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俺の山賊団

 おう俺は山賊だ。

 まだ帝都の近くを根城にしてる。

 この辺りにはいくつもの道があるが別に美味くねえ。

 早くなんとか稼ぐ手段を見つけなきゃいけないんだが思いつかん。

 子分に負担を強いるのは俺は好きじゃねえんだが。

 俺達はなんとか細々と食ってる。

 日々の食事に感謝しながら。


 マーシェに気付いた瞬間、俺はそのまま無言で走って逃げた。

 もう二度と会いたくねえと思ってたからだ。

 正直ここまで自分の子分に対して距離を置きたいと思ったのはこいつが始めてだ。

 いや正確に言うと、あの時の魔術師の子分全員か。

 こいつ等の噂を聞いた時は正直嬉しいとかそんなことより、近づきたくねえと思っただけだ。

 俺は不安を振り払うように最高の速度でアジトに帰り着いて安心した。

 なのに着いたらこいつがしっかり後ろにいやがった。

 俺は恐怖したね。

 それでなくても今の俺の団は危ういバランスで成り立っているつうのに、こんな爆弾みてえな奴がきたら俺の団が滅茶苦茶になっちまうよ。

 俺は僅かな身銭を切って奴に帰ってもらおうとしたが駄目だった。

 どうやらこいつも宛がないらしい。

 俺は覚悟した。グッバイ俺の団。







 滅茶苦茶うまく回ってる。

 なんということでしょう。

 あれほどギスギスしていた空間だったと言うのに、マーシェを中心にして落ち着いた空間にシフトチェンジしやがった。

 金こそないものの、今は俺が安らげる場所になった。

 あれほど口をつむいでいたビアナが、マーシェには憎まれ口を叩き、皆のいる時でも僅かではあるが綻んだ顔を見せるようになった。

 アイリは険のある雰囲気だったのが落ち着いた。まあビアナへの当たりは相変わらずだが、それでも若干、若干だが解れた。マーシェに対する態度は至って普通であり、むしろ丁寧かもしれん。

 肝心のマーシェだが、こいつは俺より偉そうかもしれん。

 基本的に何もしねえんだ。

 家事は勿論のことトークン作りもサボりやがる。そして俺が説教するたびにマナが、マナが、マナが、なのは相変わらずだ。

 だが俺は許した。

 むしろ何もしなくていいからずっとアジトに籠っててくれと願った。

 それぐらい空気が穏やかになったからだ。

 俺は久しぶりに安らぎを覚えた。

 どうしてこうなったんだろうな。


 こいつらの関係を俺なりに考えてみたんだが、なかなかのバランスだった。


 まずはビアナだ。

 こいつは俺の片腕という意識はあるものの、俺を裏切ったことに対する負い目から強く行動することができん。

 特に、俺の事を持ち上げるアイリに対しては無力と言っても過言ではないだろう。

 だがこれがマーシェになると話しが変わる。どうもビアナが親衛賊団を率いていた時に、マーシェ率いる炎岩賊団と何回か衝突したことがあったらしく、その時から犬猿の仲なんだとか。

 そのうえ俺への態度が悪いのと、仕事をサボりまくってる事が合わさることで、負い目を感じることなく強い態度がとれるみたいだ。まあといってもアイリがいる時は遠慮しているが。


 次にアイリだ。

 こいつは正直おれには図りきれんから、なんとなく。

 神の信徒という立場と山賊の子分と言う立場がどういうふうに混ざっているのかは分からんが、とりあえずアイリの中では成立しているらしい。

 基本的に山賊行為は駄目で、糧を得るには何か代償行為がいると考えているな。

 だが、なにかきっかけがあれば免罪符騒動の時のように、常識では測れない行動をおこしやがる。

 ビアナに対しては基本的に冷たい?というか普通といえば普通なんだが、こいつの普通はもっと柔らかいからな。

 なんというか事務的な付き合い方に見える。うんこれがしっくりくるな。

 それと俺がビアナに甘く接しいると、その分当たりを強めているな。

 好意的に考えるならバランスをとっているのかな?

 今の落ち着いた雰囲気なったのも、マーシェがサボる分、ビアナがマシに見えるようになった結果かもしれんな。

 マーシェに対してはどういう捉え方をして、ああいう付き合い方になるのか理解に苦しむが。基本的にアイリらしい普通な態度で接している。つまり丁寧に接してんだよ。

 マーシェは俺の事をふざけて呼ぶこともあれば、敬う事もしねえ。だがアイリの中ではそれはノーカンみてえだ。もしかしたらマーシェの事を先輩として敬っているのか?

