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俺の希望の橋、№2

 おう俺は山賊だ。

 今は大河の畔を根城にしてる。

 この河には完成したばかりの大橋が掛かっていて、それが美味い。

 ここを通るのは希望に溢れた商人、町民、旅人ぐれえだからだ。

 特に商人がすげえ、商品をわんさか積んだ荷車ばかり通りやがる。

 これがうめえ。


 橋は完成した。

 ただ、竣工式用のポールを俺達が流しちまったから、しまらねえ完成披露になった。

 偉い奴らが大勢いる中、俺達がポール代りに肩車をして旗標を掲げたんだ。

 はっきし言って頑張った、厳粛(げんしゅく)な空気の中で縦に四段の肩車とか凄くね?

 それが認められて俺の顔は売れた。

 まあ馬鹿な話だが今回はそれが幸いしたぜ。

 橋ができた事で他所から商人が来るようになっちまった。増えた商人は競争相手だ。

 と言う訳でやっこさんらは(地元商人)、俺にそいつ等をどうにかしてほしいって言いやがる。

 俺は二つ返事でオーケーしたね。

 もともとその気だったし、子分達もそのつもりで仕込んできたからだ。

 正に皆の希望の橋じゃねえか。


 今の子分達は人夫だ。

 山賊にするのは骨が折れた、まあ竣工式用のポールを落としたのが良いきっかけになったな。

 あの後、余った建材を売っぱらう技を子分達に教えて金を握らせた。

 余録の味をゆっくり教え込んだんだ。

 そうすりゃ後は簡単だ、余った建材が、余らせた建材に変わり、それが今度は多めに準備した建材に変わる。

 こうなると横領だ。そうなるともう後には戻れねえ。

 次に始まるのが、他のチームの置き忘れた道具のかっぱらいだ、その次は隙を見てかっぱらう様になる。

 こうなると盗人だ。

 現場で目をギラギラさせてやがる。

 金の使い方も派手になり、金が欲しくて無茶をしやがる立派な山賊の誕生だ。


 俺の子分達は漏れなくそのエリート街道を歩み、全員スライド入団だ。

 山賊付属の人夫だった事だな。

 子分達は新しい職場にウキウキしてやがる、まったく可愛い奴等だぜ。

 まあ俺がスライドさせたからにゃ食いっぱぐれるような真似はさせねえ。

 子分達にセコイ事を教えていた時に既に種は撒いていた。

 あのクソ監督と結託して、設計技師と建材商人を抱え込んだ。

 それで設計図いじって建材を水増しして、増やした材料はそのまま横流しよ。

 見事な三角貿易だな。

 俺はこの仕事でも食っていけるかもしれん。

 っつうわけで、その時に商人連中とは顔合わせは済んでいた。

 その上で肩車四段のインパクトよ、俺の度量は完璧だった。

 最後はクソ監督に横領の罪を被せてお仕舞よ。

 後片付けはしっかりしねえとな、掃除と復讐の一石二鳥だ。


 それじゃあ改めて俺の子分を紹介するか。

 欠陥工事なら俺に任せろの左官職人、ペールにカール。

 こいつ等はセメントをケチるから石が固着せずにグラグラしてやがる、だから橋の欄干に寄りかかろうものなら河にジャックだ。

 

 道具のかっぱらいは俺に任せろの下っ端雑用、ラチェットにライバーだ。

 こいつ等、道具の名前はいつまでも憶えねえが、換金率のたけえ道具をどのチームが持っているかは完全に把握してやがる。パクリ方もすげえ、一人が大声を出した隙にぱくるんだ、勿論成功率は悪い。

 まあこいつらのお蔭で悪名が増して、皆山賊になるしかなくなったんだが。

 

 団内で初めてカップル誕生、アジトで連結馬車は止めてよねのガッドにバッドだ。

 こいつ等にはビビった。風を遮る為に密着させてたんだが、そのうちに何もねえのに密着するようになりやがった。俺は団内の色恋沙汰には厳しい男だが、こいつ等は温かく見守ろうと思う。

 ただ、アジトで連結馬車ごっこはマジで止めてほしい、それと潤んだ瞳で見るな。

 …皆、個性豊かな愛する子分達よ。







 俺はいつものように完成したばかりの橋の上を歩く商人を襲った。

 奴は一人だった、グラグラ揺れる石畳の上を怪訝そうに歩きながら馬を引いてる。

 俺はゆっくり獲物を見定め所定の位置に着いた。


 トライアングルフォーメーションαだ。


 獲物を三方を塞いだ上で弓を射かけ、橋の欄干に追い込むのだ。

 橋の構造を熟知した俺達だからこそできる陣形だ。

 この陣形を使うようになってからは、欄干が減った。 

 俺は信奉する悪徳の神リーファイスに祈りを捧げた。

 仕事の成功と客が河に落ちませんようにってなあ。


「命が惜しけりゃ、金も命も置いてきな!」


 いつもの口上、いつもの陣形、いつもの獲物。

 俺は笑みすら浮かべ奴に迫った。

 これは俺の美学だ。みんなの希望を背負った山賊行為。今まで、ここまでの期待を籠められた山賊はいただろうか、否、それは無い!

 先に行く者なく後に続く者なし、孤独な道を歩き続け、この道は一人、ただ一人の山賊、それが俺だ!

 俺はいつものように矢を引き絞り、いつものように子分に合図を送る。

 そうするといつものように飛び出した子分たちが獲物を追い詰める、俺はいつものように子分の背後から矢を射ると獲物がビビ―――ビビらない?


「久しぶりだね賊君、ああ、会いたかったよ、僕の剣の錆になってくれるかい」







 河に落ちた。

 奴は子分達を飛び越えようと、三角とびの要領で橋の欄干に足を乗せてしまったんだ。

 それで欠陥工事が火を噴いた。

 奴は欄干の石材と共に河にジャックだ。

 火が噴いて水に落ちるとはこれ如何に?

 …しらけた子分達は奴の馬を引いて退散した。

 奴は溺れかけながら必死に声を上げた。


「ッ逃げるッゴボ、賊君!いつまでもッゴボゴボ、逃げ続けれるとッゴボ、思うなよ!」


 俺は見下ろすと奴と目が合った。

 俺の吊り上がった口角が目に入ったのか、奴は必死の形相で俺を睨みつける。

 

「じゃあな」


 背後から水面を叩く音が消えると、辺りは静かになった。

ありがとうございました

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