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二人の関係

 おう俺は山賊だ。

 今も帝都の森を根城にしてる。

 この道には定期的に信徒の方が訪れ、私達はその方達に説法をして日々の糧を得ております。

 信徒の方達はとても親切で私達に親身になって下さり、私達の生活を支えようと日々の仕事に励まれております。

 私はとても彼らには頭が上がりません。


 もう毎日が清らか過ぎて心が洗われるぜ。

 現場は最高だな!やっぱり現場だぜ現場。

 


 根城の空気が最悪です。

 金がねえからだ。

 勿論日々の説法はやってる、だが、あれから俺達の収入は落ち続けた。

 というのも世の中の話題は今、チューリップ一色になっちまったからだ。

 今や帝都も巻き込んだ空前絶後のチューリップバブルだ。

 なんでも珍しいチューリップの球根は家が建つぐらいの価値になっているらしい。

 しかも現物が足りねえから、先物取引にまで発展してると聞いた。

 俺の時にはそこまでなってなかったが、スゲエよなあ。

 でだ、ビアナがやっちまった。


 こいつにしては珍しい事なんだが、焦ってたみたいだ。

 俺達の収入が落ち続ける中、ついにビアナの説法の客がいなくなっちまった。

 まあしょうがねえよなビアナは根っからの山賊だしよ、それは俺も分かってたし、気にするなとは言っておいた。

 が、俺のフォローが足りなかった。

 あいつは足手まといの自分の体を申し訳なく思ってたみてえだし、山賊行為をさせないアイリにもどかしい気持ちがあったみてえだ。

 足が満足じゃなくてもビアナなら山賊で稼げるだろう、だけど山賊をさせてくれねえ。

 そして俺達のおまんまを稼いでくるのはアイリだ。

 どうにか役に立ちたかったんだろうな。

 あいつはチューリップを買ってきた、団の金を使ってだ。

 何でも行商が秘密のルートを持っているらしく、シスター見習いのビアナだから特別に売ってくれたっつう話だ。


 俺に一言でも相談があればなあ。

 転売するつもりなら少しは分かるが、育てるつもりなんだとしたら無謀としかいえねえ。


 まあ買ってきたもんはしょうがねえ、と満足そうなビアナから球根を受け取った時に微かな違和感を感じやがった。

 はっきりとした違和感じゃねえが、チューリップに関わった者としての勘がささやくんだ、こいつはチューリップと違うんじゃねえかってな。

 すると脇で見ていたアイリがヒョイと一つ手に取ると球根をむき出し、匂いを嗅いでなめたりしたんだ。

 そしてビアナに宣告した。


「騙されてしまいましたねビアナさん、これは彼岸花です」


 ビアナは詐欺に引っかかったんだ。

 山賊が詐欺師にやられるとはな、その時のビアナはとても見れたもんじゃなかった。

 だが団の金を使っての失敗だ。俺は説教した。

 説教したんだが、さらに縮こまったビアナを見た時は可哀想でな、俺は早々に許しちまった。

 それが失敗だった。

 キチンとけじめをつけなかった事でビアナがさらに追い詰められてな。それに、アイリの態度が余計にきつくなっちまった。

 その上さらにだ、正直使い道の無い彼岸花をどう処分するか話したら、価値はないが食糧にもなれば、薬にもなると話がでた。

 それは良い話を聞いたと思ったんだが、その方法を知っていたのはアイリだった。


 それを聞いたビアナは彼岸花を増やしてみせると言い、一部の球根アイリから貰い、黙々と、ただ黙々と畑で彼岸花を育てた。

 だが、彼岸花はそのほとんどが育たなかった。

 ビアナはすっかり落ち込んじまった。

 そのビアナを励まそうと構うと余計にアイリの態度が尖ってきやがる。

 もう悪循環だ。


 飯の準備の時も、飯を食ってる時も常に張りつめた空気だ。

 彼岸花は食えるが毒を持ってる、調理にすげえに手間がかかる上にいくらも食える部分がねえ。

 アイリはわざわざ嫌味を口に出す奴じゃねえが雰囲気は伝わっちまう。

 ビアナと二人で調理させているんだが、音がねえ。

 いや、手元は動いているから調理する音はあるんだが、二人して協力させて作らせているというのにまったくの無言なんだ。

 飯を食ってるときも笑顔にゃならねえ、俺が話題を振ってもお互いがいる時には反応が悪い。


 俺の力不足か。

 このままじゃ良くねえ。


 アイリは良い奴だ。元々俺に付きあう必要はねえのに子分になってくれた。下手したら自分も縛り首になっちまうかもしれねえのにだ。

 マジで感謝してる。アイリがいなきゃ今ここにいることもできなかったろうし、ビアナにも会えなかった。もうここいらで解放してやってもいいのかもな、今のあいつなら神の教えとやらも満足に伝える事が出来るだろうし。

 それに初めて会った時みてえに餓える事はもうねえだろ。

 あいつ一人の方が楽なはずだ。

 ……だから、俺が、こんな事を言うのはマジで親分失格なんだが、アイリとは関係を解消しようと思う。







 すげえ反対された。

 っていうか一体何があったというのか「私の秤は、頭様に傾いております」とか言いきりやがった。

 何と比べてなのかはあえて聞かなかった、アイリも口には出さなかったし、藪は突かねえほうがいいからだ。

 正直俺はアイリの琴線に触れるような事をした覚えはないんだが、どうしたのかねえ。

 まあいいか、じゃあ山賊は解禁だな!と聞くとそれは駄目らしい。


 本当に、アイリの心中ではどういう処理をしているというのか。


 今までの子分たちの中じゃあ断トツで何考えてんのかわかんねえ奴だな。

 諦めた俺は、せめてビアナへの態度をどうにかしろと言ったんだが、


「今のままでは改める事はできません」

「じゃあどうなればいいんだ?」

「それは、頭様がどうにかすることではありません」


 取りつく島もなかった。

 俺は深い溜息を吐くと空を見上げた。







 俺はいつものように獣道を歩く旅人を襲った。

 奴は一人だった、油断もなければ警戒もなくただ普通に歩いている。

 俺はゆっくり獲物を見定め所定の位置に着いた。


 シークレットフォーメーションだ。


 獲物の腕を素早く締めあげ、僅かな通行料を頂くのだ。

 ばれないように少しでも家計への負担を和らげようと願う陣形だ。

 この陣形を使うようになってからは、たまにオカズが増えた。 

 俺は信奉する悪徳の神リーファイスに祈りを捧げた。

 アイリにバレませんようにってなあ。


「命が惜しけりゃ、僅かな金を置いてきな!」


 いつもの口上、いつもの陣形、いつもの獲物。

 俺は笑みすら浮かべ関節を極めた。

 これは俺の美学だ。だんだん状況が悪くなる中で、少しでも改善してやろうとする俺の親分としてのプライドをかけた山賊だ。

 俺はいつものように鞘を払うと愛用のシミタ―構え、獲物に見える様にシミタ―を動かす。

 そうするといつものように獲物がビビり財布をとり――――――げっマーシェか。


「カシラじゃん」

ありがとうございます

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