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お助けキャラは変態ストーカー!?  作者: 雪音鈴
3章 呪縛で歪む愛故に
48/55

XX 43 XX 貴方を嫌う理由(後編)


~引き続きリコリス視点~


 彼女は、噛みつくような私の言葉にゆっくりと一度瞬きをし、真剣な表情で私を見つめた。


「分からないよ」


「ハッ――でしょうね! 貴方は――」


「だって、リコリスは何も主張しようとしないじゃん」


「は――?」


「最初から諦めて、声すら出さないじゃん。誰かに気付いてほしい? なら、気付いてもらえるまで声を張り上げなよ。私はここにいるんだって、認めさせてみなよ」


 クッキーをかみ砕き、真っ直ぐなマゼンタ色の瞳を向けてくる彼女から、思わず目を逸らしてしまう。私は……彼女のこの揺らぎのない瞳が苦手だ。


「――――そんなみにくい行為をするくらいなら、消えた方がマシ…………ですね」


「そうやって、最初から何もかも遮断しないでよ。自分の存在を主張することがみにくいこと、だって――?」


 私が発した虫の羽音程度の小さな言葉にも、彼女は反応する。


「自分の存在を押し殺して、誰も私のことなんて分かってくれないんだって、気付いてくれないんだっていじけてる方が私はもっとみにくくて、惨めだと思うけどね」


「ッ――――いじけてるだけ、ですって? ハッ――それはまた、笑える冗談ですね!!!」


 私は早口に捲し立て、乱暴に席を立った。


「リコリス。私は、あなたの主張を醜いだなんて思わないよ。声を張り上げるのが無理なら、さっきみたいに消えそうな音でも良い。あなたの本心こえを聞かせてよ……」


(消えそうな音でも良い――ですか……)


 きっと、彼女の性能の良い耳は、その小さな雑音ですらも拾ってくれるだろう。


「貴方は本っっっ当に馬鹿なんですね!!!」


 本日、何度目になるか分からない馬鹿認定発言を真っ正面から受け止めた彼女は、ニッコリと笑った。


「うん、私、馬鹿だから、言ってもらわないと分からないことが多いんだ――改めて、よろしくね?」


「ッ――――~~~」


 彼女に乱されまくりのペースに、私は少しでも抵抗をしたくて、彼女が広げていたクッキーの包みを奪うように取った。


「ふぇ?」


「適度な糖分は必要ですが――過剰摂取は見逃せませんね」


「え――?」


「これは没収させていただきますね」


「あ――」


 呆然とする彼女を鼻で笑う。


 彼女を困らせることができて、少しだけ胸がスカッとする。今まで、こんなに心が乱れたことはない。だからこそ……彼女の心も同じように乱してやりたいと思ってしまう。


(ふん、いいざまですね)


「リコリスッ――!」


 だから、完全に不意討ちだった。彼女があんなにキラキラと――


「もらってくれてありがとう!!!」


 屈託ない笑顔を私に向けるなんて……


 私は、彼女から逃げるように背を向けて、歩き出した。


「もらうのではなく、これは没収なんですからね」


 やはり、彼女は嫌いだ――。


 無駄に熱くなる自身の耳を見られないように、私は足早に自室へと戻った。


 自室の扉を開けると、ふくれっ面をしてぬいぐるみを抱きしめているエンゼが、フラウに頭を撫でられていた。フラウはお風呂上がりらしく、いつものフワフワの髪が濡れてストレートに変わっていた。


 エンゼがふくれっ面の理由は容易に思い至った。

 最近、ルチアーノ=セレアンスロゥプの部屋の施錠が強固になったせいで、部屋に忍び込めなくなったからだろう。そもそも、忍び込むのはフェル様の指示ではなく、エンゼの独断で、完全に変態行為なのだが……。


(ルチアーノ=セレアンスロゥプ……本当に厄介ですね……)


