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お助けキャラは変態ストーカー!?  作者: 雪音鈴
3章 呪縛で歪む愛故に
38/55

XX 33 XX 何用でしょうか精霊王様?


 私の憩いの時間である伝承学の授業……今日もその時間は憩いの時間になるはずだった。なのに――


(どうしてこうなった?)


 自身の左横に神経を巡らせると、木漏れ日を浴びて光る草木のように綺麗な緑色のストレートショートヘアが机の上に乗っているのが分かる。


 あ、もちろん、生首とか、ヅラとかではない。むしろ、ヅラの方がまだ良かった。


 机にそのあまりにも可愛らしすぎるベビィフェイスと一見無害そうに見えるけど毒々しい色が見え隠れする薄い紫がかった瞳を伏せてはいるが、その精霊特有の尖った耳を隠しもせずにさらしている彼は正真正銘、このゲーム【キスイタ】の攻略対象の――合法ショタ(見た目年齢中1程度。まあ、私的にショタは小学生ってイメージがあるからアレなんだけど、公式でもショタになってたからそう言わせてもらう)の腹黒性悪な精霊王のフェル=ティンカー=メイヴ様です。


 はい。なぜか、私が心地よいお昼寝から目覚めると、フェル様が隣で同じように伏せてました。私は伝承学の開始時間までひと時の幸せを感じたかっただけなのに、なんで避けていた攻略対象が隣にいるのでしょうか? 私にはひと時の幸せを感じる暇もないのでしょうか? 気を抜くなという警告でしょうか!?


 ああ、とりあえず、頭の中を整理しよう。そもそも、フェル様はシェロンと同じで呪術学を専攻していたはずだ。本来のゲームではその呪術学を学んでいたがために、主人公に【服従契約】を結ばせたんだから間違えようがない。あ、もちろん、主人公が従者――下僕側だ。


(……じゃあ、今の状況はなんだ?)


 フェル様はわざわざ呪術学の授業を抜け出して、伝承学の授業を受けに来ていることになる。


(今日の伝承学って何をやるって言ってたっけ? もしかして、呪術学よりも面白そうな内容があるからこっちの授業に来た?)


 意味が分からず、少しだけ顔を左に向け、そっと隣の彼を見ると、ばっちりと彼の特徴的な薄紫色の瞳と目が合った。


「おはよう?」


 男にしては少々高めの可愛らしい声――いわゆる変声期前の男子の声で、にっこりと微笑む彼は、やはり天使のようだ。彼はいつの間にか頬杖をつき、こちらが顔を上げるのを待っていたようだ。


(やられた――ここで寝たふりをしたら、後ろで射殺さんばかりに睨んできてる彼の親衛隊に殺されかねん)


「お、おはようございます」


 私はひきつった顔で彼に挨拶を返した。その瞬間にも、後ろの席に座っている親衛隊のお姉様達からの鋭い視線が突き刺さった。


(無視してもダメ、挨拶を返してもダメ――じゃあ、私にどうしろって言うんだよ! そもそも、話しかけてきたのはあんたらの精霊王様だろうが。私は関わり合いになりたくなんかなかったんだぞ!)


 彼の親衛隊は、彼の【恩恵】にあずかろうとしている様々な種族の綺麗な女性達だ。中でも飛び抜けているのは精霊王と同じ種族の花の精霊達だ。もちろん、全員毒を持つ花の精霊達なのがまたいかにも【キスイタ】の世界観だなあと思ってしまうところだ。ちなみに、原作ではこの親衛隊【毒華三姉妹】(乙女達が勝手に呼んでいただけで本当の姉妹ではない)に殺されてしまうエンドもある……うん。絶対に回避しよう。


 そうそう、さっき言ってた【恩恵】っていうのは、精霊王の特性のことだ。精霊王は、世界の恵みを授ける能力を持っている。それは、この世界の構成元素である火、水、風、土、光がその地に住まう精霊の力によって左右されていることから可能になっている。まあ、闇属性も構成元素の1つだがそれはちょっと例外なので今は置いておこう。


 精霊王は、それらの精霊の力の源になる特殊な魔力を生成することが可能だ。そのため、精霊王と懇意の種族はその地の精霊に力を分け与えられて繁栄する。だから、どの種族もその【恩恵】を得たいがために精霊王に近づく。


 もちろん、原作ゲームの主人公も例外ではない。始まりはそんなものなのかもしれない……でも、ここの主人公はその根性で精霊王の心を溶かし、彼女もひねくれた心の精霊王に恋心を抱くようになる。まあ、【服従契約】という理不尽な鎖は付けられてしまうが……。


 ところで、皆さんお気づきだろうか? この学校では普通、どの種族か分からないようになっているはずだ。校則でも詮索するなと言われている。それなのに、本来の主人公も含め、彼女達は彼を精霊王と知って近づいている。きっと、矛盾しているように感じるだろうが、彼はそれほどまでに顔が知られている。


