深淵なる魔術師マーシェ最初の必殺の一撃!!」「殺すな」


 いつもの口上、いつもの陣形、いつもの獲物。

 私は笑みすら浮かべ奴に迫った。

 これは私の美学だ。っぁぁあああ!!神聖なる初撃にチャチ入れがってぇえええ!誤撃してやろうか馬鹿がしらがっ!……モクモク……許す。

 私はいつものように愛用の杖を振るうと頭上に構え、いつものようにマナに合図を送る。

 そうするといつものように気持ちと共にマナが高ぶる、もう放つことしか考えない!!


「大陸の果てまで飛んで行けぇえええええええええええええ!」

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