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お助けキャラは変態ストーカー!?  作者: 雪音鈴
3章 呪縛で歪む愛故に
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XX 45 XX 貴方に憧れる理由(後編)


~引き続きフラウ視点~


 トレーニングルームから休憩室まで跳躍したのだろう彼女ルチアーノは、細い手すりの上に危なげなく、凛と立っていた。鞭を軽くさばき、自身の腰のホルダーへと納めた彼女は、黒い笑みをより一層深くする。


「どーもー。いやあ、私に対する高評価、すっっっっごく嬉しかったです。でも――」


 スッと細められた眼の瞳孔が開く。それだけで、先程大声を上げた男は喉を引きつらせた。男の着崩した戦闘服たいそうぎから見えるジャラジャラした金のチェーンや、うなじにしっかりと刻まれている翼のタトゥーは、本当にただのお飾りらしい。


「さっきの攻撃スピードについてこれない程度の奴が、何言ってんの?」


「はああぁ!? そ、それはてめーがいきなりッ――」


 男は半分腰を抜かしながらも唾を吐き出しながら吠えるが、彼女は冷たく言い放つ。


「いきなりでも、危機回避できなかった時点で論外でしょ。私が当てるつもりで攻撃してたら、アンタ即死だったろうし。それに、フラウならあの程度、軽く反応できる」


「た、たとえあの女にできたとしても、あれ以上アイツは伸びないだろうが!! お、俺様の種族が何だか知ってんのか!? 俺様はこれからいくらでも伸びしろある、う、産まれながらのエリートなんだよおおおおぉ!!!」


「ハッ――流れる血が何なわけ? 最初から能力があるから何なわけ? それはただのアクセサリーでしょ。それがどんなに豪華でも、身につけてる奴がダメなら宝の持ち腐れ。自分が持っているモノを最大限に活かしてどう輝けるか、どう磨いて加工して自分に合った形にしていくか、それも考えられず貰ったままのアクセサリーにはしゃいでいるだけの奴は、ただの阿呆よ」


「阿呆!? この俺様を阿呆だと!?」


「ええ、阿呆よ」


 噛みつきそうなほどの勢いで怒鳴る男を見下ろし、彼女は冷たい殺気を放った。唐突に変化した鋭い空気に、男はとうとう膝を折った。その様子を鼻で笑い、彼女が手すりから軽やかに降りる。


 フワリと舞うつややかな黒髪、強い意志を宿した鮮やかなマゼンタ色の瞳、彼女の全てに目を奪われ、心が震えた。


「フラウよりも弱いアンタに! 自分の弱さと向き合おうともせず、他人を馬鹿にすることしかできないアンタに!! 一生懸命に努力してるフラウのことを語る資格なんかない!!! 伸びしろがない? そんなのアンタが勝手に決めつけたもんでしょうが!! アンタの中のちっっっちゃな尺度モノサシでフラウの全てを決めつけるな!!!」


 彼女の揺るがない言葉に、視界が潤む。


(ああ、もう本当に貴方は……あの頃から変わらず、なんて真っ直ぐで気高い――)


 完全に腰を抜かしていた男が、拳を握りしめ、彼女を睨みつける。


「――るさい、うるさいうるさいうるさい!!!」


 次の瞬間、男の学生証の腕輪が黒く光り、ウェーブしている茜色の前髪が大きく揺れる。ギラギラとした瞳が真っ赤に染まり初め、むくむくと大きくなっていく男の体に合わせ、戦闘服たいそうぎも大きくなっていく。体には黒炎が纏わり付いているが、魔力を編み込んでいる服のおかげで燃える心配はないようだ。


 全生徒の情報を知っているのはリコリスだが、私でもこの男の顔と種族だけは覚えている。


(それほどまでに要注意種族なのに……はあ、彼女ルチアーノは本当に面倒事に突っ走っていく天才ですの)


 男が【黒炎の不死鳥フェニックス】本来の姿に戻ろうとしている兆候に、今まで姿を隠していたもう一人の男がようやく姿を現した。


「あなたの負けです。さあ、帰りますよ」


 黒い革手袋が特徴的な男は、癇癪を起こす不死鳥男の顔面を片手で掴み、ため息をついてルチアーノへと振り返る。癇癪男の魔力の波動を力任せに押さえているせいか、彼の白銀色の髪が幻想的に揺れている。