 そう、いわゆるVIPな存在、いや、アイドルのような存在なのだ。そして、本人もそのことを気にせず、むしろその権利を乱用している。だからこそ、こんなどす黒い野望を抱えたやからがわんさか彼の周りには集まる。彼はそんな彼らが自分の一挙一動に慌てふためくのを見て、裏で腹を抱えて笑っている……正直、あまり関わりたくない類の攻略対象なのです。


 ただ、ゲームの中だと、徐々に主人公にだけ心を開いてく彼があまりにも可愛くてデレデレになっていたのを覚えている。正直、ゲームでは甘い顔よりも罵られていた期間の方が長く、ゲス顔の方がだと分かっているからか、偽りの笑顔をはり付けた今の彼の顔を見るとうっすら寒い感じがしてしまい、身がブルリと震えた。


「ずいぶんと気持ちよさそうに寝てたね。キミの可愛らしい寝顔を見ていたら、ボクまでつられて寝ちゃったよ。ボクが隣に座ったの気付いてなかったみたいだったから、驚かせちゃったかな?」


 爽やかな笑顔に、よけい寒気を感じる。


(絶対ウソだ)


 ゲーム中で鍛え上げられた私なりの翻訳をすると、こうだ。


『ずいぶんと気持ち良さそうに寝てたじゃねーか。てめぇのアホのような間抜け面見てたら、笑いがこらえきれなくなって思わず机に伏せっちまったよ。つーか、オレが隣にきた時点でさっさと起きろよ』


 ……おおよそ、この訳で合ってるような気がする。ただ、この時点で一つ確信したことがある。彼は、何故だか分からないが、私に何か用があってきたようだ。


(最悪だ――どこで目をつけられた?)


 冷や汗が背筋を伝う。


「あ、お、おかまいなく~」


 そそくさと他の席に移動しようとすると、私の左太ももの上と右足の裏に彼が組んだ左足が差し込まれた。その器用な体勢のまま、彼はにっこりと笑った。


「改めて。隣、良いかな?」


 彼から香る華やかで優しい花の香り(よくよく考えたら前世で使っていた柔軟剤の香りに似ている……アレの元って、フローラルブーケとかいうヤツだったっけ???)とその天使のような笑顔に思わず思考がフワフワとどっかにお散歩してしまいそうになる――が、直訳はこうである。


『おい、逃げたらどうなるか分かってるよな?』


 もちろん、私は泣く泣く「はい」という返事をした。その後、すぐに白い軍服を着たハティ先生が講義室の扉を開けたため、これ以上の会話が成立しなかったことに、ものすごくホッとした。


 あと、前の椅子の背にテーブルが付いているおかげで、彼の足が私に絡んでいる様子は後ろにいる親衛隊に見えていなかったもよう。初めて講義室の形状に感謝しました! そして、制服がスカートじゃなくて軍服であることにも感謝しました!


(だって、この学校が用意してくれる女性用下着って全部勝負用なんだもん!)


 この学校では食費は毎月支給されるし、制服から下着、果ては日用品まで全て無料で用意される。まあ、もちろん、限度額は設定されているが、自分でカタログから選んだり、カタログにないものを特注で発注したりすることが可能だ。


 でも、その中の女性用下着には地味なものや無難なものがない。少ないのではなく、本当に最初からない。最初は『誰得だよこんなの!』と叫んでいたが、たぶん異種族交配のためだろう。自分に似合わないフリルをふんだんにあしらったデザインが頭の隅をよぎり、げんなりする。


(まさか履かないわけにもいかないしな……)


「それじゃあ、今日の伝承学の講義を始める。まあ、ちょーと見慣れない顔もいるようだけど、いろんなことに興味を持つことは良いことだし、先生からは何も言わないでおくな。ああ、ただし、無事に卒業したいなら【手続き】だけはしっかりするようにってことだけは言っておくぞ」


 ハティ先生の黄色がかった瞳が、ちらりと私の隣――フェル様に視線を送る。


(ああ、やっぱり単位の話かな? 履修登録してないと伝承学の単位も出ないもんね……)


 未だに足をどけてくれていない彼はいつもの可愛らしい顔をしていたが、片眉が少し上がっているのが分かる。


(うっわ、これは不機嫌の時の合図だよ! まだレベル1くらいの合図だけど、フェル様、めっちゃ不機嫌になってるよ!)


 彼は誰かに指図されることを嫌う。空気は少々ピリッとしたが、彼は表情を崩さない。一瞬だけ彼の太ももの筋肉が強張り、私に絡められていた足がスッと離れていく。


(へぇ……意外と筋肉ついてるんだ)


 思わず、ジッと彼の体を見つめると、彼はフッといつもゲームの画面越しに見ていた意地悪な笑みを浮かべた。正直、邪悪な笑みなのだが、いつもの偽りの笑顔ではないその表情に、思わず心臓がキュッとなり、頬が熱くなってしまう。


(クッ――画面越し以上にゲス可愛い!)


 私の様子に少々怯んだのか分からないが、彼は少し驚いたような顔をしていた。


(あ、ヤバイ――ここ、ゲームの画面越しじゃなかったわ。必要以上に関わるんじゃない、自分!)


 心に固く誓い、私は左の席に座る彼の存在を頭から消し、ハティ先生の授業に集中することにしたのだった。


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