俺の思い出
おう俺は山賊だ。
今は断崖絶壁を根城にしてる。
この崖にはしっかりと作られた吊り橋があってな、この橋ってのが美味い。
この橋を利用するのは村人と流民くれえだからだ。
すげえ安全に稼げるうえに、金に食糧も貰える。
それがうめえ。
強がった。
すげえ苦労したし、労力には見合ってねえ。
まあ食っていくには十分なんだが、今回は気合い入れたからな。
それを考えるともう少しうめえ思いをしたかった。
俺達は吊り橋―――ビアナを拾った場所に逃げるように戻ってきた。
吊り橋は同じ場所にまた作られていやがった、マジで大助かりだぜ。
一度落とされたからか、この吊り橋は丈夫に作ってやがる。
まあ仕事ができればどうでもいいんだけどな。
アイリが治り俺達は移動を始めた。
それからのアイリは前にも増して説法に力を入れる様になった。
まあ田舎に行くにつれて、教会の悪評も段々落ち着いてきたからなあ。
それもあってか金にはなった。
なんとかアイリの説法で食って来れたわけだ。
だが、腰を据えるとなると少々厳しい。
教会がピリピリしてるからだ。
奴等は今、自分たちの悪評を消そうと躍起になってやがる。
そこに経歴不明の元司祭なんて邪魔なだけだ。
どんな悪さをするか知れたもんじゃねえとよ。
俺達は良さそうな場所を見つけては根城にしてみたが、そのたびに教会から追い出されちまう。
丁寧な物腰だったが、眼がマジだった。
いくらかの金とを引き換えに、目の届く範囲から消えてくれってよ。
勿論素直に従った、おっかねえからな。
だがそうすると行く場所に困った。
途方にくれた俺達は話し合った。
するとビアナが提案した、あの吊り橋はどうですかってな。
俺は、俺達が吊り橋は落としたじゃねえか、って言ったんだ。
するとビアナは、もう新しい吊り橋はかけられていると言いやがる。
不思議に思った俺はなんで知っているんだと聞いたら、どうも故郷の様子を気にかけてて親分時代に調べていたみてえだ。
しかも村に援助もしてたみてえで、多少の伝手があるとか。
じゃあそうしようってことでビアナの故郷を目指した、あそこなら勝手はわかるし村には教会はねえ。
それにもう橋を落とした恨みも冷めてるだろ。
交渉をビアナに任せた俺は、久しぶりの吊り橋を見入った。
立派になってやがる。もう簡単に落とすことはできねえなあ。
なんか感慨深いもんがあるなぁ。
ビアナはでかくなったし、吊り橋も新しく変わった。
これが時の流れっつうやつか。
それから俺達は精力的に働いた。
ラッキーなのは村人以外にも客がいる事だ。
奴らは名は流民。騎士団と教会の争いで住む場所を追われることになってしまった哀れな子羊だ。
当然五割増しの説法をしておいしく導いた。
が、これに苦労した。
金を持っている奴は五割増しコースなんだが、アイリの説得には苦労した。
普通は金をもってる奴には高く売りつけるのが常識だろ?
だがアイリの中じゃあ子羊に差はねえみてえだ。
その差をつけるのに苦労した。
面倒くせえ話しだ。
帝都の森に居た時は驚くぐれえの金がもらえたっつうのに。
そうか、…ああいう形なら受け取るんだよな。
客から自発的に払わせりゃあいいのか。
だから俺は考えた。
アイリの背後から見えねえように弓で脅しながら商売してみた。
だがうまくねえ、客の顔でアイリにばれやがる。
次に、トークンの飾りつけを派手にしたみた。
却下された。こんな稚拙なトークンで増額は許されないってな。
次に、アイリを五割増しに着飾ってみた。
これも却下だった。アイリはすげえ喜んでくれたがそれだけだ。
次に、客用の椅子を設けたみた、ビアナのマッサージ付きよ。
これは惜しくも却下だ。客の目つきがビアナに集中して説法を聞かなかったからだ。ただアイリの感触は悪くなかった。
なるほど、何かをやればいいのか。
おれはピンときたね。
マーシェのマナトークを追加してみた。
すげえ却下をくらった。マーシェが調子にのって喋りすぎたからだ、説法の10倍は喋りすぎだ馬鹿。
方向を間違えたみたいだ。
思い出せ、詐欺師のじゃりガキの仕事を思い出すんだ。
―――ッこれか!
俺は青空協会を作った。
これには苦労した。
吊り橋近くの森を切り開いて地面を慣らし、眼に優しいぐらいに周囲の木々を伐採。日差しに合わせてベストな空間を演出する為に、二か所森を切り開いた。
さらに全財産を使って布を買い込み、その布を装飾幕に仕立てて森を飾りつけた。
完璧だ。
なんという清涼かつ気品溢れる空間だ。
やるからには全力を尽くした俺の度量が示す教会だ。
アイリは納得した。
というか、過酷な土木作業によって疲れ切った状態に付け込んだらあっさり説得できた。
多分意識ははっきりしていなかったんだろうな、次の日マーシェとビアナにしきりに確認していたからな。
最初から肉体労働させとけきゃよかったよ
これで金を持っている奴の始末はついた。
後は何も持っていない奴か。
まあ持っていねえ奴はそのまま村に連行だ。
こういう流れ者は放っておくと商売敵になりやがるからな。
ライバルの目は小さいうちに積んでおくのに限るぜ。
できることなら奴隷商と直接取引をしたいが、アイリの目があるからな。
しょうがねえから村の労働力として引き取ってもらってる。
扱いは奴隷みてえなもんなんだけどな。
さすがにこれにはアイリも文句を言ってこなかった、まあ悩んでたみたいだけどな。
俺はいつものように吊り橋を渡る流民を襲った。
奴は一人だった、安堵の表情をして歩いていやがる。
俺はゆっくり獲物を見定め所定の位置に着いた。
ブルー・チャペルファーメーションだ。
獲物の前方にしずしずと歩き、優雅なお辞儀をして青空教会へ先導するのだ。
詐欺師のじゃりガキもびっくりな俺の厳かな陣形だ。
この陣形を使うようになってからは、ビアナがお淑やかになった。
俺は信奉する善行の神シャラスナに祈りを捧げた。
この流民がちゃんと金を持ってますようにってなあ。
「哀れな子羊よ、まずはその場で跳ねなさい」
いつもの口上、いつもの陣形、いつもの獲物。
俺は笑みすら浮かべ奴に迫った。
これは俺の美学だ。金のねえ流民にまで贅沢させる必要はねえ、俺のお客様は金を持っている奴だからだ。頼むぜ、福音(硬貨の擦れる音)よ響け!
俺はいつものように愛用の十字架を掲げると、いつものように子分に合図を送る。
そうするといつものようにビアナがしずしずと歩き、優雅な一礼。
「貴方は立派な哀れな子羊ですね」




