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お助けキャラは変態ストーカー!?  作者: 雪音鈴
XX サブイベントep1 XX
32/55

XX 27 XX ドキ損なのは知っている


「ッ――本っっっ当に何してんのよ、シェロン!! 馬鹿なの!?」


 シェロンの額の傷はすでに塞がっていてスプラッタ的な光景の直視は避けられたが、頭からピンク色の液体を被ってハアハアと息を上げているシェロンを前に、こめかみが痛くなってくる。


 甘やかな香りを発するピンク色の液体からは白い湯気が立ち上っており、彼の恍惚とした表情も含めて心底気持ち悪いモノだった……。


(私、甘党な方だけど、初めて胸やけって言葉の意味が分かった気がする……てか、しばらくは大好きなイチゴミルクは飲めないかも――)


「俺もうっかりこぼしちゃって☆」


「いやいやいや、それ、うっかりレベルじゃ片付けられないくらいの被害だからな!?」


「ルチア、俺にも布巾――いや、なんなら君が舐めてくれてもガッ――」


「失せろ変態ッ――!!!」


 持っていた布巾を変態の顔に勢いよく叩きつけると、彼はそのままイスから転げ落ちた。肺から全ての空気を出してしまいそうなほど大きなため息をついた後、私は目の前に流れてきた分厚いビーフステーキが乗った皿へと手を伸ばす。


 獣人の里でも学食でも、食べ物は基本的に日本にいた頃と同じ物が多い。魔物という存在以外にも地球と同じ動物がこの世界に生息していたことがその原因のようだが、これには毎日感謝している。


「ああ、ルチア……その容赦ない鋭い攻撃に汚物を見るような視線、本当にいいね!!」


(…………スプラッタな光景見るよりも食欲失せた気がする)


 私に向けて熱い視線を投げかけてくる彼にげんなりしながらお皿をベルトコンベアから外に出すと、お皿に掛けられていた時間凍結の魔術式がサラリと解ける。その瞬間、お肉が焼けるジュウジュウという音が耳に届き、少し遅れて食欲をそそるスパイシーな香りが鼻孔をくすぐる。


 先程まで食欲がなくなりかけていたはずの私のお腹が、その香りに反応して元気な音を高らかに鳴らす。ジワリと口内に沸いた唾液を喉を鳴らして飲み込みながら、私はそっと手を合わせた。


(せっかくの美味しそうなご飯、楽しまなきゃ損だよね……うん、変態のアレコレは今に始まったことじゃないし、とりあえず今は脳内から抹消して――)


「いただきます!!」


 私の行動を見たシアンが慌てながら手を合わせ、私の真似をするように小声で「いただきます」と言ったのを目の端に捉えつつ、私は嬉々としてナイフとフォークを構えた。


 自慢じゃないがナイフ捌きはわりと得意だ。伊達に獣人の里で狩猟民族をやってはいない。まあ、ごくたまーに力加減を間違えて皿ごと切っちゃう(割っちゃう?)ことはあるけど……得意な方だ。


 ササッと一口サイズにカットしたお肉をフウフウと十分に冷ましてから口に放り込む。噛み締める度にほっぺが蕩けそうなほど美味しい肉汁がジュワリと溢れ出し、黒コショウをメインにした甘辛い味付けと絡み合う。一口食べ終えた私はハフーと満足げな息を吐いた。


(あああぁぁぁ、もう、めっちゃ美味しい!!)


 後から追加したホカホカのライスとお肉を次々に口へと入れて幸せを噛み締めていると、ふと右側から注がれる視線が気になり始めた。いつも注がれている妙に粘っこい視線とは違うなんとなーく温かみを感じる視線に、徐々に落ち着かない気分になってくる。


 空腹がある程度収まったせいか、一度気付いてしまったせいかはさだかではないけど――ニコニコと見つめてくるシアンの優しい眼差しがずっとこちらから外れないのが非常に気になる……。


(正直、少し食べづらいのですが?)


「えっと……シアンも遠慮せずに食べてね?」


「あ、うん。ちゃんと食べてるよ?」


 そういうシアンの目の前にある魚の煮つけが乗った皿には、ほとんど手が付いていない。


(美味しくなかったのかな……それとも、やっぱり人魚なのに魚だと共食――)


「そ、その……ルチアーノ、おいしい?」


「え、ああ、うん! めっちゃおいしいよ!!」


 一瞬だけ頭をよぎった【共食い】というワードを脳内から掻き消し、困ったような照れたような顔で美味しいかと聞いてくる彼に満面の笑みを返す。


「そっか、良かった」


 頬を染めてそう言った彼は、相変わらず私の食べている様子を見続けている。


(……なんだろう、なんか居心地が悪――)


 むず痒い視線に変な汗を額にかきつつモグモグと口を動かしていた時、私は唐突に閃いた。


「ごめん、シアン! すぐに気付かなくって!」


「???」


 小首を傾げるシアンを横目に見ながら、私は慌ててお肉を一口サイズに切り、フウフウと冷ます。


「はい! シアンも食べたかったんだよね!!」


 フォークの先に刺さったお肉をシアンの方に差し出すと、彼は目をパチクリさせた後、ボンッと音がなりそうなほど急激に顔が真っ赤になった。


「あ、う、へ!?」


 シアンが意味不明な言葉を発したことで、私まで頭の中がパニックになり始める。


(違った!? え、どどど、どうしよう!? 間違えた!? 私間違ったっぽい!? あ、そもそも、これ『はい、あーん』的なアレなのか!? ドキドキイベント的な!? そ、そそそれは確かにマズイのでは!? 獣人の里だとしょっちゅう食べ物分け合ってたからついやっちゃったんだけど!?)


「ご、ごごごめんね! さすがに私が口付けた後のは抵抗あるよね!!!」


 私が慌てて手を引っ込めようとすると、シアンがバッと私の手首を捕えた。


(ッ――び、びっくりしたあ……)


 意外と強い力で捕まえられたせいで、心臓が早鐘を打っている。


「い、いや、ル、ルルル、ルチアーノが気にしないなら、全然だい、だいじょ、ぶ――」


 突然の行動に気を取られて思考が一瞬追いつかなかったが、どうやらシアンは頑張って食べてくれるらしい。意外に近い真っ赤なシアンの顔と真っ直ぐに私を見つめてくる瑠璃色の瞳に、私の頬も真っ赤に染まってるような気がする。


(な、なんか、変な汗出てきたんですけど!? ――てか、このパターン知ってる! 知ってます!! どうせドキドキしても、シアンはただ友達はこうあるべきとかそんな勘違いしてて、私は『私のドキドキ返せ!!』的なシチュエーションのヤツでしょ!? だからドキドキしても損するだけというか! そう!! ドキ損なんすよ、私の心臓!!! だから止まって! いや、止まっちゃダメだ! 私死んじゃう!?)


 大混乱の中、シアンの顔が近づく。フォークに近づかなければお肉を食べれないのは分かってるけど――


(私の心の平穏のためにそれ以上近づかないでえええぇぇぇぇ!!!)







★☆★☆★






いつの間にか総評が500ptを超えていて驚きました!!

ブクマ、評価、応援、本当に本当にありがとうございます(*^_^*)


まだまだ執筆したいことが山積み&執筆技術が足りない身ではありますが、皆様のおかげで忙しい中でも、なんとか執筆を続けていこうと思えています。


執筆速度が遅いこともあり、読者の皆様にいつ見捨てられてしまうのかとヒヤヒヤしておりますが、少しずつ執筆ペースを戻していきたいと思っているので、今後も引き続きよろしくお願いします!!






★☆★☆★






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