俺の真の始まり
俺は山賊だ。
小高い山を根城にしてる。
山には道があってな、この山道ってのが美味い。
あまりにも険しい峠道なもんで普通の奴は通らねえ。
この道を利用するのは後ろ暗い事のある奴か、切羽詰まった奴だけだ。
そんな奴らは金になる情報を知ってたり、ご禁制の品を運んでいたりするからな。
それがうめえ。
真面目に働いてる他所の賊共が馬鹿に見えちまうぐれえだ。
俺達はたまに仕事をするだけで食っていけるからな。
たまに仕事して、巡回してる騎士団の連中に賄賂渡して、食って寝て、たまに仕事するだけの最高の職場だ。
この職場を続ける為に考えている事もある。
それはな片っ端から襲うような事はしねえんだ、通る奴がまったくいないってのはさすがに騎士団も世間を誤魔化しきれねえ。だからどうするかってえと、麓の村から合図をもらうんだ。
麓の村とは約定が結んであって、村で旅人が金を払えば無事に通してやることにしてる。
だが、わざわざ旅人に村人が約定のことを教えたりはしねえ。
知っている奴だけがここを道として使えるって寸法だ。
よく考えてあるだろ?
騎士団の連中に教わったんだ。
だから何も問題はなかった、俺達は生きていけるし、村は裕福になるし、騎士団は金と情報が得れる。
皆納得していた、俺達は仲間だった。
なのにな。
俺はいつものように山道の約定から外れた旅人を襲った。
そいつは行商だった、馬に積み荷を乗せ険しい峠道を登っていた。
俺はゆっくりと獲物を見定めながら、所定の位置についた。
ダブルフォーメーションだ。
獲物の進路と退路を塞ぎ恐怖に陥れるのだ。
この陣形を使用する様になってから、獲物に逃げられる事が無くなった。
学がねえ俺が必死こいて考えた自慢の陣形だ。
俺は信奉する悪徳の神、リーファイスに祈った。
仕事の成功と皆の無事をな。
「命が惜しけりゃ、金も命も置いてきな!」
いつもの口上、いつもの陣形、いつもの獲物。
俺は笑みすら浮かべ奴に迫った。
これは美学だ。噂に聞く有名な騎士ってのはジンクスを大事にすると聞きやがる、そうすることで結果がついてくるってな。いつもと同じにするってのはとても大切な事だ。
俺はいつものように鞘を払うと愛用のシミタ―構え、いつものように子分に合図を送る。
そうするといつものように獲物の後ろから子分どもが怒鳴り声をあげる。
いつものように獲物がビビッ――――――ビビらねえ?
「悪いね賊共、僕の剣の錆になってくれるかい」
奴は強かった。
子分たちは皆やられちまった。
俺が手塩に掛けて育てたフレッドにビンス、新人のガイ、頭の緩いホフマン。
皆、皆死んじまった。
怒った俺は、最期の奮闘で奴とは相打ちになるようなことはせずにさっさとトンズラした。
奴も怒りに震え叫び声を上げていた。
「逃げるな賊が!騎士団も貴様を逃す気はないぞ!!」
俺は理解した。
このくそ下らねえ事態を引き起こした原因を。
あいつ等が俺を裏切りやがった。
「ふざけんじゃねえ、いつか絶対復讐してやるからな!!」
俺は走った。
ありがとうございました。