表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/43

俺のベストプレイス

 おう俺は山賊だ。

 今は丘陵地帯を根城にしてる。

 この丘には道があって、この街道ってのが美味い。

 この道を利用するのは護衛のいねえ行商人か旅人くれえだからだ。

 堅実に稼げるうえに、街から奴隷商がすぐ来てくれるから回転率が早い早い。

 それがうめえ。


 労働意欲も湧いた。

 俺の黄金時代に比べれば確かに稼ぎは悪いが、この額に汗して働く感覚ってのが良い。

 天道さまが眩しくていけねけや。


「おいロッド、もっと早く縛り上げろ日が暮れちまうぞ」

  

 おっと悪い悪い、できの悪い子分を持つと親分は大変だな、へへ。

 このお客たちは大体一日で3組ほど接待する。

 人数にすると4人ぐれえだ、最高の人は一日で10人までやったことがある、あの日は凄かった入れ食いだ。俺達は飯を食う暇もないくらい働いた。

 奴隷商も凄かった、あいつら目えひん剥いて驚いてやがる、その日は誰も街に来なくておかしい気がしたって言ってたっけ。

 俺達の努力の賜物だな。

 子分も充実してきた、俺の噂を聞きつけた周辺の荒くれ者が駆け付けたのだ。


 元傭兵のグレール、弓使いのバッツ、田舎を飛び出したダイソンとルーリアとメック、目を掛けているロッド、山賊崩れのガイツン、盗賊中退のドルン、元詩人のリューリス。

 最高の面子だ、まさにオールスター。

 それぞれの面子に得意とすることがあり、それが綺麗に合わさって強力な軍団の誕生だ。

 俺達は結成以降、負けなし、逃しなし、殺しなしのトリプルコンボを達成中。

 さらに元傭兵のグレールが加わったことにより、俺達の集団戦闘術に磨きがかかった。

 今じゃあトライアングルフォーメーションなんて古臭い陣形は使ってねえ。

 生まれ変わった俺達を見せてやるぜ。







 俺はいつものように踏み固められた道を歩く行商人を襲った。

 奴は一人だった、馬に乗りながら丘をゆっくり登ってやがる。

 俺はゆっくり獲物を見定め所定の位置に着いた。


 トライアングルファーメーションαだ。


 思わず笑みがこぼれた。


 獲物の前後を塞いだ上で、でかい岩石の上から弓を射かけるのだ。

 傭兵の意見を受け入れた、俺の度量を示す最高の陣形だ。

 前回の敗因は技量の伴わないやつの突貫が原因だ。

 これなら敵に触れずに圧倒できる。

 この陣形を使うようになってからは、子分の怪我がなくなった。 

 俺は信奉する悪徳の神リーファイスに祈りを捧げた。

 仕事の成功と今夜の酒をってなあ。


「命が惜しけりゃ、金も命も置いてきな!」


 いつもの口上、いつもの陣形、いつもの獲物。

 俺は笑みすら浮かべ奴に迫った。

 これは俺の美学だ、過去の事は忘れよう。この流れはもはや大河だ。止まる事をしらず留まることができない、時の流れ運命の分かれ道だ。俺は鮫、時の流れを止まる事のできない定めを背負った哀れな山賊。

 この美しすぎるポエムはリューリスに教わった。

 俺達は本当に最強だ。

 俺はいつものように鞘を払うと愛用のシミタ―構え、いつものように子分に合図を送る。

 するといつものように岩石の上から獲物に弓を射かける。奴が倒れ――――――バッツが岩から落ちてきた。


「君もしつこいね賊君、僕の剣の錆になってくれるかい」







 奴は相変わらず強かった。

 子分たちは皆やられちまった。

 大酒飲みのグレールに、繊細なバッツ、アジトの裏に畑を作っていたダイソンとルーリアとメック、間抜けだが一生懸命なロッド、純朴なガイツン、盗みをしたこのないドルン、俺の先生のリューリス。

 皆、皆死んじまった、俺は、俺は…。


 あいつを許さねえ。


 怒りに震えた俺は奴に飛び掛かった。

 俺があっけなく切り伏せられると、まだ息のあったガイツンが再度奴に斬りかかる。

 つばぜり合いをしているガイツンは俺の傷口が浅いとみるや、


「ッアニキ逃げてくれ!」

「ふざけんなっ、俺がお前らを見捨てて逃げれるわけねえだろ」

「アニキ!頼むよ、お願いだから逃げてくれ!」


 競り負けそうなのに自分の事を構わずに俺を逃がそうとするガイツンに、俺は血を吐く思いで言った。


「分かった、オメーの気持ちは分かったよ!逃げるよ!ワリーな駄目な親分で」

「……」


 ガイツンは苦しそうに笑顔を作ると、最期のひと踏ん張りだと押し返した。


「じゃあな!」


 俺が逃げた。


「アニキ!元―――」


 背後から何かが倒れる音がしたが、俺が振り返る事はなかった。

 瞳から零れ落ちる汗がうっとおしい。

 奴は怒り叫び声を上げた。


「君は必ず僕が殺す!」


 俺は走り続けた、駆け続けた。

 皆の笑顔が脳裏に浮かぶ、俺は俺は。


「くそがああああああああああー!」


 俺は走った。

ありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