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お助けキャラは変態ストーカー!?  作者: 雪音鈴
XX サブイベントep1 XX
33/55

XX 28 XX 変態傘はお断り


(私の心の平穏のためにそれ以上近づかないでえええぇぇぇぇ!!!)


 差し出していたフォークを持ち前の怪力で投げ飛ばそうとした瞬間、グイッと横に引っ張られる。


「!!!???!?」


 力が思うように出せなかったことへの動揺から、私は目を白黒させながら彼の流れるような動作を見つめていた。彼はそんな私のことなどお構いなしにお肉を口の中へと運んだ。彼が食べているのはもちろん、私がさっきまで差し出してたお肉でして――


「むぐむぐむぐ」


「な、ななな」


 シアンが泣きそうな声をあげる中、お肉を食べている彼――シェロンは、私の手を包み込んだ状態のままモグモグと口を動かし続けている。口はまだフォークを銜えたままだ。行儀が悪い食べ方かもしれないが、そうしてお肉を食べ終わった彼はフォークから口を放し、自身の薄い唇をペロリと舐めた。


 シェロンの熱い手が離れ、近かった彼の顔も離れていく。サラリと私の手を掠めていった彼の細い金の髪からは、仄かにイチゴミルクの香りがした。


 しばしの間、彼の金色の瞳から目をそらせないでいると、私の手首を掴んでいたシアンが震えだした。


「な、何してるんだよ、この――う、ううぅぅぅぅ、変態!!!」


 溜めが長かったことから、咄嗟に罵倒が出てこなかったのであろうシアンにちょっとだけ可愛いなあなどと場違いなことを考えてしまったが、状況は一触即発。若干涙目のシアンに睨まれ、シェロンは面白そうに目を細めた。


「根暗がルチアを待たせるからだろう?」


「ま、まあ、シアン、まだお肉はあるから、ね? そうしょげないで? ほ、ほら」


 慌ててなだめようとするが、意識してしまったせいでもう一回同じように『はい、あーん』的なシチュエーションをすることができず、フォークを乗せた皿ごとシアンにあげる。そんな様子を上から見下ろしていたシェロンがニヤリと笑った。


「そのフォークは念入りに舐めておいたからな。今食べても俺との間接キスが待ってるだけだぞ、根暗」


「念入りに舐めたって――私の食欲落ちそうなこと言わないでよ!! って――シアン!?」


「ああ、大丈夫だよ、ルチアーノ。汚いモノは全部抹消しておいたから」


 フォークがシアンの手の中で毒々しい紫色の煙となって消えていくさまに冷や汗が流れる。


「え、ええと――ありが、とう?」


 曖昧に微笑むと、彼はニッコリと暗い笑みを返してくれた。


(……そのフォーク、一応学校の備品なんだけど――うん、見なかったことにしよう、そうしよう)


「えっと……」


 バチバチと火花を散らすシアンとシェロンに引きつった表情のまま、なんとかこの空気を変えようと話題を探す。


「そ、そういえばシェロン、いつの間にイチゴミルクまみれな状態から戻ったの?」


 近づけばわずかだがイチゴミルクの香りは漂ってくるが、あんなにびしょ濡れ状態だった彼はいつの間にか綺麗になっていた。ほんの一瞬の早業にちょっとした話題転換のはずが興味津々になってしまう。


「ん、ああ、布巾にかかってる魔力術式の応用みたいなものだよ。火属性の魔力は分子運動を操れるから多少乾いちゃってる部分もそれで浮かせて――あとは水属性の魔力で流体を操ってパパパーっと」


「パパパーって、そんな簡単に……」


 彼の席をチラリと見ると、白いカップの中にイチゴミルクが戻っていた。


「まあ、火属性が苦手な根暗には難しいだろうけどね」


「ぼ、ぼぼぼ、僕だって……練習すれば……き、きっと、そう、きっと、すぐ――できるように……」


 ボソボソと小さくなっていくか細いシアンの声に、シェロンはまるで勝ったとでも言わんばかりの清々しい表情……。


「シアン、気にしなくていいよ。私もできないし!」


 私はシアンを安心させるようにそう言い放ち、ちょっとだけ落ち込んだ。


(そもそも、魔力量の調整すら上手くできていないからね、私……)


「ルチアーノ……」


 シアンよりもマズイ状態の自分に心の中で遠い目をしながら、上目使いでこちらを見つめてきたシアンの頭をナデナデする。イスに座って背中を丸めている彼の頭がちょうどいい位置にきていたのでついつい手が伸びてしまったのだが、その柔らかい髪質に感動を覚えてしまう。


(わあ、シアンの髪、めっちゃフワフワ! 私のと大違いで羨ましい……私のは一本一本がしっかりしすぎでたまーに指に刺さるほどだからなあ――)


「えっと、あれ? え……? え!?」


 困惑と驚きの混じったシアンの声で思考が戻ってくる。


「あ、ああ、いきなり撫でてごめんね。とりあえずシアン、できるようになるために一緒に練習すれば問題ないよ!」


 私の言葉にハアハアと荒い息を吐き出しながらお隣の変態さんが距離を詰めてくる。


「ルチアは俺がいるから練習なんてしなくても大丈夫!! 雨が降ってる時は俺が傘になるし、濡れた時だって俺がいればタオルいらずで問題ないよ!!!」


「アンタがいなくちゃダメなところが問題だってば!!!」


 近づいてきた変態の顔面をグイッと押しやった瞬間、シアンの困ったようなツッコミが耳に届いた。


「――えっとね、ルチアーノ? そもそも変態さんが傘になるって言ってる時点でアウトじゃないかな?」


(…………シアンさん、ごもっともです。そもそも、傘になるって何!? どうする気だったの!?)


 思わずいらぬ想像までしてしまい、私は頭を振って一瞬だけ浮かんだシェロン傘のイメージ映像を振り払う。【土属性】は一度原子レベルに分解したモノを魔力を加えることで別のモノに変換できる【物質変形】を行える属性だから傘に化けることも可能だけど――さすがにそんな変態傘は使いたくない。


(雨に打たれているだけでハアハア言う傘なんて絶対嫌だ!!)


 ちなみに、新世校の先生や学生達が人の姿になっているのもこの属性の魔力が学校全体にかかっているおかげだ。それに、この属性には魔力を別のモノに変換できるという特性もあり、私達の魔力の本質を元に人型の姿が作られている。だからこそ、ここには一人として同じ外見の人型はない。まあ、双子とかはどうしても似ちゃうみたいだけど、指紋と同じように魔力の質は似てはいても完全に一致はしていないらしい。


「と、とにかくシアン、これから練習あるのみだね!!!」


 無理矢理そう言ってその話を流し、美味しい夕飯に戻る。少し冷めてしまった残りのお肉を新しいフォークで口に運びながら相変わらずいがみ合っている彼らの間でその味を堪能する。そうしてしばらく夕飯を楽しんでいると、ふいに性能の良い私の聴覚が遠くで話している学生の会話に反応した。


(あ、今日は情報収集できないと思ってたんだけど、できたんだ……)


 ゲーム内では夕飯時に情報が入手できるようになっており、それがバッドエンド回避に大きく貢献している。イベントが起きている最中の情報収集は出来なかったはずだが、今回のはイベントに入っていないのか、はたまたイベント時でも情報収集ができる仕様なのか……


(まあ、詳しいことは分からないけど、情報は命だからね。聞けるんならちゃんと聞いておこう)


 マイナス情報を拾ってしまわないか少し不安ではあるが、私はいつもの夕食時と同様にスルリと耳に入ってくる話に意識を集中させた。


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