「見苦しいところを見せてしまってすみませんでした」


 尚もルチアーノへと襲いかかろうとする癇癪男を引きずる彼もまた、要注意種族――天馬ペガサス一角獣ユニコーンの混血だ。ちなみに、半分ではあるが清らかな乙女を好む潔癖なユニコーンの血が流れている彼には、さっき話に上がっていた一妻多夫への抵抗が強いのだろう。その話の間中、少しばかり声に嫌悪感が含まれていた。


 彼の空虚な真珠色の瞳が、ルチアーノの輝くマゼンタ色の瞳をジッと見つめる。


「――――あなたの考えに僕も賛成です。他人の尺度モノサシで勝手に決めつけられるのは……虫唾が走りますからね」


 口を歪めて笑った彼の瞳が一瞬だけギラリと光り、ザワリと肌が粟立つ。


(すごい威圧感プレッシャーッ――)


 空間全体が重くなり、自然と冷や汗が流れ、息苦しくなる。 


「賛同してくれてありがとう」


 威圧を受けてもニコリと笑う彼女としばし見つめ合った後、男は魔力を織り交ぜた威圧感プレッシャーを消し去り、その場を去って行った。


「あっちの阿呆男に言ってやったら良かったのに、自分よりも弱い奴の嫁だなんてこっちから願い下げだって」


 男の背中を見つめながら、彼女が呟く。私へ向けられた突然の言葉に、反応ができなかった。


「フラウ――私はね、自分の弱さに立ち向かえる強さを持ってるフラウのこと、本当にすごいって思ってる。だから、もっと自信を持ってよ。フラウは最高にカッコイイんだから」


「ッ――」


 彼女の言葉にカッとなり、感情のまま一気に跳躍し、彼女の背に槍を突き刺そうと繰り出すが、鞭を軽く操った彼女に止められる。


「クッ――」


 負けじと槍で足をなぎ払おうとしたが、まるでダンスのステップを踏むかのように、軽やかにかわされる。


(やっぱり、届かない……けどッ――)


 足に魔力を込め、床のブロックが砕けるほどの重い一撃を槍に乗せて繰り出すが、身体を反らせてかわされる。彼女からの蹴りをギリギリでかわし、体制が不安定になった彼女へと、魔力を全て注ぎ込んだ渾身の一撃を放つ。


 彼女の喉元目掛けて放った一撃は、やはり彼女の鞭に止められてしまった。しかし、魔力を込めたまま、私はキッと彼女を睨み付けた。


わたくし、諦めだけは心底悪いんですの」


 私の感情に呼応するかのように、槍を包む桃色の魔力が耀き、彼女の黒髪を揺らす。


(たとえ、今はかすり傷1つ付けられなくても――)


「覚悟なさい――ですの」


「うん、楽しみにしてる」


 ニヤリと笑った彼女も、鞭に込める魔力を高める。


(ルチアーノ、貴方にだけは、絶っっ対にかっこ悪いところなんて見せたくないんですの。貴方は私の憧れで、私の目標だから――)


 彼女のマゼンタ色の魔力と私の魔力が反応し、互いの武器がその威圧感プレッシャーにカタカタと鳴る中、私も彼女に向けてニヤリと笑ってみせた。


(だから、たとえ虚勢を張ってでも、貴方の前でだけは、カッコイイ存在でありたい。限界なんて私が勝手に定めたもの――そんな基準なんかあってないようなもの……私が私自身の強さを認めてあげないでどうするんですの? 自分の弱さは知っていますの。でも、強さも知っていなければ、それこそ力を伸ばすことなんてできないっっ!! 弱さを補い、強さを伸ばす――背を丸めている暇があるのなら、彼女のように自身を見つめ直して前を向けですの!!!)


 決意を新たにし、私は改めて彼女の芯の通った真っ直ぐな瞳を受け止めた。もう、この瞳を真っ正面から受け止められるだけの資格がないなんてことは思わなかった――


~フラウ視点END~


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