表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/43

俺のジレンマ

 おう俺は山賊だ。

 今は城塞都市ある立派な城を根城にしてる。

 この石造りの頑丈な部屋の前には通路があってこれが美味い。

 この道を利用するのはもっぱら衛士でたまに女がくるくれいだからだ。

 あいつら脅かさずとも飯を置いていきやがる。

 これがうめえ。


 嘘です、強がってます。

 超マジい!マジで何入れてんだよコレ、なんか白っぽくて透明なぐにぐにした玉があるんだが、ブドウかな?っいやスープにブドウはいれねえか。…ってことは痰なのか。

 俺は地下牢にて投獄中だ。


 泣けるじゃねえか、地域発展の為に尽くした男にする仕打ちがコレかよ。

 信じられるか?

 俺は街の産業を守るために、通行料も取ったし積み荷も没収した。

 皆納得ずくだ。金は商人にも街にも騎士団にもやったし、俺は皆がやらねえ汚れ役をやってただけなんだ。

 なのにひでえ仕打ちだよ。

 俺は関税みてえなもんだ、皆に認められた税金なんだ。

 そりゃあ、ちょっと調子に乗って無差別に通行料をとっちまったのは悪いけど、まあ悪いっつてもそれだけだ。

 特に悪くねえ。

 なのにだ、欄干の損壊、橋の完成不良、建設時の横領、こいつ等が全部俺の罪として疑われてやがる。

 

 欄干の損壊はしょうがねえ、あれは山賊している時に客がうっかりさわって壊しちまうからな。それに客がぶっ壊す度の補修で部分的な強度は上がってから、むしろ感謝してほしいくれえだ。 

 今の欄干は危なくてしょうがねえ。


 橋の完成不良もしょうがねえ、最終的に橋に必要な建材まで横流ししてたからな。

 橋の繋ぎは厚い木板の上にセメント塗りつけただけだから、あんまり重たいもんが通ると底が抜けちまう。完成用の化粧工事はいくらもしねえうちに剥れる安化粧、欄干は石を積んだだけの押せば倒れる不良品だ。むしろ完成披露の時にばれなかったのがすげえ。

 さすがカール。仕事はできねえけど誤魔化すのがプロ級だぜ。


 この二点はもう俺の責任が確定しちまった。

 今は、最後の一点を争っている。 


 建設時の横領だ。

 これはな関わっている奴に大物がいるからなかなか話は決まらねえ。

 ……と思っていたら俺とクソ監督の一騎打ちになりやがった。どっちが主犯なのかだってよ、知るかよそんなもん。

 俺は黙ってたよ、こういう時に喋ると碌なことがねえ、多分あのクソ監督もそうしてるんだろうよ。

 へっ、こんな事で共感するなんてな。

 俺達は耐えた、長く強く粘った。

 それを見かねた衛士共がこんな提案をしてきやがった。


 俺が自白してクソが黙れば、俺は無罪。

 俺が黙ってクソが自白したら、俺は死刑。

 二人とも黙れば、俺は鉱山労働1年。

 二人とも自白すれば、俺は鉱山労働10年。


 まあクソ監督にも同じ条件が出てるんだろうな。

 俺は悩んだね、黙ってたら下手したら死刑だ。

 だが、自白しても下手したら10年食らっちまう。っていうか鉱山労働10年なんてほぼ死刑じゃね?

 つまり、俺かクソ監督のどっちかが自白した時点で、片方が死ぬか、両方が死ぬっつう事だな。

 黙っていれば、片方が死ぬか、両方とも鉱山労働1年で生き延びるかだ。

 俺は考えたよ、どうすれば生き残れるのかおな…。


 っはあ、あいつ等は今頃何してるんだろうな。 


 子分達は無事だった。

 俺の罪を重くする代わりに許された。

 まあ完全に無罪って訳じゃあねえ。子分達には橋の不良を見つけ次第直すという贖罪が与えられた。

 当然だよな。橋の建設に関わってたし、主な不良個所は俺達が手掛けた所だ。

 これは妥当な贖罪だ。

 カール辺りは近いうちに投獄されそうだがな、あいつすぐに誤魔化しやがるからな。

 まあそういう訳で今の俺に憂うモノは何もねえ。

 後は自分の進退だな。


 俺は決めた。

 自白する。

 山賊らしく潔くいこう。

 無罪か死罪か、もし二人とも自白して鉱山労働になるんだとしたら、俺は死刑を嘆願するつもだ。

 これが俺の山賊道だ。

 俺はチューリップについて熱く話している衛士達に割り込み、自分の罪を告白した。






 

 俺はいつものように陰湿な地下室にいた。

 衛士は目の前だ、しょぼい蝋燭の明かりで書類を読んでいる。

 俺はゆっくり奴を見定め所定の位置に着いた。


 シングル・インフェルノフォーメーションだ。


 獲物の正面から、狂気を超えた地獄の眼力で睨みつけるのだ。

 この邪気眼の力で俺を無罪と言わせてみせる。

 この陣形を使うようになってからは、右手が疼くようになった。 

 俺は信奉する悪徳の神リーファイスに祈りを捧げた。

 己の無罪と右手の封印を解くなってなあ。


「命が惜しいです、無罪と言って下さい!」


 いつもの口上、いつもの陣形、いつもの獲物。

 俺は笑みすら浮かべ奴に迫った。

 これは俺の美学だ。一つしかない命を超大切にしようとする、星すら包む俺の愛だ。

 俺はいつものように疼きだした右手を抑え、いつものように衛士に合図を送る。

 そうするといつものように左目も疼きだ――――――。


「貴様は無罪とする」


 





 おっしゃあああああああ!

 え、本当?まじで?担いでないよね?

 やったぁああああああああああああああああ!

 喜びに満ち溢れた俺は必死に漏れそうになる声を抑えた。

 山賊はダンディズムだ。

 平静になった俺は、もう聞くことはないとばかりに退出する。

 奴は冷淡な声で続けた。


「だが、欄干の損壊と橋の不良工事は別だ」


 俺は後ろをチラッと横目で確認し気付いた。

 奴が本気で言っている事に。

 そして理解した。

 俺は絶対に無罪にならない事に。

ありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