 謎だ。

 

 最後にマーシェだ。

 こいつは一番わかりやすいな。そういう意味では今一番付き合いやすい子分かもしれん。

 俺の子分という意識はあるみてえだが、こいつの中の子分の意味がわからん、それぐらい好き勝手してやがる。

 ビアナに対しては犬猿の仲かと思いきや、こいつ自身は気にしてない様に見えるな。付き合い方がフラットだ、まあつまりは好き勝手だな。

 アイリには若干丁寧かな?というか間違いなく俺より気を使って対応しているように見えるんだよな、あいつの中では親分という意味がいったいどうなっているのか。

 まあそのお蔭で、飯を気に入らない時でもテーブルをひっくり返すような事はしなくなった。

 もしかしてアイリのぶっ飛んだ一面に感付いて警戒しているのか?

 まあそれはいいか。


 後はこいつらの俺に対する態度だな。


 ビアナは基本的に服従してくれるな。まさに子分の鏡だ。

 アイリは条件的に服従だな。俺の親分としての度量を示せば良い子分だ。

 マーシェは基本的に不服従だな。ああ言えばこう言いやがる。まあそれでも最低限の指示には従うから今の環境なら良い子分かな。


 うん、秤がなんとか釣り合っている団だな。

 今までの俺の団と比べると非常に人間関係に気を使う団が仕上がってしまった。

 男だけの時は楽だった。あいつら基本的に愛すべき馬鹿だからな、今みたいに神経を使ったことはねえ。

 っはあぁ。

 まあ俺の親分としての試練なのかもしれん。

 こいつらを見事纏め上げる事ができれば俺はさらに上の親分になれるな、よし頑張るか。

 





 と、思った初っ端に俺がブルバードってことがばらされた。

 皆で飯を食っていた時に、そういえばなんでマーシェが一人なんだと話題になり。

 まあ案の定、帝都騎士団のご活躍により団は散り散りになったみてえだな。

 俺はこの展開が読めていたから一人で居た事に突っ込まなかったというのに。

 そしたら次の話題は原因のブルーバードに移る、まあ当然だよな。

 

 今でこそ落ち着いちまったが、当時は帝都騎士団が活躍すればするほどブルーバードの名声もグングン上がっていったからな。帝都一の大山賊とも呼ばれていたくれえだ。

 まあその時の俺はアイリと赤貧に喘いでいたわけだが。

 っつうのをアイリが自然に喋りやがってな。

 食卓には静かな時間が訪れたよ。


 古巣壊滅の原因、ブルーバード、広域手配、現在進行形で命を狙われている親分、想像以上に命の危険に溢れている現在所属中の団


 ビアナはどう反応すればいいのか迷っているように見えたが、素直に俺の名声をたたえたよ。

 さすが俺の子分だ。

 助かった、ビアナがどう考えるかは心配だったからな。

 マーシェの事はどうでもいい。

 ただ、奴の瞳が一瞬欲に塗れたのを俺は見逃さなかった。当分身辺に気を付けねえとな。

 と思っていたら奴がとんでもねえ事を言いやがった。


「カシラ、私いま魔術使えないからちゃんと守ってよね」

「はっ?」

「あのさ、同志達を逃がすために限界振り絞ったら、なんか使えなくなっちゃった」

「…魔術をか」

「うんそう、感覚的にはそこまで来てるんだけど、駄目なんだよね」

「ッテメエ!そういう大事なことは早く言いやがれ」

「だってカシラの事は信頼してたけど、ビアナとアイリとはまだ初めてだったじゃん」


 こいつは、あっけらかんと言いやがった。

 魔術を使える役立たずが、マジでただの役立たずになりやがった。

 ってか俺の事信頼してたのか?こんな奴でも子分の信頼は嬉しいもんだな。うへへ。


「それでは、私の事も信じて頂けたということでしょうか」


 それまで話を聞いていたアイリが控えめに話に入り込んできた。


「うん信じてるよ、だって密告せずにブルバードと一緒だったんでしょ?それって凄い説得力じゃん」

「ありがとうございます」


 アイリは満足そうに頷くと飯に戻った。

 するとビアナも気になったのか、抑えめの声でマーシェに話しかけた。


「では私は何なんだ」

「あんたカシラの犬じゃん」


 ビアナの眼差しが険しくなる。

 マーシェは軽く息を吐くと言った。


「別にそれだけじゃないよ。ブルバードの話が出た時にあんたからは野蛮人の嫌な感じはしなかったからね、だから信じた。…正直な話、あんたの団とはジャレてたけど、あんた自身に思う事は無い。あんたの部下は別だけどね目が野蛮人だったし。それとついで言っとく、私の目的はマナの回復と魔術の深淵を覗くこと、カシラは野蛮人だけどマナに精通してるからね。…私は今言った理由でここにいる、だから裏切るつもりはないから安心していいよ」

「……おめえ、結構真面目にしゃべれんじゃねえか」

「当たり前じゃん、かしらとは頭の出来が違うんだから」

「…減らず口は相変わらずだな」


 マーシェとはそこそこの付き合いがあるが、ここまで真面目に話していたのは見た事がなかった。

 今日一番驚いたかもしれん。


「それでは僭越ながら私もマーシェ様の信頼にお応えさせていただきます。私が頭様にお仕えしているのは道に迷った私を照らしてくださったから、この御方となら私は、私の信じた道を歩んでいけると確信したからです」

