俺の旅路
おう俺は山賊だ。
今はさびれた街の宿屋を根城にしてる。
この街にはスラムがあって、その裏路地が美味い。
この路地を利用するのは、ケチなチンピラか、ただの町民ぐれいだからだ。
すげえ簡単に稼げるうえに、久しぶりで気持ちいい!
それがうめえ。
あれから大変だった。
ついに帝都で皇帝と教会がぶつかりやがったんだ。
どうにも免罪符騒動があちこちで起きたらしくてな、教会はウハウハでむしろ騒動を煽ってたみてえでよ。
それが皇帝を刺激しちまってついに大激怒、騎士団が全力で帝都の教会を取り締まることになった。
そのお蔭でいろんな騎士団が帝都にきやがる。
マジでブルッちまった。
俺達の仕事してる道を騎士団の連中が通る通る。
もう全然仕事になりやがらねえ。
目ざとい奴なんて俺達の辻説法の噂を聞いてやがってよ、皇帝への手土産のつもりなのか俺達を捕まえようとしやがる。
鬼畜の所業だぜ。
俺らはその日の飯にも事欠く清貧な信徒だっちつうのに。
まあその鬼畜に同行していた奴はマトモだったから、見逃してもらったけどな。
勿論俺は隠れてたぜ、アイリに対応させて俺らの貧乏ぶりをしっかり伝えてやった。
マジでいい奴だった、飯を恵んでくれたからな。
その日は俺ら久しぶりのご馳走にありつけた、あの時は騎士団に感謝したぜ。
帝都の教会をあらかた取り締まったら次は地方だ。
皇帝がマジ切れだからな、もう全力だ。
噂だと帝都の騎士団を空にして国中の教会を取り締まったみてえだ。
そしたら当然、帝都付近は無法地帯よ。
なんせ取り締まる奴らがいねえからな、それに取締りの輪はどんどん外に広がっていきやがる。
おりゃチャンスだと思ったね。
正直マジで飯を食うのにも困っていたからな、俺達は騎士団の輪っかが広がっていくのに合わせて、ゆっくり後ろを追いかけた。
だが、そこで困ったのが旅の路銀よ。
どこに行っても教会の悪い噂を聞きやがる、あいつら相当あくどい事やってみたいでよ。
騎士団が教会を捜査するたびにゴロゴロ悪事の証拠がでてきやがる。
そうすると、教会に対して街の奴らは気持ちよくねえ。
普段信じていただけに反動がデケエみてえだ。
っつうわけで、騎士団が通った後はアイリの生きづらい環境の出来上がりだ。
当然、それで食ってた俺らも困った。
だけどな、俺はチャンスだと思ったね、こりゃアイリ公認の山賊の始まりだとな。
俺とビアナはこっそり目を合わせて喜んだ。
そしたらさらに追い風があった。
教会の不正を正すのに全力の皇帝が俺の広域手配も解いたっつう話だ。
こりゃいよいよ山賊の神風が吹いてきたな、アイリにゃ悪いが俺達の時代がきてるってな。
どうだ!!
