俺の新しい職場
おう俺は山賊だ。
今は深い森を根城にしてる。
この森には道があって、この林道ってのが美味い。
この道を利用するのは行商人か道に迷った旅人くれえだからだ。
安全に稼げるうえに、こいつらはこの辺境で価値のある、食糧や衣服、小物、小銭を持っている。
それがうめえ。
嘘だ、強がった。
全然美味くない、むしろチョー大変。
…大変と言えばあれから大変だった、マジで騎士団に追われたからだ。
あいつら俺と仲良かったくせに容赦なく追い詰めやがった。
なんだよ帝国の平和って、知るかよそんなもん。
俺の平和を返してくれ。
やられそうな所を、マブダチだったジョニーが気を利かせてくれなきゃ、マジで死んでた。
感謝してるぜジョニー。
まあ有り金持っていきやがったけどな。
死ねジョニー。
そんなこんなで流れに流れ、俺は今は森にいる。
ただ一人じゃあねえ、今の俺には仲間がいる。
盗賊崩れのジョンに、逃亡兵士のランガ、食い詰めた農民のティスとダンだ。
ジョンは粋がっていたが俺の一喝ですっかり子分。
ランガは元々ビビっていた。
ティスとダンは素直な奴らだが、俺が内心ビビってる。
奴らは客に容赦がねえ、キャッチアンドリリースの精神がなくて、キャッチアンドダインだ。
奴らが関わった仕事は必ず流血が伴う、まさに金も命も置いていけと言う奴だ。
俺の愛用の台詞だが、俺は殺しが好きじゃなねえ。
ってより儲けが減るからだ、奴隷として売っぱらっちまえば金になる。もったいない精神だな。
だけど奴等は、売れるまでの間の食糧が気になるらしい。これももっていない精神だな。
まあそんな事で今はこの道は、流血の林道という呼び名がついている。
そろそろ職場を移した方がいいのかもしれない。
俺はいつものように赤く染まった道の上を歩く行商人を襲った。
奴は一人だった、赤い道にビビりながら馬を引いている。
俺はゆっくり獲物を見定め所定の位置に着いた。
トライアングルフォーメーションだ。
獲物の前後を塞いだ上で、茂みから飛び出し強襲を仕掛けるのだ。
前回の反省を踏まえた俺自慢の陣形だ。
この陣形を使うようになってからは、子分の怪我が減った。
俺は信奉する悪徳の神リーファイスに祈りを捧げた。
仕事の成功と子分の無事をってなあ。
「命が惜しけりゃ、金も命も置いてきな!」
いつもの口上、いつもの陣形、いつもの獲物。
俺は笑みすら浮かべ奴に迫った。
これは俺の美学だ、一回トンデモナイ事になってしまったが、それは忘れよう。やはりするとしないでは集中力が違うからな。
俺はいつものように鞘を払うと愛用のシミタ―構え、いつものように子分に合図を送る。
そうするといつものように獲物の脇の茂みから子分が飛び出し獲物に殴りかかる。
いつものように獲物が倒れ――――――ダンが倒れた?
「また会ったね賊君、僕の剣の錆になってくれるかい」
奴は強かった。
子分たちは皆やられちまった。
不器用な盗賊のジョンに、狂気の農民ティスとダン。
皆、皆死んじまっ――――――
ランガはどこだ?
平静になった俺は、ランガを探すような事はせずにさっさとトンズラした。
奴は怒りに震え叫び声を上げた。
「逃げるな賊が!いつまでも逃げ続けれると思うなよ!!」
俺は後ろをチラッと横目で確認しながら逃走し、気付いた。
ランガが奴の背中に震えながら隠れているのを。
そして理解した。
復讐の対象が増えた事を。
「ふざけんじゃねえ絶対復讐してやるからな!」
俺は走った。
ありがとうございました