俺の反逆
おう俺は山賊だ
今は大自然に囲まれた山を根城にしてる。
この山には洞窟があってな、この穴の中が美味い。
この穴を利用するのは腹を空かせた罪人と衛士ぐれえだからだ。
こいつ等は俺に鞭をくれたり、飯を奪うからな。
それがうめえ
わけねえだろうが!
そうです。
俺はあの後しっかり懲役をくらった、鉱山労働20年だ。
衛士が笑いながら教えてくれたぜ。
自白したことでさらに刑期が伸びた事を。
あの提案は、口からの出まかせだって事を…。
やろう絶対に復讐してやる。
ここでの作業は想像を絶した。
炎天下での太陽地獄か、洞窟での粉塵地獄のどちらかだからだ。
俺はどっちも嫌だった。
だが俺は山賊だ、誇りある山賊の俺は灼熱地獄選んだ。
というのも、こっちのが脱獄できそうだからだ。
俺はがむしゃらに頑張った、すげえ働いた、衛士が俺に気を許す可能性を信じた。
駄目だった。
ここに入った奴等は、皆俺みたいに最初は超頑張るらしい。
そして倒れて、医療小屋に連れて行かれて現実を見て悟っちまうんだと。
俺も悟っちまった、ここには慈悲がねえと。
総領がいたんだ。
俺が前に世話になったでけえ大賊団のボスだ。
聞いた話によると部下もここに居たらしい。
居たらしいっつうのは、もう居なくなっちまったって事だ。
500人からなる大賊団だったのに、もう残ってるのは40人にならねえんだってよ。
俺はビビったね。
こりゃ20年の刑期なんてとてもじゃねえが務めきれねえって。
そしたら総領が教えてくれた。外じゃあ今、親衛賊団ってのが総領のいた地盤を引き継いだらしい、この世の中は盛者必衰の理なんだって。
……つまり、衛士達が所属する国もいつか滅びるからそれまで待とうよ、と言いたいらしい。
ふざけるなあぁあああ!
目の前の弱り切った総領に止めをさしたいという気持ちを必死に抑え込むと、俺は恐怖した。
あれだけギラついた眼光の鋭い男だったのに、すっかり牙を抜かれてやがる。
もう狼じゃねえ飼いならされた犬だ、この男は犬なんだ。
俺はお互いの立場の逆転を察した。
つまりこの哀れな男は俺の子分になれるってことだ。
するとどうだろう、なんだか可愛く見えてくるじゃねえか。
総領―――ダフィンは賢い奴だ。気概はねえがなかなか使える。
俺はさっそくダフィンを子分にした。
ダフィンは抵抗なく受け入れた。
もうこいつは人の上に立てねえな。
俺は考えた、どうすればこのクソ見てえな刑場から抜け出せるのかをってなあ。
岩石を運びながらも考えた、が、
駄目だ、何も、思いつ―――
っそれより、水、水をくれ、一口でいいから飲ませてくれ。
し、死んでしまう。
俺は死にかけていた。
灼熱地獄の中を永遠と尽きることなく岩石を運ばされているんだ。
洞窟から刑場の出口に置いてある荷車まで運ぶのが俺の仕事だ。
こいつら足のねえ岩石は外に出て自由だっつうのに、歩くことのできる俺は同じ場所をグルグル。
人夫の時は楽しかった、明日に向かって輝いてた。
それが同じ単純労働だっつのにこっちは死にそうだ、何が違うってんだ。
あれから俺の子分は増えた。
ダフィンの子分を丸ごとと考えたがそりゃ駄目だった。
ダフィンの子分はすっかり奴を見限ってやがった、まあそりゃそうだよな。
こんな地獄で待とうよって言われてたらキレるよな。
俺もキレたもんなあ。
まあそんなわけで、良さそうな奴を見繕って俺の子分にした。
常に何かを呟いているヨーイ、虚ろな瞳で虚空に手を振っているデディ、岩石を親友と言い切るジョルダン、すげえビビリのホイタン、鞭に叩かれて喜ぶデンチン。
これでもマシなんだ。
他の奴らは俯いて空を見上げることがねえ、もう足元しか見てねえんだ。
それに比べたらヨーイにデディなんか可愛いもんだろ?
奴等視線があっちこっちに飛びやがる。
よく俺を見つめるが目が合ったことはねえ、どうやら俺の後ろを見てるらしい。
俺の山賊力が滲んでいるのかもしれねえな。
まあそんなことより水を下さい。
俺はいつものように照り付ける太陽の下、囚人を監視をする衛士を襲った。
奴は一人だった、足場の悪い山道に足を投げ出して座ってやがる。
俺はゆっくり獲物を見定め所定の位置に着いた。
ダブルフォーメーションrだ。
獲物の前面から突撃を仕掛け、後ろの子分が岩を投げつけるのだ。
これは運よく子分と仕事のペアになったから突発的に起こした反乱だ。
もう五回目かあ。
この陣形を使うようになってからは、俺の青痣が増えた。
俺は信奉する悪徳の神リーファイスに祈りを捧げた。
反乱の成功と失敗した時の飯抜きは勘弁してくれってなあ。
「命が惜しけりゃ、俺の刑期を短くしな!」
いつもの口上、いつもの陣形、いつもの獲物。
俺は笑みすら浮かべ奴に迫った。
これは俺の美学だ。いつまでも諦めることなく鳴らし続ける、このクソッタレな世の中への反逆だ。
俺はいつものように手枷を鳴らすと上段に構え、いつものように子分に合図を送る。
そうするといつものように俺の後ろから子分が岩石を投げ―――――――あれ?
「また貴様か、よくも懲りずにまあ」
奴は強かった。
子分はやられず俺だけボコられた。
どうしてだ、なんで俺だけ、どういう事なんだ。
ジョルダンはどうし――――――
岩を抱きしめていた。
奴は口を歪め鼻を鳴らし嗤いやがった。
「よし、これで反乱鎮圧二回目だな、俺もそろそろ帝都に戻れるか」
俺は意識が薄れる中でチラッと奴を確認し気付いた。
奴が懐から木札のようなものを取り出すと、それを見てニタニタ笑っている事に。
そして理解した。
俺の反乱は奴らの栄転のキップなのだと。
「クソがぁ…」
ありがとうございました