却下された。
マジかよ信じらんなーい。
あいつはこの期に及んでも説法で食ってくと言いやがる。
ビアナは負い目があるからか、一度の却下で諦めた。
俺もそんなビアナに粘れとは言わなかった。元々言う気はなかったし、あいつがマジで謝ってきたからだ。
俺はすぐに許した、こいつは可愛い子分だからな。
一人になった俺はそれでもアイリと戦った。戦い続けた。マーシェ?あいつは知らねえ。
そしてついに負けを認めた。
俺の。
親分としての度量が足りないのか、あいつはウンともスンとも言いやがらねえ。
今じゃあいくら説法しても金はもらえねえし、気が立っている奴なんて投石を寄付してきやがる。
当然仕返しはしたがな。
そんな状態なのにあいつは諦めねえんだ、俺は途方にくれたね。
それにアイリは、強がってはいるがこの苦境を招いてるのが自分だと自覚はあるんだろうな、余裕がなくなってきやがった。
俺達にあたるような事はしねえが、表情に影がさすようになってきやがった。
そして倒れた。
まあ当然だよな、こいつは飯をほとんど食わなくなってたからだ。
自分の飯を俺らによそっていやがったんだ。
原因は自分にあるからどうぞってな。
頑固なこいつを説得できねえ俺は苦い気持ちと一緒に飲み込んだ。
ビアナは黙って。
マーシェはうまそうに。
俺達はなけなしの金を使って宿をとり、アイリを休ませることにした。
さすがに医者にかかるだけの金はねえ。
山賊団で医術を知ってんのはアイリだけだ、俺達にできることはなく日に日に弱っていくアイリを見てるだけだった、なさけねえ。
俺は山賊をすることにした。
アイリの目はねえわけだし、やらねえ理由がねえ。
……ただ、言い負かされたのがあるから、こそっとちょこっとだけだ。
ビアナに看病を命じた俺はさり気なく宿を出た。
街の路地に入り、慣れ親しんだスラムの空気を感じながら山賊をした。
久しぶりの真面目な山賊は最高だった。
俺は夢中になって獲物をかった、勿論加減はした、小遣い程度の金をもらうぐれえだ。
調子は最高だった、回転率なら過去最高を更新したぐれえだ。
だから気付かなかった。
久しぶりの山賊に夢中になっていた俺は、街の衛士のことを忘れてた。
まじで危なかった。
いつの間にか近くにいたマーシェが声を掛けてくれなきゃ、とっ捕まるところだったぜ。
いやあ助かった。
こいつは普段クソだが要所、要所で親分心をくすぐる奴だよな。
そっからはマーシェを見張りにして山賊よ。
まあ頂く金がケチすぎて、客にどう思われていたのかは知らねえがな。
それに俺の中ではアイリの薫陶が芽吹いていたのか、山賊をした相手にはシャラスナ様のトークンをいつの間にか渡していた。
っいつの間にかだ!
俺は少し怖くなった、山賊の俺を洗脳するアイリって一体……。
そして結果的には、山賊じゃなく強引にトークンを売りつけていた俺。
また少し教会の悪評がたった。
トークンがなくなるまで金を作った俺は食材を買い込み、アイリに精のつくもんを食べさせた。
勿論そん時も一悶着あったが、俺の親分としての強権(弱)で無理矢理食わせた、文字通り無理矢理だ。
苦労したぜ。
ビアナにはさせられないし、マーシェがするわけねえ。
飯の世話は俺の仕事だ。
最初は嫌がっていたが数日もすると今の状況を受け入れたのか、しぶしぶだが自分から食うようになった。
俺は一息ついたよ。
アイリの状態も良くなっていったしな。
まあそれでも、値段の張る具材に気付くと途端に食わなくなりやがる。
俺はいつものように宿の台所を借りて料理した。
ビアナと一緒だ、具材を分からない様にするために手間がかかるからだ。
俺はゆっくり獲物を見定め所定の位置に着いた。
ミキサーフォーメーションだ。
獲物をまな板に叩きつけ、メッタメタに切り刻み、押し潰すのだ。
アイリに気付かれねえようにするために考えた、秘奥義がある陣形だ。
この陣形を使うようになってからは、アイリに気づかれたことはねえ。
俺は信奉する飽食の神タラティスに祈りを捧げた。
食材を粗末に扱ってすみませんってなあ。
「あいつに食わせるためだ、悪いが個性よ死んでくれ!」
いつもの口上、いつもの陣形、いつもの獲物。
内心の申し訳なさと、自分の今からの食事を考え憂鬱になった。
これは俺の美学だ。どんな結果になろうとも最後まで食いきってやるという俺の誓いだ。
俺はいつものようにスープを作ると、いつものように子分に合図を送る。
そうするといつものように子分が懐から刺激臭のする野草を取り出した。
この野草の匂いと味にはパンチがあり、全ての味を上書きして彼を堪能するだけのスープに仕上げてくれる。
彼は極めて圧倒的な食材だ。
「最近マーシェがやせてきたな」




