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俺の初めてのお使い

 おう俺は山賊だ。

 今は壁外の街を根城にしてる。

 この街にはスラムがあって、そのスラムの複雑怪奇な道がうめえ。

 ここを通るのは、盗賊か路上生活者くれえだからだ。

 あいつ等は金は持ってなくても飯を持っている。

 それがうめえ。


 マジだ。

 ここで仕事をするようになってからは毎日何か食えてる、餓えないんだ。

 飯ってのは本当に大切な事なんだな。俺は忘れてたよ。

 ここに来るまでも苦労した。

 また手配が復活してたからだ。まあ今回は逆に良かった、前回よりかなり範囲が狭かったし、客がむこうからやってくるからそのお蔭で路銀に困ることなかった。

 俺も逆境には強くなったよなあ。

 そういえばこの街に来る途中で噂を聞いた、最近羽振りの良い山賊団があるって話しだ。

 なんとか親衛賊団とかって名前らしい、下手くそなネーミングセンスしやがって。俺ならもっと渋い名前を付けるけどな。

 あいつらは何してんだろうな。


 まあいい、あれから俺の厳選された子分が増えた。

 孤児のラーシュにスタン、ストリートチルドレンのレレにミラ、元丁稚のクク。

 ラーシュにスタンは孤児院から逃げ出した所を保護した。

 レレにミラは路地裏で倒れていた所を救った。

 ククはスラムに迷い込んで盗賊に浚われそうな所を助けた。

 どうだ全員ガキなんだぜスゲエだろ?

 俺は泣きそうだ。


 山賊孤児院長に就任だぜ。

 仲間を厳選しすぎた、まだ懸賞金に怯えがあったのか気づいたらガキしか拾ってなかった。

 こんなんじゃあ俺の山賊魂が廃れちまうぜ。

 それになこいつらよく食うんだ、自分の立場を弁えずに俺の分まで食いやがる、まったく憎らしいガキ共だぜ。

 まあそれでもちっとは働いてくれるし、数は力だからな。

 ラーシュとククはこん中でも年長だ、こいつ等は理解してるのか俺の事をちゃんと親分と呼びやがる、なかなか見どころのあるガキ共だ。

 スタンは泣き虫で駄目だ、こいつはラーシュのケツにひよこみてえにくっ付いてやがる。まだまだだな。

 ミラはガキだがしっかりしてやがる、料理なんかしたことないだろうに、なかなかどうして美味い飯をつくる。こいつは山賊団の料理長だな。


 そして一番手強いのがレレだ。こいつは路上で拾ったクソみてえな材料を使ってちゃちいアクセサリーを作りやがる。どうやらそれを俺に売り歩けと言いたいらしい。

 一度断った事があるが、その時はことは思い出したくねえ。

 だから俺はこのアクセサリーを売り歩くことにした、山賊の俺が!

 だが狂気過ぎる一品だから当然誰も買わねえ、まあ俺も欲しくねえ。

 食えない野菜くずを乾燥させて穴をあけ、雑草をよって作った紐を通して完成だ。

 誰が買うんだこんなもん。

 だから俺はこれを売りつけて、買わない奴を獲物にすることにした。

 まあそんなわけで今このスラムには密かなブームがある。皆、野菜くずを首からぶら下げているのだ。

 客が減ってく!?







 俺はいつものように路地裏を歩く町民に声を掛けた。

 奴は一人だった、きたねえ道を避けながら歩いてやがる。

 俺はゆっくり獲物を見定め所定の位置に着いた。


 トリプルフォーメーションだ。


 獲物の前面を塞いだ上で、三段の波状攻撃を掛けるのだ。

 クソみてえな商品を売り込む為に考え抜いた、俺の悲哀の陣形だ。

 この陣形を使うようになってからは、購買率が八割を超えた。 

 俺は信奉する悪徳の神リーファイスに懺悔(ざんげ)した。

 あなたの教えに背く私をお許し下さいってなあ。


「命が惜しけりゃ、金と首飾りが交換だ!」


 いつもの口上、いつもの陣形、いつもの獲物。

 俺は涙すら浮かべ奴に迫った。

 これは俺の美学だ、さっさと終われ。

 俺はいつものように鞘を払うと愛用のシミタ―構え、いつものように子分に合図を送る。

 そうするといつものように俺の背後から子分たちが飛び出し、いつものように獲物に見えやすいように木の板に並べた首飾りを見せる。

 すると獲物は財布を出――――――紙切れを出した?


「商売をするなら、税金はしっかり納めてもらわなくちゃあ困るな」


 奴は強かった。

 ラーシュと俺はやられちまった。

 勉強をしたことのねえラーシュに、頭の悪い山賊の俺。

 皆、皆死んじまっ――――――

 ククはどうした?

 茹で上がった俺の眼前でククが、獲物と対峙していた。

 さすが元商家の丁稚。


「ほうっ、逃げないのには感心だ。まあ税から逃れることはできないがね」


 理解できない俺をしりめにしっかり話をまとめたクク。

 俺はククの足が震えている事に気付いた。

 そして理解した。

 こいつは初めての交渉だったのだと。

ありがとうございました

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