「そっか、じゃあカシラは山賊だけどそこはどう思ってるの」


 それは俺も気になっていた。マーシェも良い質問をしてくれた。


「職業に貴賤はありません。あるのはただ、己の業とどう向き合っていくかという現実だけです。頭様からそれを教えていただきました」

「…えーと、貴賤どころか完全に犯罪者だと思うけど、まっそれは私も言えたもんじゃないからここらへんにしとくか」


 すげえマーシェが引き下がった。

 俺の時は脳みそから液が垂れそうなになるくらい質問をし続けるあのマーシェが、自分から折れた。

 うーん、煙にまかれた感はあるがこれ以上は突っ込めんか。

 っていうか俺そんな事教えた?


「ありがとうございます」


 アイリはマーシェに軽く会釈した、本当にマーシェには丁寧だよな。 


「それじゃああんたは?」

「……私は頭に返し切れない恩を受けた。今もだ。だから今度こそ返す。それだけだ」

「あんたのことよく分ったわ、やっぱ犬じゃん」

「…ッ…」


 ビアナはマーシェを睨みつけるだけだ。

 俺がいるからだろうか、犬に言い返さねえな。

 子分が俺の犬っつうのを否定しねえのは、なんか心がくすぐられるな。


「じゃあ最後に、かしらが何考えてんのか教えてよ。現実的な話、状況はかなりヤバイと思うだよね。あまりにも変なこと考えてるようなら、さすがに私も考え直さなきゃいけないしね」


 今度はこっちか、まあ俺のいう事は決まってんだが。 


「俺は山賊だ、だから山賊らしく生きるだけだ。…それじゃあ駄目か」

「駄目に決まってんじゃん」


 呆れた表情で俺を見るマーシェ。

 わかってるよおめえの言いたいことは、だがな、俺は度量を示すしかできねえよ。


「だよなあ、でもなあマジな話俺の目的はそれくらいだ。っだからなビアナの足を治す、お前の魔術が使える様になるまで一緒いてやる、アイリは一緒にいればいいんだろ」


 それぞれに視線を流しながら言い終えると。

 ビアナはまた俯いてしまった。

 アイリは微笑んだ。


「深淵を覗くが抜けてる」


 マーシェはこういう奴だよな。


「っぁぁああ、こまけえ奴だな。それも一緒に見てやるよ。だから俺の親分としての度量を示すだけだ」

「ふーん、じゃあ具体的にこれからは?」


 そんなもんあるわけねえだろうが、あったら今頃こんな生活してるかボケェ。

 とは言えないな。

 まあ親分らしく締めるだけよ。


「馬鹿かおめえ、それは皆で考えるんだろうがよ。まっそういうわけだよろしくな」

「はい頭様、これからもお傍でお仕えします」

「…はい頭、今度こそ」

「ま、いっか」


 一人引っかかる返答を返したが、まあいい。

 さてどうしようかね。







 正直思いつかんかった、皆も良いアイディアはねえみたいだな。

 それからも変わらずの日常だ。

 ただ、皆の腹の中に思っていたもんを話したのは良かったのかもな。

 さらに風通しが良くなった。

 ビアナなんか以前より俺を立てるようになったからな、本当にこいつは可愛くてしょうがねえ。

 アイリも笑顔を見せる様になってきた、こいつも前は大変だったからな、できるだけ笑っていてもらいてえな。

 マーシェは良いきっかけをくれたもんだぜ。

 普段はマジでただの無駄飯ぐらいだが、こいつがいて良かったと思える時だな。

 

 





 俺はいつものように準備された食卓に向かう。

 左右に視線を走らせると、誰も欠けることなく皆席についている。

 俺はゆっくり獲物を見定め所定の席についた。


 バイトバイトフォーメーションだ。


 獲物を口に入れると上あごを固定し、下あごを上下に動かし続けるのだ。

 少ない食事で満足する為に考え抜いた俺の切実な陣形だ。

 この陣形を使うようになってからは、食後の満腹感が増した。 

 俺は信奉する悪徳の神リーファイスに祈りを捧げた。

 子分たちが満足しますようにってなあ。


「満腹になりたきゃ、てめえら良く噛めよ!」


 いつもの口上、いつもの陣形、いつもの獲物。

 俺は笑みすら浮かべ奴に迫った。

 これは俺の美学だ。正直、彼岸花のスープはうまいとは思えねえが、ビアナの事を考えると口にだせねえ。うまいうまい、うまいんだこれはうまいんんだ!

 俺はいつものように鞘を払うと愛用のスプーン構え、いつものように子分に合図を送る。

 そうするといつものようにアイリが俺の前にスープ皿を置いた、そしていつものように子分たちの前にもスープ皿が置かれた。


「「「「いただきます」」」」

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