 私にはこれしかないのに……


 誰も気付いてくれない、誰も気にしてなんてくれない、ちっぽけな私には、これしかないはずなのに……


 『これがある』――なんて……

 『あなたの本心こえを聞かせて』――なんて……


「ああ、リコリス、今日は一段と早いお帰りで――って、どうしたんですの!?」


「リコリス!? ちょ、ちょっと、誰にやられたのですわ!?」


 戸口でぼうっとしていた私に、大慌ての二人が近付いてくる。


「え――?」


「リコリス! と、ととと特別に私特性のフェル様ぬいぐるみを貸してあげますわ!! だから、だから――泣かないでほしいのですわ!!!」


「泣く……?」


 エンゼが抱えていたフェル様ぬいぐるみを無理矢理だっこさせられ、私が抱えていた勉強道具を没収される。片手でぬいぐるみとクッキーを抱き、頬に手を当て、私は初めて自分が泣いていることに気がついた。


 クッキーは……何故か、離す気になれなかった…………。


 …………決して、食い意地が張っているわけではない。


「な、んで――?」


「リコリス、誰にやられたのか言って下さいですの。そんなヤツ、私が潰してきてさしあげますの!」


 ニコニコ黒い笑みを纏うフラウに、首を横に振る。


「大丈夫――大丈夫なので、止めて下さいね?」


 フラウが強いのは分かっているが、潰しに行こうとしている相手が悪い。


(正直、あの怪力馬鹿は一筋縄じゃいかないですからね)


 それに、私は彼女に危害を加えたいとは思っていない……。むしろ――


「全然大丈夫なんかじゃないですわ!」


「ええ、リコリス、どうして泣いているのか話してほしいですの!」


 一瞬よぎった考えを振り払い、考えをまとめるように思ったことをそのまま口から紡ぐ。


「私は――貴方達がいてくれるから、一人ではない……。分かってくれるから、気付いてくれるから、私がここにいるってことを――だから……」


 他には何もいらないと――

 他には何も望まないと――

 そう思っていたのに……


「リコリス……ええ、私達は一人ではないですわ」


「たとえ、誰も気付いてくれない華の精霊でも――私達は、ずっと一緒ですの」


「誰が無視しても、私達が貴方の存在を肯定しますわ」


 そして、私も……エンゼとフラウがここにいることを肯定する。


 それで完結していた。

 これが全てだった。


 それなのに……


 ねぇ、やっぱり私は――


(貴方のことなんて大嫌いですね。ルチアーノ=セレアンスロゥプ……)


 こんな私になんて気付かなくて良い。

 醜くあがく姿を『すごい』なんて、キラキラした目で見つめないでほしい。

 貴方の輝きに――何かを期待してしまいそうで、何かを勘違いしてしまいそうで、怖いから……。


 私はエンゼとフラウにギュウギュウと抱きしめられながら、クッキーの袋を隠すように抱きしめた。


 私達はこれでいいんだ。

 私達はフェル様の可憐な華――  

 フェル様のためだけに咲き、フェル様のためだけに散りゆく儚い華……

 

 多くを望んでしまえば、その時が来た時にこの命を美しく散らせない――

 だから、誰かに気付いてもらいたいなんて思ってはいけない。

 私がここにいたと――忘れずにいてくれる存在がほしいなんて思ってはいけない。


 その先まで、願ってしまうから……

 未来を望んでしまうから――


 涙が――――後から後から湧き出てきて止まらない。


 毒華の精霊の涙には少量の毒素が含まれており、他の種族よりも泣いた後の被害が大きいため、早く涙を引っ込めたいのだが、先程から際限なく溢れてきて、止め方が分からない。


 まあ、泣いた後の被害が大きいとは言っても、自身の毒への耐性もあるため、ほんの少し目の周りが腫れる程度ではあると思うのだけれど……。【思う】というのは、エンゼが大泣きした後の状態しか見たことがないからだ。そう、今まで、私は涙を流すほど感情を揺らしたことなんてなかった。


(精霊以外の誰かと、それほどまで関わってこなかったのも原因の一つですかね……。ああ、明日の朝、目の周りが腫れていたら貴方のせいですからね――ルチアーノ=セレアンスロゥプ!!)


~リコリス視点END~


2018/05/06 大幅修正


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