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俺の動揺

 おう俺は山賊だ。

 今も帝都の近くの森を根城にしてる。

 この辺りは幾つもの街道があってな、今そのそれぞれの道が噂になってる。

 天国への街道、福音の林道、懺悔の狭路、贖罪の獣道ってな。

 この四つが話題の道でな、この道を通る事により新しい自分に出会えてり、過去の過ちから立ち直る事が出来るみてえだ。

 その効果を求めて商人でも旅人でもねえ奴が通る事が増えた。

 俺りゃうっはうっはよ。


 そうーでもないんだなー。

 俺は困ってる。

 まだ今ぐらいの噂ならどうってことはねえ、だがな、この熱は徐々に盛り上がってきてやがる。

 先日なんか信じられねえ金を寄付する馬鹿がいた、山賊から逃げる為に払うにゃ安いが、今俺達がしているのはただの説法だ。

 それも最近は俺が短くしろとうるせえから、モクをふかすぐれえの長さのチョロ説法だ。

 そんなんで家族が一月食えるだけの金を寄越すなんて信じられるか?

 俺はビビったぜ…。

 しかも最近はその貰える金が徐々に吊り上がってきやがった。

 俺達は何も言ってねえ、ただ金があるから襲撃の数を減らしただけなんだ。

 そしたら余計に金を貰えるようになっちまった、俺はなんか怖くなってきた。真面目に働いている訳じゃあねえのに金が向うからきやがるんだ。

 おかしい、なんだこりゃ俺は化かされ――――――ッハ!

 相場師の現場でやってたやつと一緒か、干ばつなのか、そうかアイリが大干ばつなんだ!!

 アイリが減ったから金も噂も増していくのか。

 そうかそういう事か、なんだよすげえ焦っちまったよ。てっきり化かされたか天罰なのかと思っちまったよ。

 …よしっ、原因が分かればこっちのもんだ。

 

「おいアイリ」

「なんでしょう頭様」


 こいつは俺の事をこう呼びやがる。丁寧なのはいいんだが、何かちげえ。


「その呼び方は止めろと言ったろ」

「頭様は頭様です、私は司教様のことも司教様とお呼びしていました。それともお名前でお呼びしても?」


 しかも聖職者特有の頭の固さなのか、一向に譲ってこない。


「それも止めろって言っただろうが、俺の事は頭か親分かアニキと呼べ、それが山賊だ」

「では、頭様ですね」


 微笑むなよ。

 まあいい、俺は子分には寛大な親分だからな。


「好きにしろ。それでな説法なんだが次からは少し長くする、理由はわかるか?ああ?」

「噂の鎮静化ですね」

「あ、うん…」


 何者だよこいつ、捕まったのは本当に冤罪だったのか?

 っつうかわかってたなら言えよ。俺達っ、じゃなくて俺の首がかかってるんだからよお。


「ですが、些か遅かったのかもしれません」

「ん?そりゃどういう意味だ?相場師んとこじゃあ、麦が放出されりゃあ値段も人も落ち着いたぞ」

「…そうですね。」


 表情を曇らせるアイリ。

 おいおいなんだよ、はっきり言ってくれよ。


「申し訳ありません。私には読み切れません、ですが―――」

「っああ!分かった分かった、とりあえずやりゃあいい!駄目だったら後で考えりゃあいいじゃねえか、っな」

「はい頭様」


 少し前までは金に困るぐらいだったんだけどなあ。

 一回当たりの寄付金がすくねえから、趣向を凝らしてみたらこれだよ。

 たまんねえぜまったく。

 普段なら大喜びなんだけどなあ、まだ手配がなあ、解けねえかな。

 それにしてもアイリがウケた理由は何なんだろうな。 

 聖職者特有の金の匂いがしないのが良かったのか、それとも除籍された聖職者の影があるのが良かったのか、はたまたただ美人に叱られたいという男の願望が混じっただけなのか。

 わかんねえなあ。

 俺が分かるのは、贖罪の獣道のアイリはエロくて。天国の街道の時はこええぐらいだな





  

 

 駄目だった。

 アイリの言うとおりに遅すぎたみてえだ。

 毎日長時間説法させてもみたんだが、逆に収拾がつかねえぐれえの人だかりになっちまった。

 日増しにアイリを求める事が増えてきやがる、弟子入りしたいって奴もいやがった。

 これじゃあ不味いな、まだそこいらの雑魚しか反応してねえが、このままじゃあいずれデケエところ――――――あ、


 あ、その大きいとこの一つ、帝都騎士団はこのたび解体されることが決まりました。


 付近の賊をさんざん潰しまわったが、なんの成果も上げなかったからだ。

 いや治安は良くなった。だが肝心のブルーバードにかすりもしなかったからな。

 今後は帝国騎士団に吸収されてその中の一部署として、名前を変えて辛うじて存続が許されたらしい。

 まあ実質的には解体だな、新しい名前は都帝騎士団だそうだ。

 俺のこと超恨んでんだろうな。おっかねえおっかねえ。

 

 それよりアイリだ。

 どうしたらいいんだ。

 まだ外に逃げるわけにはいかねえしなあ。

 懸賞金はまだ高額だし手配の範囲は変わってねえみてえだからな。

 むしろ今回の帝都騎士団の解体で、ブルーバードの名前が一層盛り上がってるみてえだし。 

 なんでも義賊が国に報いた痛快物語として歌われてるらしい。

 しかもかなり詳しく歌ってるみてえだから、それが騎士団を煽る煽る。

 都帝騎士団になっても血眼になって探してるみてえだからな、まだ外はやべえ。

 と言ってもこのままじゃあなあ。

 はやく考えねえと。







 俺はいつものように人通りの少ない道を選んで旅人を襲った。

 奴は一人だった、粗末な衣服を身に纏い足を庇いながら歩いてる。

 俺はゆっくり獲物を見定め所定の位置に着いた。


 ショート・チャペルファーメーションだ。


 獲物を街道脇に無理矢理に引っ張り込み、十字架を目の前に据え付けるのだ。

 信者が集まらないよにするゲリラライブ的な陣形だ。

 この陣形を使うようになってからは、信者に襲われることがなくなった。 

 俺は信奉する善行の神シャラスナに祈りを捧げた。

 お宅の信徒共を抑えてくれってなあ。


「懺悔がしたきゃさせてやる。ただしお布施は置いてきな!」


 いつもの口上、いつもの陣形、いつもの獲物。

 俺は笑みすら浮かべ奴に迫った。

 これは俺の美学だ。麦を渡すわけじゃねえが俺たちゃ心の薬を売ってる、その対価をありがたく頂くぜ。

 俺はいつものように十字架を地面に差し込むと、いつものように子分に合図を送る。

 そうするといつものように子分がでてきて、優しく微笑み客の懺悔を聞いて――――――ビアナ?


「懺悔か、私にはその資格はないよ」

宜しくお願います

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