最後のひな祭り
ええと、たしかこの辺にしまったはず・・あった!
私は、祖母からもらった古い雛人形の箱を取り出した。
箱は、埃を茶色く変色し、中のお内裏様は、装飾品がいろいろ欠けてた。
数年ぶりに雛人形を取り出したキッカケは、桃の花枝。
バイト先の店長が、”お雛様の横に飾るといいよ明日はひな祭りだし”と
小さい花枝を100円でわけてくれたことだ。
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私・星野美晴、母と二人暮らしだたけど、2年前、中3の時に母は、再婚した。
相手は、弁護士さんで、とても優しい人。
けっしてハンサムではないけれど、お腹もかなりでてるけど、バーコードだけど、
家族3人、楽しく仲良くくらしてきた。
去年、母は赤ちゃんを産んだ。私に妹ができた。
そのころから、私は、母と義父との間は、すこしだけ雰囲気が変わってきた。
家庭の話題が、妹の晴菜中心になったからだろうか。
きわめつけは雛人形。
父はまだ赤ちゃんの晴菜に、7段飾りの豪華な雛人形を買い、ご機嫌だ。
母も、子供のようにウキウキ 飾りつけをしてる。
そんな姿を見て、”ああやっぱり”と納得する自分がいる。
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私の雛人形は、可哀想なぐらいボロボロだった。
祖母から貰ったものなので、全体が古い。でも、顔は美晴のものより数倍美人だ。
衣装の形を整え、ほころびをなおし、髪の毛は糊でちょこっとつけた。
ただ、女雛の冠と扇、男雛の勺 は、なかった。
勺は、厚紙に折り紙を張り付けて作ってみた。
扇は、友達からもらった小さな千代紙を、蛇腹におった。
千代紙は、ピンクに小さな花模様。ただ、結局、扇じゃなくて、小さいハリセン。
笑える。ビーズの指輪を、冠がわりに、お妃の頭ののせた
横に桃の花枝を置き、甘酒もおいた。
これが、私のひな祭り。
来年、高校を卒業したら家を出ようかと思う。
もともと、看護師になるつもりだったけど、
病院で働きながら学校に行って免許をとる事にしようと決めた。
両親には私の進路の事は、話してあるけど、折り悪く、ちょうど美晴が熱を出して、
二人とも、そっちにかかりきりだった。
私の進路の事は、忘れたかもしれない。
こんなんで、家を出たら、もう私に家族はなくなるかも。
天涯孤独になる?それって恐ろしい。
でも、どうにも家に居場所がないきがする。
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その夜、夜中妙にうるさかった。
カッポン、カッポン ピュウーヒラヒラ トテトテトテ
なんだろう、楽器の音かな
「うるさいなあ、もう」
と起き上がると、そこは、広い板の間だった。
ここはどこ?
「これは、ようこそいらっしゃいまし。5人囃子も女房も下がって
しまい、寂しいですけど」
にっこりほほ笑んだのは、お雛様のような女性。
これって、コスプレ?ひそかに何かのイベントとか?
「今日、お話しする事が出来てとても嬉しいですわ。
素敵な扇までいただいて」
よく見ると、ピンクのハリセンを持ってる。冠はビーズの輪だった・・
もしかして、私の雛人形?
「ごめんなさい、あのいろいろあって、冠とか扇とかそのほか、いろいろ
なくしちゃって。とりあえず作ったんだけど、ヘンですみません」
「ほほほ、いいのですよ、桃の花の扇は美しい、それにこういう事もできますし」
と、いきなり、男雛(お内裏様)の頭を叩いた。
ハリセンの本来の使い方だ・・・
「いた、何をするのですか」
「あなたも、主様に何かお話しなさい。今日で最後なのだから」
主様って、私の事?
「ええと、そのですね。私たちは、今年で役目を終え帰る事なります」
「え、帰る?役目?」
「私たちは、その家の子の厄を引き受けるのです。もうだいぶ働きましたから。」
そうそう、祖母からもらったものだから、もう相当古いんだよね
もう死んでしまったけど、祖母からお雛様をもらった時は、確かお祝いをしたのを、
かすかに覚えてる。
「このまま消える運命と思ってましたが、思いがけず桃の花と酒のおかげで、帰る
事ができます。」
桃の花って、どこ?って横をみると、庭に花盛りの桃の木があった。
いや、うち、こんな庭ないけどなぜ・・
春の風にのって、この板の間の部屋に 花びらが舞った。
花びらのなかに、花が一輪、混じっていて見るまに大きくなっていった。
二人は、ちょこんとそこに乗ると、フっと浮き上がった。
「さらばでございます。”子供の厄とり”の役目はおわりもうした。」
「桃の花をありがとうございました。それと主様、あまり考えこまずに、
今は自分の考えた道をお進みください。
いづれ、理解できる時もきましょうぞ」
風が、二人をのせた桃の花を空に吹き上げた。
「ハックション」
という自分の大きな声で、目が覚めた。
なんだ、少し窓があいてるじゃん。
それにしても 不思議な夢。
”理解できる時がくる”か。そう もっとユックリかまえよう。
それに、もう子供じゃないんだ。大人初級ってとこか
お酒は、本当は白酒で甘酒じゃないけど。
お雛様の所を見ると、甘酒は空に、桃の花がすべて散っていた。