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俺の神はホーリョス

 おう俺は山賊だ。

 今は街から離れた農村を根城にしてる。

 この村にある畑の脇にある道ってのが美味い。

 この畦道(あぜみち)を通るのは無力な農民やガキぐれいだ。

 こいつ等は牛や馬、鳥なんかを引き連れていやがるからな。

 それがうめえ。


 嘘だ、奴等を襲う事なんかできねえ。

 奴等はいや、農民は、俺の先生だからだ。


 俺は街で税を収めた。

 そのお蔭か壁内の街にも入る事ができた。

 嬉しくも悲しくもあった。

 商売をすればするほど金をとられたからだ。

 その上、スラムでは全住民に近い奴らが首飾りをしていやがった。

 さすがの俺もあんなもんを二度売りつける程の恥知らずじゃあねえ。まあ、そこまでいけばリーファイス様が逆に認めるかもしれねえが、俺にはできなかった。 

 困った俺は壁内で首飾りを売ろうとしたが、さすがに相手にされなかった。

 そこで山賊の本領を発揮したが、山賊行為はできなかった、というか捕まった。


 あの時は情けなかった、すげえ情けなかった。


 だってくず野菜を売りつけようとして失敗して、その報復の山賊に失敗して捕まるなんて……。

 俺は牢屋を湿らせた。

 牢屋の奴らは俺に同情した。

 そしたらさらに情けない事に、俺の身元引受人がガキなんだ。

 瞳を潤ませた俺がガキによって牢屋から出された。

 衛士は笑っていやがった、あいつはいつか殺す。

 

 それから大変だった。

 商売のタネがねえ、なのにガキは増えた。

 娼館から逃げたシーナにポリー、家を追い出されたカール、農村から出て来たピルン、路上生活者のローラとベイブ。

 皆ガキだ。

 俺が積極的に子分を探したわけじゃねえ、…レレが野菜くずと一緒に拾ってきやがるんだ。

 さすがに切れそうになったが我慢した。

 ガキを怒鳴りつけるのはしのびねえし、子分を増やしたのは一応お手柄だからな。 


 俺はマジで真剣に考えた。

 一生分の頭を使って考えて、神にすがった。

 そして、神に祈っている時に気付いたコレはイケると。

 悪党の神リーファイスは普通の奴は祈らねえしまず信仰されねえ。

 つまり街の中に協会はないし、司祭もいねえってことだ。

 それならリーファイス様のトークンを作って売ったとしても文句を言う奴はいねえってことだ。

 イケる。

 俺はさっそくリーファイス様のトークンを作らせた。

 もちろん野菜クズでだ。

 作ったトークンはさっそくスラムを席巻した。

 なぜなら、俺はトークンを買わなかった奴を襲ったからだ。

 勿論奴らは驚いてた。

 なんで同じ野菜クズを買わされるんだと怒る奴もいた。

 だが俺は言ってやった、前のはアクセサリー、今回のはリーファイス様のお守りだと。 

 勿論奴等は納得しなかった、だが俺は納得できた。

 つまり、スラム―――衛士の来ない場所―――での山賊行為で物理的に納得させてやった。

 売り上げは爆発的だった。

 野菜くずが足りねえぐれえだ。

 俺達は絶頂だった。

 

 そしてリーファイス様を信仰する盗賊が大激怒した。

 同じスラムに根城があったらしい。

 最初の首飾りは黙認されたが、さすがに野菜クズでのトークンは不敬すぎるらしい。

 っていうか他人がやっていたら俺もキレる自信がある。

 そんなわけで街から逃げる様に農村に移った。

 元村人のピルンの案内のお蔭で俺達は次の根城をなんとか手に入れた、アイツを拾ったレレ様様だな。


 金は少しできた。

 ガキだが人もいる。

 俺は考えた、次の仕事をだ。

 さすがにこの状態で山賊はできねえ。

 俺が悩んでいるとシーナが呟いた。

 街でチューリップが流行っていると。

 詳しく聞いてみると最近壁内の街ではチューリップという花が人気らしい。

 なんでも色んな種類の花や形があるらしく、それを見せ合うのが社交なんだとか。

 そして街では育てるのが大変らしく数が少ないと。

 俺はやることにした。

 山賊の俺が、まさか剣を置いて(くわ)を持つことになるとはな。

 主神変えようかなぁ。







 それからは苦労の連続だった。

 慣れねえ作業に痛む節々、減っていく金、増えていく子分。

 俺は先頭切って働き、ガキ共も一生懸命手伝い、先生たちにお世話になり、なんとか形になった。

 そんな俺達の汗と涙の結晶が目の前の畑だ。

 俺は最高に気持ちよかったね。

 何かを作るってのは、何物にも代えがたい気持ちになるんだな。

 そして順調にチューリップは出荷されていった。

 人気もさらに上がりだしまさに最高の滑り出しを切った。

 俺はこのままココで子分たちと生活するのも悪くねえと思い始めてきた。

 リーファイス様には、最近全然祈ってねえ。

 農業神のホーリョス様にばっかり祈ってやがる。

 そんな毎日だ。







 俺はいつものように畦道(あぜみち)を歩く獲物に尋ねた。

 奴は一人だった、畦道を意気揚々と歩きながら馬を引いている。

 俺はゆっくり獲物を見定め所定の位置に着いた。


 ダブルフォーメーション(サービス)だ。


 獲物の前方を塞いだ上で俺の後ろから子分を突撃させ、お茶と御茶うけを差し出すのだ。

 これは、普段お世話になっている先生に対してのオモテナシの心が成せる陣形だ。

 この陣形を使うようになってからは、教えてくれる内容が充実した。 

 俺は信奉する農業の神ホーリョスに祈りを捧げた。

 豊穣(ほうじょう)と子分の成長をってなあ。


「お茶が欲しけりゃ、知恵と知識を置いてきな!」


 いつもの口上、いつもの陣形、いつもの獲物。

 俺は笑みすら浮かべ奴に迫った。

 これは俺の美学だ。この素晴らしい世界がいつまでも続けと祈り続ける俺の清い心の誓い。

 俺はいつものように腕を払うと愛用のシミタ―(鍬)構え、いつものように子分に合図を送る。

 そうするといつものように獲物の眼前にお茶が差し出された。

 いつものように獲物が優しく微笑――――――歪んだ笑顔?


「妙な噂を聞いたけど君だったのかい賊君、僕の剣の錆になってくれるかい」







 奴は強かった。

 育てていたチューリップが滅茶苦茶になりやがった。

 白く小さくてお淑やかなスピーシーズ、二色の配色が美しいタルダ、名前に負けない高貴さを持つフォステリアナ、オレンジ色の皇帝オレンジエンペラー。

 皆、皆散らされちまった。

 俺は怒りに我を忘れそうになりがら、背後の子分に一言告げるとアジトに逃がし俺も時間を稼いでから逃げた。

 奴は状況―――農業をしていた善良の一般人に斬りかかった―――を理解したのか、少し焦りながらも俺に叫んだ。


「僕は悪くない!君が悪いんだ!いつまでも逃げ続けられると思うなよ!」


 俺は後ろをチラッと横目で確認しながら逃走し、気付いた。

 奴がテンパっていることに。

 そして理解した。

 あいつも人間だったか、と。


「好きにしやがれ」


 俺は走った。

ありがとうございました

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